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②⑨

そして足も動かせるほどよくなり、ベルトルテ公爵邸に来て、初めてピーターと共に夕食を一緒にしていた時だった。

心配そうにこちらを見ている料理人や給仕たちを見てディアンヌは不思議に思っていた。


(……どうしたのかしら)


目の前のテーブルに並べられていく豪華な料理の数々を見てディアンヌは目を輝かせていた。

豪華な料理はメリーティー男爵領でも食べることはできなかった。

前世でもギリギリの生活だったため、縁がなかった。

まるで夢でも見ているようだ。よだれが止まらない。

ディアンヌが喜んでいるのとは違い、何故かピーターは浮かない顔をしている。

そして料理がテーブルいっぱいに並べられる。

ピーターは料理に手をつけることなく、すべて残してしまっているではないか。

今もちびちびとスープを飲んでいるだけ。

ディアンヌはピーターのことが気になり問いかける。



「ピーターはこの中に嫌いなものがあるの?」


「……ううん、違うよ」



ピーターは首を横に振る。

そしてパンを半分だけ食べていた。


(偏食……というのとは、少し違うような気がする)


ピーターは美しく飾り付けられたデザートにも手をつけることもない。

というよりは、ディアンヌが食べ終わるまで待っているようにも見えた。



「ねぇディアンヌ、本を読んで!」


「えぇ、もちろん」


「ボク、部屋から持ってくるね」



ピーターはそのままディアンヌに読んでもらいたいと絵本を持ちに向かった。

その間にエヴァとマリアに話を聞くと、どうやらベルトルテ公爵邸に来てから、あまり料理を口にしないのだそうだ。



「まったく食べないのですか?」


「「……ディアンヌ様」」


「あっ……! ま、まったく食べないの?」



リュドヴィックと結婚したことで、ディアンヌは公爵夫人となる。

二人には少しずつ、そういう風に振る舞うようにこうして指導を受けている。



「やはり大切な人を亡くしたのだから当然、落ち込んでいると思っていたのですが……」


「最近になってもあまり食べないのです。好き嫌いがあるわけではないと思いますが、料理人たちも困り果てていて……」



ピーターがベルトルテ公爵邸に来て一カ月以上経つ。

色々な試行錯誤をしてみても、ピーターの食事量はまったく変わらないままなのだそうだ。

食べるように言うがピーターは首を横に振り、黙り込んでしまう。

「お母さんの料理が食べたい」と言ったこともあるようだが、それも一度だけ。

何を食べていたか説明を求めたが、幼いピーターの言葉は抽象的でわからなかったそうだ。

無理やり聞き出そうとした影響か、それ以上は何も言わなくなってしまったらしい。


(そういえばピーターは五歳よね? うちの弟たちに比べるとたしかに小さい気が……)


個人差はあるだろうがディアンヌはピーターの体が軽く、手足が細いことが気になっていた。

ロイたちに比べてしまうと、尚更そう思うのかもしれない。

それにディアンヌは「お母さんの料理」と言ったことが引っかかっていた。

そしてピーターがいたであろう境遇を想像する。


そんなタイミングで何冊も本を持ったピーターが帰ってくる。

ピーターはディアンヌにベッタリとくっついて離れない。

手を繋いで部屋を移動していく。



「どうしてピーターはわたしとたくさん遊んでくれるの?」


「うーん……」



ピーターに理由を聞いても、うまく言葉にできないのか「ディアンヌはディアンヌだから」とよくわからない返答が返ってきた。


ディアンヌは今はできることをしようとピーターと彼と遊んでいた。

いつの間にか、リュドヴィックとディアンヌの寝室にはピーターが持ってきたもので、いっぱいになっていく。

ディアンヌがうまく動けないので仕方ないのだが、彼は遊び疲れてぐっすりと眠ってしまうことがほとんどだ。

エヴァや侍従たちに運ばれていくピーターをディアンヌは見送りながら考えていた。


(元気に見えるけど、何かが……)


するとマリアが温かい紅茶を出してくれる。

マリアと共にエヴァも寝室に入り、ディアンヌに言葉をかけてくれた。

どうやらピーターが毎日、問題を起こすことなく元気に過ごせていることが嬉しいようだ。



「あんなに楽しそうなピーター様は久しぶりに見ました。ディアンヌ様、ありがとうございます」


「わたしも楽しかったわ! ピーターはとても聞き分けがよくてとてもいい子ね」


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