95:20-2-D2
本日は二話更新になります。
こちらは一話目です。
「ピピッ」
「ふむ、そうか」
『狂戦士の砂漠の塔』を探索すること数分。
トロヘルの小鳥型ホムンクルス、ヘジャが小さく鳴き声を上げる。
どうやら最初の敵が現れたらしい。
「未知の特性持ちが相手だ。十分に警戒しろ」
「クォンクォン」
鳴き声と共に現れたモンスターの名前は?
バーサークラクーンLv.9。
見た目としてはただの大型の狸だが、記憶が確かなら混乱攻撃を使ってくるモンスターの筈である。
なので本来ならば速攻で倒すべき相手だが……名前にもあるバーサークと言う特性の正体が分からないのが不気味である。
「では……」
と言うわけで、トロヘルの指示に従って特性の正体を見極めつつ戦う方針を決めて、その方針に従って戦闘を開始しようと思った時だった。
「いっくよー!」
「はっ!?」
「シュヴァリエ!?」
「おまっ!?」
「あっ!」
シュヴァリエが飛び出していた。
他のプレイヤーの倍はある敏捷力を全力で生かして、腰の細剣を抜いて、全速力でバーサークラクーンに向かって飛び出していた。
「クォォアアァァァァ!」
「当たらないよ!」
飛び出したシュヴァリエに対してバーサークラクーンは噛み付きを行おうとする。
が、シュヴァリエはこれを難なく避けると、反撃で細剣を突き刺し、バーサークラクーンのHPを少し削る。
どうやら早さに割り振っている分だけシュヴァリエの攻撃は火力が控えめらしい。
そして火力が控えめな為か、バーサークラクーンの動きもまるで止まっていない。
「グオオォォ……」
「んんっ?」
「って、感想を抱いている場合じゃねえ!」
俺はシュヴァリエの援護をするべく、急いで前の方に出ると、右手に持った斧を大きく振りかぶり、投擲。
「グォン!?」
俺の投げた斧に当たったバーサークラクーンはHPを減らすと同時にその動きも止める。
「『ペイン』!」
「グ……」
続けてシアの『ペイン』がバーサークラクーンに当たり、ペイン状態を相手に与える。
これでバーサークラクーンの動きは止まる。
誰もがそう思った時だった。
「クオオォォン!」
「えっ!?」
「コイツは……」
「ふうん……」
「ほう……」
バーサークラクーンがシアに向かって突進を始める。
ペイン状態であるにも関わらずだ。
だがそこまでだった。
「させないよ!」
「ふんっ!」
「グゲッ!?」
シュヴァリエの攻撃が背後から、俺の棘刀・隠燕尾による攻撃が前からバーサークラクーンに決まり、そのHPを削り切る。
「大勝利ー!」
そして戦闘が終わったところで俺は右腕を振り上げ……
「ふんっ!」
「あいだぁ!」
全力でシュヴァリエの頭頂部に拳骨を振り下ろしてやった。
「師匠!?何を……ヒッ!?」
で、全力で顔を睨み付けてやる。
「シュヴァリエ。あまり勝手な真似をするようなら、アライアンスから出て行ってもらうか、合法的にPKさせてもらうぞ……」
「……」
シュヴァリエは見るからに怯えた様子で、投げた斧をシアから受け取る俺の事を見ている。
だが、怯えているからと言って手を抜いてやる気はない。
たった一人の勝手な行動でも、時と場合によってはアライアンスの壊滅にも繋がるのだから。
「返事は?」
「は、はい!以後気をつけます!!」
「よろしい」
背筋を正し、まるで敬礼でもするかのようにシュヴァリエは返事をする。
その顔にはきちんと反省の色も見える。
これならばまあ、今後は慎んでくれる事だろう。
「さて、話の切りも付いたところで、剥ぎ取りをしてみるとしよう。やはり特性:バーサークが気になるからな」
「そうだな、そうするか」
トロヘルの言葉に合わせて、アライアンスの面々が順番に剥ぎ取りを行う。
この人数で剥ぎ取りをしたら、最後の方は何も剥ぎ取れないのではないかと思うが、そこはゲームの処理の関係上、問題なく剥ぎ取れるらしい。
尤も、これは半分オカルトのような物だが、戦闘に貢献していないメンバーの方が剥ぎ取れるアイテムは悪いものになる傾向がある、らしい。
うん、あの悪魔ならそう言うシステムは組み込めそうだが、結局はリアルラックの問題なので、証明は不可能そうである。
「マスター、どんなアイテムが取れましたか?」
「えーと」
さて、肝心のバーサークラクーンのドロップだが……
△△△△△
バーサークラクーンの毛皮
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:バーサーク(猛り狂う者に祝福を)
バーサークラクーンの毛皮。
少々匂うが、物としては決して悪くない。
獲れたのだから、色々と使い道を考えてみよう。
▽▽▽▽▽
「特性:バーサーク……」
「猛り狂う者に祝福を……ねぇ」
俺とシアは揃って特性の欄を見て、呟く。
この説明文では特性の詳細は分からない。
分からないが、先程の戦闘におけるバーサークラクーンの行動も併せて考えれば、抱いている想いはかなり近いものだろう。
つまり、敵に回すと厄介な特性である可能性が高いという事である。
「これ、どうしましょうか?」
「回収はしておこう。もしかしたら、防具の強化には使えるかもしれない」
とりあえず回収しておいて損はない。
そう判断した俺はインベントリに収納しておく。
「全員剥ぎ取りは終わったな。では、進軍を再開するぞ」
そして、トロヘルの号令に合わせて俺たちは再び奥へと進み始めた。