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【AIOライト 20日目 07:05 (1/6・晴れ) 『狂戦士の砂漠の塔』】
「さて、全員覚悟は決まったな」
トロヘルの言葉にその場にいるプレイヤー全員とシア、それに数体のホムンクルスが頷き返す。
「では開けるぞ」
そして俺たちの頷きを見たトロヘルによって、『狂戦士の砂漠の塔』最初の扉が開かれる。
「これは……」
「マジで砂漠って感じだな……」
「日差しが見るからに暑そうだ……」
ここは『狂戦士の砂漠の塔』。
俺たちの前には所々に黄色い砂が小山のように積もり上がり、割れた石の壁からこの場からでも明暗がはっきりわかるほどの強い日差しが石造りの塔の中に注ぎ込まれている。
そして時折吹く風は、一切の湿気を有さない乾燥しきった風だった。
「未知の特性が相手だ。気を引き締めていけ」
「おうっ!」
「言われなくても!」
ダンジョンの特性を示す狂戦士と言う言葉の意味は分からない。
だが、砂漠の塔の意味は分かっている。
砂漠の意味はこの乾いた風に砂、それと強烈な風あるいは身を割くような冷気だ。
そして塔の意味は、一つ一つの階層が狭い代わりに、通路は狭く、天井が低く、また一階層につき一階だけとは限らずに、階層移動の物とはまた別に階段があるという事だろうか。
要するに、割と面倒な構造と言う事である。
「で、進むのはいいんだがトロヘル?」
「何だゾッタ?」
まあ、この人数で全員が注意して、慎重に進めば、壊滅的な被害を受けることはまずない。
と言うわけで、俺は現在組んでいるアライアンスのリーダーであるトロヘルへと声をかける。
一つ質問したい事があったからだ。
「なんで、俺のパーティはプレイヤーは俺とシュヴァリエの二人だけなんだ?」
「……」
この場に居るプレイヤーの数は20人。
その為、分け方は様々だが、パーティが四つ出来る事は確定である。
で、実際にプレイヤーを割り振ったのが第一パーティのリーダーであると同時にアライアンスのリーダーを務めてくれているトロヘルだったわけだが……何故かその割振りは片寄っていた。
具体的に言えば、他のパーティは六人で組んだフルパーティであるのに、俺がリーダーを務める第四パーティだけは俺とシュヴァリエのペアになっていた。
「どう考えても片寄っていると思うんだが……」
「あー、まあ、片寄ってはいるな」
しかもシュヴァリエはホムンクルス未保有である。
なので、実質的には俺、シア、シュヴァリエの三人パーティのような状態だ。
これは明らかな片寄りである。
いや、此処まで来たら片寄りではなく偏りか?
「まあ、一応、理由あっての事だ」
「具体的には?」
「まずシュヴァリエの奴は一応女で、このアライアンスの中で女性プレイヤーの補佐が出来そうなのがアンブロシアしか居ない」
「それは……まあ」
確かにこの場に女性はシアとシュヴァリエしか居ない。
だが、シュヴァリエは……アレを女として扱ってもいいか微妙な所である。
いやまあ、シアとの会話を聞く限りでは本人の性認識は女性であるし、普通に少女らしいところもあるのだが……いやまあ、深く考えるのはよそう。
気にするだけ精神にダメージが来るだけだ。
「後はお前とシュヴァリエの二人は単独戦闘能力が高くて、他のパーティメンバーとの協力を深く考えなくてもいいってのもあるな」
「つまり状況に応じて自由に動けと?」
「そう言う事だな」
言われてみれば、この中でも特にソロとして活動している事が多いのは俺とシュヴァリエの二人か。
俺は今回の件を除けば、最後にパーティを組んだのがハナサキに行くときで、シュヴァリエも普段は一人で活動しているようだから。
「と言うかだな、お前自身はともかくシュヴァリエについてはお前以外が制御するのはたぶん無理だ。なにせ掲示板での呼び名が決闘厨なほどの決闘好きで、自分より強い相手しか認めないと言う気配も出しているからな」
「それについては俺はよく分からないんだよなぁ……正直、俺とシュヴァリエの間にそんな戦闘能力差があると思えない」
「それでも言う事を聞いているのは確かだ。とにかく、戦力としては確かでも、敏捷特化のプレイヤーに勝手に先行されて、起こすべきじゃない相手を起こしたり、動かしてはいけない仕掛けを動かしたりしたら、その規模と種類によってはアライアンス全体が壊滅する可能性もある。注意してくれ」
「俺の役割重大じゃねえか……」
「しかも困ったことにゾッタにしかこなせない役割だ……」
俺とトロヘルは微妙に陰鬱な気持ちになる。
責任の重さとか、これから起きるかもしれない緊急事態の重さに。
なお、余談ではあるが、アライアンスを組んでいると、視界左上隅の方……自身とパーティメンバー、それにホムンクルスの状態を表している画面の近くにタブのようなものが追加され、そのタブを引っ張り出すと他のパーティメンバーの状態を見れるようになっている。
で、今の状態だが……まあ、全員異常なしだ。
地形が原因で状態異常やダメージを負っているプレイヤーも居なさそうである。
「とりあえず手助けできる範囲で手助けはするから、よろしく頼む」
「まあ、よろしく頼まれた」
そうして話を終えた俺は、どちらかと言えばアライアンスの後ろの方に居るシアとシュヴァリエの元に戻ったのだった。