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②②


マリア、という名前もアンジェリーナがつけてくれたそうだ。

アンジェリーナを一人で行かせてしまったことを今でも後悔していると語った。

そして彼女がいつ帰ってきてもいいようにと、侍女長にまで登り詰めたらしい。マリアは泣きそうになりながらもそう語った。

この若さで侍女長を任せられるくらいだ。マリアの努力を窺える。

彼女の悲しみに寄り添おうとディアンヌはマリアの手を握る。



「アンジェリーナ様はマリアさんのことが大好きだったんでしょうね」


「え……?」


「大切だからこそだと、わたしは思います。家族を守ろうとする気持ちはよくわかりますから」


「……っ、ありがとうございます。ディアンヌ様」



マリアは目に涙を浮かべながら微笑む。

そして彼女の息子であるピーターを守りたいと思っているそうだ。



「それにディアンヌ様とアンジェリーナ様は雰囲気や性格がよく似ている気がします」


「わたしがですか?」


「えぇ、だからピーター様がディアンヌ様のそばを離れないのだと思います。私もディアンヌ様を見ているとアンジェリーナ様を見ているようで懐かしく思いますわ」


「…………マリアさん」


「アンジェリーナ様は人のために動けるとても優しい方でした」



マリアが涙を拭い、にこやかに笑った時だった。



「──ディアンヌッ!」



遠くからディアンヌを呼ぶ声が聞こえたような気がした。

気のせいだと思っていたが、小さな足音と扉を開け閉めする音が徐々にこちらに近づいてくる。



「ディアンヌ、どこにいるの? ディアンヌ……ッ!」


「お待ちください、ピーター様っ」



どうやらピーターがディアンヌを呼びながら、廊下で叫んでいるようだ。

しかし、この足ではピーターの元に行けない。

ディアンヌはどうするべきか戸惑っていると、マリアが扉の外へ出る。



「ピーター様、ディアンヌ様はこちらのお部屋でおやすみになっておりますよ」



マリアの声に反応したのか、小さな足音がこちらに近づいてくる。

そして目を真っ赤に腫らしたピーターがディアンヌの元に突進してくる。



「ピーター?」


「──ディアンヌッ!」


「グフッ……!?」



腹部に食い込む小さな頭にディアンヌの口から蛙が潰れたような声が漏れる。

マリアの「きゃっ……!」と、叫ぶ声が聞こえたような気がした。

ディアンヌは勢いのまま後ろに倒れ込んでしまう。



「よかった……ディアンヌがいなくなったかと思った!」



ぐりぐりと食い込んでいく頭に叫び声も出ないまま、ディアンヌが苦しんでいると……。



「ピーターッ!」


「あ、リュドだ……!」



名前を呼ばれたピーターは顔を上げてリュドヴィックを見る。

ピーターは昨日と同じように、ディアンヌにぴったりと体を寄せたまま動かない。



「やはりここか。ディアンヌは怪我をしているんだ。もう少し休ませて……」


「じゃあ、ボクも休む……!」


「……ピーター」



ディアンヌはリュドヴィックの声がしたため、起きあがろうとするもののピーターの重みで体を起こせない。

腹部にはピーターの頭や腕が食い込んでいく。



「ピーター、ディアンヌと話があるから離れてくれ」


「嫌だ! ボクはディアンヌと一緒にいる」



まるでどこにも行かせないと言わんばかりに、ピーターの力が強まる。



「……ピーター、いい加減にしろ」



リュドヴィックは深いため息を吐く。

ディアンヌは腹筋を使い、ピーターを抱えながら起き上がるが、ここであることに気づく。

リュドヴィックの目の下にはまだ深い隈があった。


(リュドヴィック様、眠れなかったのかしら……)


ディアンヌがそう考えていると、ピーターのディアンヌの寝巻きを掴む手がわずかに震えている。

しかしリュドヴィックは苛立っているのか、口調は荒くなっていく。


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