93:19-2
【AIOライト 19日目 17:52 (新月・晴れ) 南の森林】
「ふう、どうにか日が昇っている間に着けたな」
「はぁはぁ、ようやくか……」
「長かったぁ……」
「おお、良い光景だな」
日暮れ直前。
俺を含めた20名のプレイヤーと、それらのプレイヤーに仕えるホムンクルス、合わせて約50名は南の森林に隠された巨大な湖を見下ろせる崖の上に立っていた。
そう、俺たちは無事に森を抜け、推定青い左目在りし場に辿り着いたのだった。
「さて、これから対岸まで移動して、湖の水を汲んでみるわけだが……ゾッタ、アンブロシア、例のアルカナボスの石板は何処だ?」
「確かあそこの辺りだったはずだ。まあ、初回じゃなければ強制的に引き摺り込まれる事はないだろうけど……警戒は必要だと思う。やり合ったら負けるのが確定しているしな」
「そうですね。気をつけるに越したことはないと思います。戦いにもなりませんから」
俺とシアはトロヘルの質問に答える形で、アルカナボスである『百華統べる森の女帝』の居る空間に繋がっているモノリスがある場所を指差す。
実際、今のこの面子でも『百華を統べる森の女帝』は当然の事、周囲の取り巻き一体と全力でやりあっても勝てる可能性はないだろう。
なので、間違っても挑んではいけないと言う事で、釘は念入りに刺しておく。
「心配しなくても、そんな馬鹿は流石に居ねえし、道だって逆側から行く。じゃ、行くぞ。新月の夜はかなり暗くなるからな」
「分かった」
まあ、挑まなければ問題はない。
と言うわけで、俺たちは女帝の居る湖の西側ではなく、遠回りになるであろう東側を通って、湖の水を汲める位置に移動することにした。
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【AIOライト 19日目 20:17 (新月・晴れ) 南の森林】
「すっかり暗くなっちまったな……」
「まさかこんな遠回りだとは……」
二時間後。
俺たちは手を伸ばせば、湖にも触れられる広場のような場所に来ていた。
新月の夜なので、灯りになるのは他のプレイヤーの持っている灯りぐらいではあるが、湖には採取ポイントも見えた。
どうやら此処で間違いないらしい。
「よーし、周囲を警戒しつつ順番に回収するぞ。新月の夜だからって完全に気は抜くなよ」
トロヘルの号令のもと、俺たちは順番に採取ポイントに触れてみる。
【液体状のアイテムを獲得しました。インベントリ内のプレングラスボトルを使用して回収します】
「よし、採れたな」
「私の方も大丈夫です」
俺は採取したアイテムの詳細について確認してみる。
△△△△△
普通のガンカ湖の水
レア度:2
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
始まりの街・ヒタイの南にある森林に隠された湖、ガンカ湖の水。
かつてこの場に在った巨大な青い左目は、数多の強大な魔との繋がりを宿していた。
それは瞳だけとなって海に浮かぶ今も変わらないし、涙にも力の残滓が残るほどである。
▽▽▽▽▽
「マスター、これは……」
「このアイテムが青い左目在りし場の涙である事は間違いない。説明文の内容については……たぶん、今はまだ気にしなくてもいい」
「……。マスターがそう言うのなら」
普通のガンカ湖の水に記載された説明文の内容は随分とアレな内容ではある。
そして何となくではあるが……海に浮かんでいる青い瞳を探す際の手がかりは分かる。
分かったところで、実際に行くのは船を手に入れてからの話になるだろうが。
「全員回収は終わったか?」
トロヘルの言葉に全てのプレイヤーが頷いて返す。
どうやら此処に来た理由は、現時点では全員果たせたらしい。
となれば……問題はこの先か。
「ようし、なら次はレア度:1の自動生成ダンジョンを探すぞ」
トロヘルの発言に何人かのプレイヤーがあからさまに動揺すると共に、俺に対して助けを求めるような視線を送ってくる。
が、助けて欲しいと言われても無理である。
なにせだ。
「簡単な帰り道なんてあるわけがないだろ。歩いて帰るか、死んで帰るか、ダンジョンをクリアして帰るかだ」
この場からヒタイまで帰る方法など三つしかなく、しかも確実に入手したアイテムを持って帰り着けれると言い切れる手段など一つしかないのだから。
と言うか、だからこそ食料だけでなく、回復アイテムも持ってくるように言ったんだがなぁ。
まあ、途中合流組は聞いていない言葉だが。
「そう言うわけだ。だからこの後は寝床探しも兼ねて自動生成ダンジョンの入口を探す。全員、覚悟を決めろよ」
「「「……」」」
そんなわけで俺たちは自動生成ダンジョンの入り口を探し始める。
そして幾つかのダンジョンを見つけた。
【『呑気な火山の城』 レア度:3 階層:6 残り時間71:59:59】
【『貧しい砂漠の神殿』 レア度:2 階層:4 残り時間71:59:59】
【『魅了招く機械の塔』 レア度:1 階層:3 残り時間71:59:59】
【『鋭角な岩の洞窟』 レア度:2 階層:5 残り時間71:59:59】
【『狂戦士の砂漠の塔』 レア度:1 階層:3 残り時間71:59:59】
「「「……」」」
とりあえず呑気、魅了招くの二つは確定で無しだろう。
嫌な予感しかしない。
前者はレア度から、後者は想像される状態異常的に。
「レア度2はちょっとなぁ……」
「ボスまでは無理だろう」
「行動を簡単にしてくれる感じでもないしな」
貧しい、鋭角なの二つも止めておいた方がいいだろう。
この人数なら、攻略そのものは不可能ではないかもしれないが、今回の目的は安全にクリアすることである。
「となると『狂戦士の砂漠の塔』かぁ……」
「未知の特性とか怖いなぁ……」
「てか狂戦士って……」
そうなると必然的に選択肢は狭まり、『狂戦士の砂漠の塔』一択になる。
なるのだが……うん、どうしてこんなに多くのプレイヤーから俺は見られているんだ?
「なあシア……」
「私は何も言えません」
「自覚ないんだね。師匠」
「?」
分からないものは聞けばいいという事で、俺はシアに尋ねようとして見るが、何故か先に答えられた上に、打ち止めにもされてしまった。
訳が分からない。
「今晩はこのまま此処で一夜を明かす。そして明日は朝から『狂戦士の砂漠の塔』を攻略する。全員よろしく頼むぞ」
いずれにしても挑むダンジョンは決まった。
なので俺とシアは、明日に備えて広場の端の方で静かに眠るのだった。