②④
リュドヴィックは執事にあるものを持ってくるように頼む。
そして文字が書かれた紙を渡される。
そこには結婚についての内容が事細かに書かれていた。
(これは……結婚というより契約なのかしら)
一通り目を通したディアンヌが顔を上げると、リュドヴィックと目が合った。
彼はディアンヌが資料を読み終わったのだと察したのか、淡々と説明する。
「メリーティー男爵家の状況は把握している。これで十分なはずだが、他にも条件があれば教えてくれ」
リュドヴィックと結婚している間は、メリーティー男爵家を援助してくれること。
そこには今まで見たことがないような十分すぎる金額が書かれている。
ロウナリー国王もメリーティー男爵領のフルーツを所望とあり、王家からの支援も盛り込まれていた。
(これでロアンを王立学園に通わせることができる! ライもルイもレイも食べるのに困らないし、領民たちのことも守っていけるのね……!)
ディアンヌがパーティーに行く前に望んでいた、すべての条件が書かれている。
まさに理想通りといえるだろう。
それからリュドヴィック側の条件は特定の最低限ではあるが社交の場に同席してほしいこと。
それと一緒にピーターを育ててほしいと書かれている。
(こ、これだけでいいのかしら……!)
願ってもない好条件にディアンヌはゴクリと喉を鳴らしながら目を輝かせた。
その様子を見ていたリュドヴィックはディアンヌにこう告げた。
「お互いを助け合う契約結婚とするのはどうだろうか?」
リュドヴィックの言葉にディアンヌは大きく目を見開いた。
「──よろしくお願いしますっ!」
ディアンヌは間髪容れずに、その申し出を了承したのだった。
床に頭がつくほどに勢いよく頭を下げた。
「リュドヴィック様、ありがとうございます……!」
「ふっ……ははっ」
リュドヴィックのフッと息を漏らすような笑い声が聞こえて、ディアンヌは顔を上げる。
(リュドヴィック様はこんな表情もするのね……意外だわ)
ずっと冷たい印象だったが、今は少しだけ表情が柔らかい。
リュドヴィックは今から早馬でメリーティー男爵やロウナリー国王に手紙を送るそうだ。
(リュドヴィック様、仕事が早いわ……)
リュドヴィックの端正な顔立ちを見つめながら感心していた。
自分も彼のために役に立たなければと決意する。
ふと窓ガラスに映るリュドヴィックと自分を見ると明らかに使用人と貴族、といった感じだ。
客観的に見ても可愛らしい令嬢のディアンヌではあるが、リュドヴィックの高貴さと周囲を圧倒する美しさには敵わない。
家柄や身なりからして釣り合うのかと不安があったディアンヌは、リュドヴィックに問いかける。
「リュドヴィック様は本当にわたしで大丈夫なのですか? 何も取り柄もないですし、家柄も……」
「そんな些細なこと気にしなくていい」
「ですが、リュドヴィック様には、もっと相応しい相手がいそうですが」
「私は元々、結婚するつもりはなかったんだ」
リュドヴィックはどうも女性に苦手意識があり、今まで婚約者もいたことがないらしい。
言い寄ってくる令嬢たちは数知れず……。
歩み寄る努力をするが、リュドヴィックの性格もあり、最終的にはどんどんと執着してくるようになってしまうそうだ。
『もっとわたしを愛して!』『わたくしだけを見てくださいませ!』『私しか見えないようにしてあげる』
時には刃物を持って迫ってくることも、監禁されそうになったこともあったそうだ。
リュドヴィックに近づく者を蹴落とし合い、トラブルに巻き込まれてばかり。
過激な方法でアピールしてくる女性たちに嫌気が差していたそう。
だが、この容姿で頭もいいとなれば納得する部分も多い。
どうやら女性にモテすぎるのも大変なようだ。