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③④


「遅くなってすまない」


「え……?」


「陛下に怒られた。結婚したばかりなのに二週間も妻を放置するなど何事かと」


「……そうなのですか?」


「それにピーターのことも……」


ディアンヌはリュドヴィックの言葉を聞いて、何も返す言葉が見つからなかった。

この二週間、今までの遅れを取り戻すように城にこもりきって仕事をしていたらしい。

よく見るとリュドヴィックの顔色は更に悪くなっており、疲れているように見えた。

気まずいのか瞼を伏せる彼にディアンヌは声を掛ける。



「わたしのことは気にしなくても大丈夫です。それよりもメリーティー男爵領のこと、本当にありがとうございました」


「……!」


「荷物と一緒に手紙が届いたんです。皆が安心して暮らせるようになったみたいで嬉しくて……」



ディアンヌの笑顔を見て、リュドヴィックはわずかに目を見開く。



「エヴァたちから手紙で様子は聞いていた。ピーターのために色々とありがとう」



どうやらリュドヴィックは城にいる間も、エヴァや執事たちからピーターやディアンヌの様子を聞いていたようだ。

もし二人がうまくいかなければ屋敷に帰ろうと思っていたらしい。

特に問題もなかったため、仕事をこなしていたが、ロウナリー国王に怒られて帰宅したのだそう。

ディアンヌやピーターのことをよく考えろと、追い出されるようにしてここにきたそうだ。


リュドヴィックの気遣いに感謝しつつ、ディアンヌは最近のピーターの様子を話していく。

そして足が完全に治ったので、これでピーターと外で遊べると喜んでいることを話した時だった。



「どうして君はそんなにまっすぐなんだ?」

 


リュドヴィックの言葉にディアンヌは反射的に答えた。



「家族なんですから、助け合うのは当然ですよ!」


「……!」



暫く二人の間に無言が続く。

何も言わないままじっとディアンヌを見るリュドヴィックを見て、自分が言った言葉の意味を考えてハッとした。


(まだ二週間しか経っていないのに図々しかったかしら……!)


ディアンヌは自分の失態に気づいて慌てて口を開く。



「あっ……契約結婚ですけど、自分のやれることはやりたいというか、助けになりたくて!」


「……」


「わたしもメリーティー男爵家もリュドヴィック様に助けていただいてますし……」



居た堪れなくなり人差し指を合わせつつ、リュドヴィックを上目遣いで見上げる。

するとリュドヴィックは額を手のひらで押さえてしまった。

気に障ってしまっただろうかと様子を窺っていると、次第にクツクツと鳴る喉。

笑っているのだと気がついて、ディアンヌが混乱していた時だった。



「君のような女性は初めて見た」


「……え?」


「ありがとう……そう言ってもらえて嬉しい」



髪を掻き上げつつも口角を上げて笑うリュドヴィックにディアンヌはキュンとしてしまう。


(リュドヴィック様、圧倒的に顔がいい……!)


アイドルを間近で見ているような高揚感にドキドキする胸を押さえた。

再び、二人の間に沈黙が流れる。

ディアンヌは何を話したらいいかわからずに、ソワソワしていた。

何故ならリュドヴィックと一緒に過ごした時間はまだ僅かしかないからだ。


(わたしは、まだリュドヴィック様のことを何も知らないものね……)


意を決してリュドヴィックに話しかけようとした時だった。

急に肩に感じる重み。

ディアンヌが少しだけ視線をずらすと、リュドヴィックのシルバーグレーの髪が見えたような気がした。

肌に触れる髪がくすぐったい。

次第にズンと肩に重みを感じていき、静かな寝息が聞こえてくる。


(ま、まさか……! リュドヴィック様は寝てる?)


隙がない雰囲気だったリュドヴィックだが、ディアンヌの隣で眠っていることに驚いていた。

紅茶のおかわりを持ってきたマリアに助けて欲しいと視線を送る。

リュドヴィックを起こしてはいけないと静かにアピールする。

しかしマリアは嬉しそうに口元を押さえると、にこやかに笑いながら去っていってしまった。


(マリア、どうして……!?)


隣にチラリと視線を送ると端正な顔立ちが見える。

ドキドキする心臓を押さえつつ、ディアンヌはリュドヴィックが目を覚ますのを待っていた。

窓から差し込む温かい光と満腹になり、紅茶で体が温まったこともあって、ディアンヌも眠気が襲う。

リュドヴィックに寄りかかるようにしてディアンヌは目を閉じた。


(あたたかい……)


隣から感じる温もり。幸せな気持ちのままディアンヌは目を閉じた。


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