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98:20-5-D5

本日は二話更新になります。

こちらは二話目です。

「HPを確認!!」

 トロヘルの叫びが響き渡り、俺は慌てて自分のHPを確認する。

 HPの残りは……60%を切っていた。

 ただの一撃なのにだ。


「『癒しをもたらせ』!『力を和らげよ』!」

「助かる!」

 シアの魔法が発動し、俺の全身を黄色と緑の光が包み込む。

 そしてそれに合わせて、俺のHPも急速に回復し始める。


「グルアアアアァァアアアアァァァ!!」

 対する『狂戦士の鬼人の王』のHPは?

 あれだけ攻撃したにもかかわらず、70%近く残っていた。


「建て直すぞ!第二隊!」

「「「おうっ!」」」

 どうやら特性:バーサークと『狂戦士の鬼人の王』の相性はかなり良いようだった。

 こういう事態に備えて、最初に突撃しなかった面々が『狂戦士の鬼人の王』を抑えているのを確認しつつ、俺は心の中でそう思わずにはいられなかった。


「グルア!ウルグルアアァァ!」

「ぐおっ!?」

「タネット!」

「無理をするな!防御と足止めに徹しろ!」

 『狂戦士の鬼人の王』が金棒を振る度に、前線メンバーの数が減っていく。

 後衛メンバーからの攻撃は、使っている攻撃の関係から散発的な物になっている。

 だが、もうすぐだ。

 もうすぐで俺は戦線に復帰できる。

 そして俺以外にもシアの『癒しをもたらせ』を受けているプレイヤーがいるから、彼らも直に復帰できるはずだ。

 そうして俺は残りHPが80%を超えた所で……


「よしっ!」

 俺は再び突撃を敢行。

 『狂戦士の鬼人の王』に切りかかる。


「ふんっ!」

「グガッ?」

 だが『狂戦士の鬼人の王』のHPは殆ど減らない。

 これは……もしかしなくても防御力まで強化されているのか?


「ふんふんふんっ!」

「グギッ?」

 だがそれでもいい。

 囮として、この場に『狂戦士の鬼人の王』を足止めし続ければ、その間に後衛組が攻撃をしてくれる。

 俺はそう判断すると、『狂戦士の鬼人の王』に何度も切りかかる。


「ふはっ!ははっ!ははははは!!」

「グガッ、ガアアアァァァ!!」

 何度も何度も、己を奮い立たせるように笑みを浮かべつつ、斧と短剣を振るい続ける。

 『狂戦士の鬼人の王』に殴られても構わずに、回復をシアたち後衛に任せて殴り続ける。


「うわっ……」

「どっちがバーサークだよ……」

「だからお前は……」

 周りの言葉は聞こえない。

 と言うか気にしている余裕はない。

 先程から少しずつではあるが、『狂戦士の鬼人の王』が後衛組を気にするようなそぶりを見せ始めている。

 ここで少しでも攻撃の手を緩めれば、その時点で後衛組の方に『狂戦士の鬼人の王』は行ってしまうだろう。

 それはつまり、シアの下に『狂戦士の鬼人の王』が行ってしまうという事でもある。

 そのような事態は俺にとっては決して許容できることでは無かった。


「グルガ!ガアッ!グガッ!!」

「そら、そらっ!そらあっ!!」

 だから『狂戦士の鬼人の王』を殴り続ける。

 周りにいる他の前衛たちよりも更に激しく攻め立てる。

 金棒の一撃が直撃しないように身体を動かし、斧と短剣で捌き、受けるダメージとこちらの回復スピードを少しでも拮抗させる。


「グルガアアァァ!」

「ぐっ!?」

 『狂戦士の鬼人の王』が金棒を横薙ぎに振るい、俺は吹き飛ばされる。

 そうして俺の攻撃が途切れた為だろう。


「グウゥゥ……」

「「「っつ!?」」」

「いかん!」

 『狂戦士の鬼人の王』の視線が後衛組へと向けられる。

 そして一直線に突撃を開始する。


「くっ……」

 このままでは『狂戦士の鬼人の王』がシアの下に行ってしまう。

 そう考え、俺は立ち上がると直ぐに『狂戦士の鬼人の王』の背中に切りかかろうとする。

 だが『狂戦士の鬼人の王』のが速い。

 歩幅の差もあるが、敏捷力の差もあって追いつける気配が全くない。

 どうすればいい、俺がそう思った時だった。


「とっておきの見せ所だね。『アムレイ・アキュート』!」

「!?」

 シュヴァリエが『狂戦士の鬼人の王』の前に飛び出す。

 そして何かを呟く事で細剣を一度光らせると、今までの攻撃よりもはるかに鋭い突きを連続で繰り出し、『狂戦士の鬼人の王』の動きを止めて見せる。


「ぐっ……でもよしっ!」

 細剣の光が止むと同時にシュヴァリエの動きも止まる。


「させるかよ!」

「グ……ガバァ!?」

 それを見た『狂戦士の鬼人の王』は狙いをシュヴァリエに変更し、その場で金棒を振り下ろそうとする。

 だが、それよりも早く『狂戦士の鬼人の王』に追いついたトロヘルたちの攻撃と、後衛組の攻撃が炸裂、その動きを鈍らせる。

 そして後衛組の一人から、金棒の先端を狙って放たれた榴弾の爆発によって『狂戦士の鬼人の王』の体勢が幾らか崩れる。

 しかし、完全に崩すには至っていなかった。


「何処を向いていやがる」

 俺が『狂戦士の鬼人の王』の真後ろに辿り着いたのは、丁度『狂戦士の鬼人の王』が崩しかけた体勢を立て直しかけた時だった。


「こっちを向けよ鬼人の王。さもないと……」

 俺は歯をむき出しにした笑みを浮かべると、『狂戦士の鬼人の王』に語りかけながら、この一撃で終わらせるという想いを込めながら斧を振り上げる。


「ぶっ殺すぞ」

「っつ!?」

 そして俺が殺意を口にした瞬間。

 何処か怯えた表情の『狂戦士の鬼人の王』が慌てた様子で俺の方を振り返り、金棒を盾のようにして俺の斧を防ぐ。

 その姿はこの上なく隙だらけだった。


「全員、ありったけの攻撃をぶち込め!」

「グ……ガ……!?」

 故にトロヘルが一斉攻撃を叫び、全員が『狂戦士の鬼人の王』へと背中側から攻撃を仕掛ける。


「さて……」

 そして背後からの攻撃で態勢が崩れた『狂戦士の鬼人の王』の首に向けて俺は左手の棘刀・隠燕尾の刃を突き入れ……


「終わりだな」

 何処か唖然とした表情の『狂戦士の鬼人の王』の首を掻き切り、『狂戦士の鬼人の王』のHPを削り切った。

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