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②⑥


「丁度、一週間後からロウナリー国王陛下と共に大切な会合に参加しなければならないんだ……」



どうやらその会合にもピーターはついてくるつもりでいたそうだ。

恐らく彼は貴族として育っていない。

ピーターは母親と共に寝たり、食事をしたりするのが当然だと思っている。

故に親となったリュドヴィックにそれを求めている。

貴族としての勉強も始めようとしたものの、母親を亡くしたばかりの彼には酷だとまだ色々と準備段階なのだそうだ。


ピーターは誰にも心を許しているわけではないらしい。

リュドヴィックは宰相の仕事で朝から晩まで忙しいそうだ。

だが、ピーターは無理やりついてきてしまうため、昨日のように迷子になることもしばしば。

正式に公子である彼に意見できるものは少ない。

彼が懐くディアンヌが現れたことは、リュドヴィックにとっては天の助けに思えたようだ。

それほどにありがたいことだったのだろう。



「今回のパーティーとは違い、一週間後の会合は国外からの来賓も多い。ロウナリー王国として絶対にミスはできないんだ」


「そういうことならわかりました。わたしがピーター様のお世話係になります!」


「……ありがとう、ディアンヌ嬢。助かる」



これは心からの言葉だと思った。

リュドヴィックの深い隈は、ピーターと向き合おうとした努力のあとなのだろうか。

それに契約結婚ということは、表向きには夫婦になるということだ。

夫婦と意識すると、なんだか恥ずかしいような気もするが、ディアンヌはそんな考えをかき消すように口を開く。



「リュドヴィック様、わたしのことはディアンヌとお呼びくださいませ」


「……!」


「これから夫婦になるのですから、砕けた呼び方の方がいいと思うのです。契約と言えど周りから怪しまれすぎるのもよくないと思いますから」


「それもそうだな」



リュドヴィックは顎に手を当てながら頷いた。



「わたしも精一杯がんばりますね。リュドヴィック様、よろしくお願いします」


「こちらこそよろしく頼む。ディアンヌ」



こうしてディアンヌとリュドヴィックは握手を交わした。

この一件は社交界に大激震が走ることになるとも知らずに、ディアンヌは安心感と満足感でいっぱいになっていたのだった。


リュドヴィックは昨晩から準備をしていたそうで、様々な手続きをスムーズに行なってくれた。

幸いメリーティー男爵領とベルトルテ公爵家は隣同士。

ベルトルテ公爵家から王都も近く、連絡は取りやすかったため、すぐに結婚の手続きは済むだろうと彼は言った。


メリーティー男爵領のことも一安心だと思い、ディアンヌは両親やロアン、ライとルイとレイに手紙を書いた。

王都に行ったっきり、何の連絡もないと心配するだろうと思ったからだ。

それをリュドヴィックの書類と一緒に同封してもらった。


ディアンヌとリュドヴィックの結婚により、ベルトルテ公爵からメリーティー男爵家への金銭的援助が入る。

ロウナリー国王からもこれから生まれてくる子どもにフルーツを食べさせたいという理由で援助を受けられることになる。


(わたし……あの絶望的な状況からよくここまで持ってこれたわね)


記憶が戻ったといえ、自分の豪運には驚いてしまう。

ディアンヌとリュドヴィックの結婚はベルトルテ公爵邸で働く人たちにも伝わるが、困惑しているといった様子だった。


(男爵令嬢がベルトルテ公爵家に嫁ぐなんて大丈夫なのかしら……)


リュドヴィックに前公爵たちが許したのかと聞いてみるものの、彼は眉を顰めてしまう。


「あの人たちは関係ない」


「え……?」


「彼らに口を出させるつもりはない。安心していい」


「…………はい」



リュドヴィックは元々結婚するつもりがまったくなかったこともあり、男爵令嬢でもしない方がマシだと思っているということだろうか。


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