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【AIOライト 19日目 07:12 (新月・晴れ) 南の森林】


 翌日。

 食料に回復アイテム、そしてプレングラスボトルを持った俺とシアは、青い左目在りし場の涙を入手するべくギルドポータルでヒタイに移動。

 続けて南の大門から南の森林に入った。


「すまんゾッタ!」

「俺たちも連れて行ってくれ!」

「……」

 で、その直後にこれである。


「はぁ……クリームブラン、マンダリン。お前たちの目的も青い左目在りし場の涙か?」

 俺は目の前で両手を合わせて拝むような姿勢で頭を下げているマンダリンとクリームブランの二人に確認の質問をする。


「ああ、その通りだ。掲示板の情報で南の森林に湖がある事、それをお前が発見していた事までは知っている」

「それで、俺たちだけで行こうと思ったんだが……途中の茨と迷路でにっちもさっちも行かなくなってな。昨日は止むを得ず引き返したんだ」

「で、今日こそは突破をと思ったところで、一度抜けた事がある俺が来たから、案内を頼む、と」

 俺の言葉にマンダリンとクリームブランの二人は大きく頷く。

 うん、正直でよろしい。

 こういう素直な所は、この二人の美点だと思う。


「周りに居るプレイヤーたちも似たような感じか?」

「あー……まあ、俺たちが移動を始めたら、追いかけてくるのは一定数いると思う」

「どうにもあの茨の辺りは迷路みたいになっていて、どうしても抜けられないって言うプレイヤーが掲示板にも結構出て来ているんだよ」

 俺は少し小声で二人に話しかけつつ、俺たちの事を周囲で窺っているプレイヤーの様子を確認する。

 数は……人型のホムンクルスも混じっているのでよく分からないが、50人は居そうだ。

 うーん、これならいっそ利用してしまった方がいいか。


「まあいい、先に進むのを妨害しないなら、誰が付いてこようがソイツの勝手だからな。俺には止める権利も咎める権利もない」

「おおっ!と言う事は!」

「ああ、付いてきたいなら、勝手に付いてくればいいさ」

 ワザと大きめの声で言った俺の言葉にマンダリンとクリームブランは分かり易くガッツポーズを浮かべ、周囲のプレイヤーたちの中にもざわめき立つ者が出る。

 だがまあ、これで勘違いだの逆恨みだのされても困るので、注意事項は言っておくとしよう


「ただ、これだけは言っておくぞ」

「「?」」

「一つ、俺とシアだって、前回は道に迷った挙句に辿り着いているから、今回辿りつける保証はない」

「あー、そうなのか。でもまあ、だいたいの位置が分かっているなら、それで俺らは構わないわ」

「激しく同意」

 マンダリンとクリームブランは納得の頷きをしてくれているが、周囲のプレイヤーの中には迷い顔のプレイヤーも居る。

 まあ、付いてこないのも彼らの自由だ。

 無視しよう。


「二つ、食料は三日分、回復アイテムも十分用意しておけ。たぶん必要になるからな」

「心配しなくてもきちんと揃えてあるさ。それこそ潜れるぐらいにはな」

「回復アイテムの必要性についても理解しているから大丈夫だ」

 周囲が少しざわつく中、俺の言葉にマンダリンもクリームブランも分かっていると言う顔で言葉を返してくれる。

 どうやら二人は入手した後の事まできちんと考えているらしい。


「三つ、俺は俺のペースで行く。と言うわけで、付いてこれないなら置き去りだ」

「おけだ」

「うん、無理を言っているのは俺らの方だしな。問題なしだ」

 まあ、何にしてもアレだ。

 マンダリンとクリームブランの二人は連れて行っていい。

 助けにはなっても、足手まといになる事は有り得ない。

 純粋な戦闘能力なら、二人の方が上の可能性だってあるしな。

 周りの連中は……知らん、俺に道案内を頼んでいるわけでもないしな。


「よし、それじゃあ行くぞ」

「おうっ!」

「合点承知の助!」

 と言うわけで、俺はマンダリンとクリームブランの二人とパーティを組むと、俺とシア、マンダリンとウンシュウ、クリームブランとレチノールの六人で、南の森林に向かって駆け出した。

 そして、俺たちの想像通り、俺たちを追いかけるように何人かのプレイヤーが森へと飛び込んだのだった。


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【AIOライト 19日目 15:07 (新月・晴れ) 南の森林】


「はぁはぁ、やっぱり『狂い斧』じゃねえか!」

「ぬわああああぁぁぁぁん!つかれたもおおぉぉん!」

「ちょっ、いばっ、いだぁ!?」

「うおおおおぉぉぉ!この程度でええぇぇ!」

「ギエピー!」

 さて、陽も真上を過ぎ去った頃。

 俺たちは後ろの方から聞こえてくる悲鳴を音楽に、南の森林の中を南に向かって一直線に進んでいた。

 文字通りにではないが、間違いなく南に向かっていた。


「いやー、今日が新月で良かったな。おかげで戦闘をしなくて済んでる」

「本当だな。もし満月の日だったりしたら、大変な事になってた」

「途中で見かけたプレンエルフは可愛かったなぁ……いい太ももだった」

「表情については敵の方が豊かなんだよなぁ……まあ、俺らの技術不足が原因か」

「へー、それじゃあ。シアちゃんは師匠への忠誠心は仕込まれて無いんだ」

「はい、マスター自身がそう言うのは嫌いだからと」

 幸いにして今日は全てのモンスターがノンアクティブになる新月の日。

 移動の邪魔になるのは地形と茨だけであり、それらも少しの回り道で、避ける事が出来る。

 そして、進むほどに茨が増えていくと言うのは、前回俺とシアが到達した時にもあった特徴だった。

 そんなわけで今気にする事と言えば……


「で、何でお前が居る。シュヴァリエ」

「え?僕だけ?そこの大槍の人だって途中合流だったじゃない」

「トロヘルは良いんだよ。フレンドだからな。で、お前は何で居る」

 いつの間にか俺の背後についていて、しかも何故かシアと親しげに会話をしている少年騎士姿の少女、シュヴァリエの存在である。


「ふ、なんでかって?そりゃあ勿論師匠に弟子入りさせてもらうためさ!師匠の錬金術を再現できれば、僕の剣は更なる高みに昇れるからね!」

「「「……」」」

 そう言い放った瞬間、シュヴァリエの周囲に妙な光のような物が漂い、シュヴァリエの全身が煌めいたような気がした。

 だが、何と言うか……残念な煌めきだった。


「良かったなゾッタ、可愛い女の子の弟子だぞ」

「羨ましいなゾッタ、素直ないい子だぞ」

「欲しいならやるぞ。お前ら」

「「オコトワリー」」

「デスヨネー」

 と言うわけで、俺はクリームブランとマンダリンの二人と棒読みな会話をしつつ、シュヴァリエの置去りを狙って加速するのだった。

 尤も、シュヴァリエの方が敏捷力が上だったため、全くもって無駄な努力だったが。

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