③⓪
ディアンヌがそう言うと、二人は顔を見合わせて困惑しているように見えた。
「どうかしましたか?」
「実は……ディアンヌ様が来る前は誰にも懐かずに手がつけられなくて」
「え……?」
どうやらディアンヌが思っているピーターの印象と、二人が今まで見てきたピーターの印象は真逆なのだそう。
よく屋敷の人たちを困らせては悪戯したり、外に逃げ出してしまう。
そういえばディアンヌと出会った時も彼は一人でリュドヴィックを探していた。
「リュドヴィック様には、どんな感じなのですか?」
「リュドヴィック様とは父親というよりは友達のような感じですかね」
「ディアンヌ様は特別な感じがしますわ。甘えたり母親や姉のように思っているのでしょうね」
ディアンヌはピーターの話や問題行動について、じっくりと考えていた。
マリアに髪を整えてもらい、足の包帯を替えてもらう。
二人が部屋から出て行き一人の時間になる。
ディアンヌはピーターのことについて考えていた。
(わたしに何ができるのかしら。ピーターもきっと何か理由があって、こんな行動をしているのよね……)
しかし考えてばかりでは進めない。
とりあえずやれることからやってみようと、ディアンヌはメリーティー男爵家に向けて手紙を書いた。
その次の日、ディアンヌの元にはリュドヴィックからの手紙も届く。
連日、城に出かけていたが、さらに今日から一週間ほど城に滞在して仕事をこなすそうだ。
どうやら今まで溜めていた仕事をこなさなければならず、大変らしい。
(リュドヴィック様の代わりに、わたしががんばらないと……!)
それから一週間が経とうとしていた。
リュドヴィックは相変わらず忙しそうで、結婚の手続きを終えてから一度も顔を合わせていない。
パーティーから二週間経つと、擦り傷も捻挫もすっかりよくなり、元通りに歩けるようになる。
やはり自分でどこにでも行けるのは最高の気分だった。
メリーティー男爵家から届いた荷物を持って、ディアンヌは気合い十分だ。
(よし、これでピーターを元気づけましょう!)
一緒に添えられていた手紙では、リュドヴィックと王家のおかげで没落しなくて済みそうだということ。
領民たちと協力して、生き残った木を育てたり、新しく苗を買い立て直していくそうだ。
ロアンからの手紙では感謝の気持ちが綴られていた。
ライやルイやレイたちは文字を学んで、たどたどしい字ではあるが、ディアンヌへの気持ちが書かれていた。
(みんながんばってる……わたしもできることをしましょう!)
ディアンヌはピーターと時間を過ごしながら、彼の気持ちに寄り添おうと努力していた。
次第に少しずつではあるが、見えない部分が浮き彫りなっていく。
一番大切な人を亡くしてしまい、まったく違う環境で過ごすことになる。
人はたくさんいるが疎外感は消えないまま、不安だけは大きくなっていく。
だからこそリュドヴィックに縋ろうとしていたのかもしれない。
ディアンヌもこの二週間で環境の変化についていくのに必死だった。
自分のことは自分でしていたのに、ここでは人にやってもらうことが当然なのだ。
今までの当たり前が当たり前じゃない。
ディアンヌでも大きな違和感を感じるのだから、子供のピーターの戸惑いはもっと大きいものだったろう。
ピーターもディアンヌと自分が同じ状況でいることを薄々勘づいているのかもしれない。
小さいながらもディアンヌを助けようと動いてくれるのがわかる。
部屋の場所を教えてくれたり、必要なモノをマリアと一緒に持ってきてくれたりした。