①④
(お父様もお母様もきっと喜ぶわ……!ロアンも王立学園に通えるし、ライとルイとレイにもたくさんご飯を食べさせてあげられる……!)
話がまとまり、ディアンヌが心の中で大喜びしていた時だった。
リュドヴィックは「すまなかった」と言って、ピーターを引き剥がそうとするが、まったく離れる様子はない。
エヴァも優しく声を掛けながら、ピーターを抱き抱えようとする。
しかし「うーん」と、唸りながらもディアンヌのドレスを力いっぱい握りしめているせいか、ドレスの生地が伸びてしまい断念する。
何度挑戦しても同じで、ピーターはディアンヌから離れようとしない。
「それにしても、ピーターがここまで懐くのは珍しいな。今日、彼女とピーターは初対面なのだろう?」
「……はい」
「うむ……」
ロウナリー国王はディアンヌとリュドヴィックを交互に見ながら顎に手を当てて考えているようだ。
「ディアンヌは、このパーティーで結婚相手を探していたんだよな?」
「は、はい……! どうにかメリーティー男爵家を救いたいと思っておりました。今思うと相手方にメリットがないと思うので、厚かましい申し出でした。ですがこれしか思いつかなかったんです」
「なるほど」
自分が嫁ぐことでメリーティー男爵家を助けてもらえないかと思っていた。
貴族として生き残るための考えだったが、図々しい考えに今更ながら羞恥心を覚える。
それもロウナリー国王とリュドヴィックのおかげで解決して安心していた。
(そうなると結婚相手は、もう探さなくていいということなのかしら)
ディアンヌはこれから自分がこれからどうすべきかを考えていた。
「たしかべルトルテ公爵領とメリーティー男爵領は隣同士か」
「はい、そうです」
べルトルテ公爵領はメリーティー男爵領と隣同士ではあるが、公爵領は男爵領よりもずっと大きいことを思い出す。
ディアンヌはロウナリー国王がいまいち何が言いたいのかわからない。
しかし長年彼と共にいるリュドヴィックは、ロウナリー国王が何を言いたいのかわかったようだ。
リュドヴィックが、焦ったように唇を開いた時だった。
ロウナリー国王は満面の笑みを浮かべながらこう言った。
「リュド、ディアンヌと結婚するのはどうだ?」
「「……っ!?」」
その言葉を聞いたディアンヌは、口をあんぐりと開けた。
リュドヴィックは言葉を詰まらせながらも額を押さえている。
それから大きなため息を吐いた。
「陛下……思いつきで発言するのはやめてくださいと、いつも言っておりますよね?」
「思いつきではない。お前もいい年齢だし、この世界でこのままパートナーがいないのはどうかと思うぞ!」
「……!」
「このままではピーターに振り回され続けるだろう? そうなれば仕事にも支障が出る。実際、リュドの作業効率は落ちているではないか」
「…………」
「総合的に見ても妻がいた方がいい。それは自分が一番よくわかっているはずだ。俺はディアンヌとリュドの相性はいいと思う」
「急にまともなことを言うのはやめてください」
「愛する者がいる喜びをお前にも知ってほしいだけだ!」
ロウナリー国王とリュドヴィックの言い争いは徐々に激しくなっていく。
エヴァと顔を見合わせながら、二人のやりとりを見守っているとリュドヴィックと目が合う。
「陛下、ディアンヌ嬢の意見を聞かぬまま、決めるべきではないのではないでしょうか?」
「それは正論だ。だが、ディアンヌはその覚悟でこの場にきている。家族を救うためにな」
今更、どちらでもいいですとも言えずに、ディアンヌは口ごもるしかなかった。
「自らがここまで追い詰められているこの状況でピーターを救い、家族のために自らを犠牲にして動ける女性が社交界にはどのくらいいるのだろうな」
ロウナリー国王は余裕の表情でニヤリと唇を歪めている。
しかしリュドヴィックは眉を寄せている。
「リュドヴィック、本当にこのままでいいのか? 理想の女性を手放して後悔しないといえるか?」
「……」
「それにオレはお前の好みを誰よりも理解している自信があるからな!」
「…………うるさいです」