④②
「ディアンヌ、疲れていないか?」
「わたしは大丈夫です。慣れてますから」
「ピーターのあんなに楽しそうな姿は初めて見た」
「元気になってよかったですね」
昼と夜はお腹いっぱい食事を摂って、思いきり体を動かしたことでピーターも満足したのかもしれない。
少しずつではあるが前に進めたような気がして安心していた。
「……ディアンヌのおかげだ」
リュドヴィックの言葉にディアンヌは笑みを浮かべた。
彼にはメリーティー男爵家を助けてもらっている。
ディアンヌもこうしてピーターと過ごす時間は楽しいと感じていた。
何よりピーターは天使のように可愛らしい。眼福である。
「わたしもリュドヴィック様のお役に立てたら嬉しいです」
「……!」
「助けてくださってありがとうございます」
そう言うと、リュドヴィックはスッと視線を逸らしてしまう。
ディアンヌが笑顔のままで固まっていると、彼の耳がほんのりと色づいているのが見えた。
(リュドヴィック様、どうしたのかしら?)
ディアンヌはリュドヴィックの行動にどんな意味があるのか考えていると……。
「今更言うのも変だが……結婚相手が君でよかったと思う」
「え……?」
ディアンヌが驚いているとリュドヴィックから目と視線が絡む。
そのまま彼と見つめ合ったまま動けないでいた。
透き通るようなロイヤルブルーの瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
(今、リュドヴィック様が……結婚相手がわたしでよかったと言ってくださったの?)
ディアンヌが言葉の意味を理解できるのと同時に、ディアンヌの頬が赤く染まっていく。
「あ、あの……それは」
「いや……深い意味はないんだ」
「わ、わかってます!」
二人で辻褄の合わない会話をしつつ、ディアンヌは何度も頷いていた。
居た堪れなくなったディアンヌはあることを提案する。
「明日も早いですし、部屋に戻りましょう!」
「……あ、あぁ」
「リュドヴィック様もお疲れでしょうから」
部屋に戻ろうという話になり二人で長い廊下を移動していたのだが、ここでディアンヌはあることに気づく。
(寝室…………同じだったんだわ)
寝室に到着してから中に入れないでいるディアンヌ。
今日に限って、事情を知るマリアやエヴァはピーターのところに行ってしまった。
契約結婚だと知らない侍女たちが、期待のこもった眼差しをこちらに向けている。
結婚したということは、ディアンヌたちにとっては今夜が初夜ということになるからだ。
(マリアさん……早く帰ってきて!)
リュドヴィックが咄嗟に書斎に向かおうとするものの、侍女たちに阻まれてしまう。
ディアンヌも侍女たちに促されるまま浴室へと向かう。
ピーターと遊んだことで土だらけの体を綺麗にしてから寝室に戻ると、そこにはガウンを着ながらソファに座るリュドヴィックの姿があった。
リュドヴィックはこちらに気づくと、スッと視線を逸らす。
しかし初夜ではあるが契約結婚だ。
リュドヴィックは「愛することはない」と言っていた。
ならばディアンヌにできることは一つだけ。
(これはリュドヴィック様を労わるチャンスなのではないかしら……!)
ディアンヌは二週間、働き通しで顔色が悪いリュドヴィックに休んでほしいと思っていた。
(ゆっくりと体を休めるのも大切だわ……!)
それにリュドヴィックに『ディアンヌのおかげだ』と褒められたばかりだ。
ディアンヌは彼の役に立ちたい。
「わたしがソファで寝ますから、リュドヴィック様はベッドでゆっくりと休んでください!」
「いや……ディアンヌがベッドを使ってくれ。いつもこうして寝ているから気にしなくていい」