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【AIOライト 18日目 09:05 (1/6・晴れ) ハナサキの海岸】
「凄い切れ味ですね」
「本当だな……」
翌朝。
俺とシアは昨日とは逆にハナサキの南の門からハナサキの海岸に出ると、海岸線沿いに南下を始めていた。
今日も大きな目的は携帯錬金炉の素材集めである。
「此処まで差があると、攻撃力がただ上がっただけじゃ説明が付かないな」
「そうですね」
で、フィールドに出たという事は当然、モンスターとの戦闘もある。
なので俺は昨日作ったレア度:
「とりあえず剥ぎ取るか」
「周囲、警戒してますね」
今戦った相手は、プレンタートルLv.8だった。
プレントータスがリクガメならば、こちらはウミガメなのだろう。
それで、このプレンタートルに対して、俺の右手武器であるプレンスチールタバルジンは一撃で15%程度のダメージを与える事が出来ていた。
それに対して左手武器の棘刀・隠燕尾は……30%近いダメージを与えていた。
しかもただダメージを与えるのではなく、非常に滑らかに、しかも完全に切られてからプレンタートルが攻撃された事に気づくように、音も気配もなくだ。
本当に説明文通りである。
「よし、剥ぎ取れた」
「HP、MP、共に問題なし。次にいきましょうか」
「そうだな」
勿論、良い点ばかりではない。
通常、状態異常に関係する特性が付いた武器は、敵を攻撃した際にその状態異常を相手に付与する事が出来る。
だが、棘刀・隠燕尾の場合、どうにも相手にノイズ状態を付与する力はないようだった。
これは無駄な音を消す方向に特性:ノイズが働いてしまった結果、本来の役割……状態異常の付与を行えなくなったからだろう。
まあ、全てにおいて完璧など有り得ないという事で、気にするほどの点ではないが。
なお、状態異常:ポイズンについては効果時間もダメージ量もそれほど多くは無く、そこまでの有用性は無さそうだった。
なので、発揮してくれたら嬉しい程度のおまけだと思っておくことにする。
「それにしても、めぼしいものがありませんね……」
「うーん、考えは間違っていないはずなんだけどな……」
さて、剥ぎ取りも無事に終わったところで俺とシアは探索を再開する。
目的は先述の通り、携帯錬金炉の素材……羊の鼻が見つける白花である。
俺の考えが間違っていなければ、羊の鼻であるこのハナサキの海岸の何処かに、白い花のような物体があるはずなのだが……やはり見当たらない。
この場にあるものと言えば、プレイヤーを除けば海と砂浜と採取ポイント、後はモンスターに奇妙な形の岩、それにブラフとしか思えない白い普通の花ぐらいである。
「やっぱり白い花って言うのはブラフじゃなかったんじゃ……」
「うーん、でも、どうにもアレが白い花だって言うのは違和感があるんだよなぁ……」
シアの言葉に俺は悩む。
確かにここハナサキの海岸に生えている白い花はヒントの条件を満たしているように見える。
だが見えるだけで、違う気がどうしてもするのだ。
具体的に何が間違っていると言われても困るのだが。
「きゃっ」
「と、風か」
と、ここで海の方から強い風が吹いてくる。
強い風は海面を大きく揺らし、波を立たせる。
そうして発生した波は海岸にある奇妙な岩に当たって白い泡のようになり、白い泡は風に乗って散り始める。
えーと、なんて言うんだったかな、この現象と言うかあの白い泡のような物体の名前。
確か何か名前が有ったと思うんだけど……。
「まるで花びらが散るみたいですね」
「花びら……」
そう、確かこの現象の名前は……
「シア!確保だ!」
「へ!?」
「その泡を確保する!!」
「は、はい!?」
俺と同じ考えに至ったのだろう、周囲のプレイヤーたちも波打ち際に発生した、白い潮の花に向かって駆け寄っていく。
そうして接近してよく見れば分かる。
この潮の花はただの演出ではない、微かではあるが、採取ポイントである事を表す光が出ている。
【液体状のアイテムを獲得しました。インベントリ内のプレングラスボトルを使用して回収します】
「よしっ!」
そう、そうだ、間違いない。
羊の花が見つける白い花の正体はこの潮の花だ。
何故ならば、
波に乗る形で羊の鼻に飛び込んできて、こうして目の前に出て来る形で見つけているのだから。
これ以外には有り得ない。
「マスター、私の方でも一つ回収出来ました」
「よくやったシア!」
俺は入手したアイテムの詳細を確認してみる。
△△△△△
普通の白い潮の花
レア度:2
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
海風と海水が混ざり合ってできる白い泡状の物質。
世界と言う名の羊が海に頭を突っ込んだ結果として風に舞うその姿は、まるで白い花の様である。
塩分を多く含むこの泡は錬金術においては少々特殊な立ち位置にある。
▽▽▽▽▽
「うん、やっぱりそうだ」
アイテムの詳細を見た俺は確信を持つ。
羊の鼻が見つける白い花は、この普通の白い潮の花であると。
「それじゃあマスター……」
「ああ、一つ目の素材は回収完了だ。一度ハナサキに帰ろう」
「はい、分かりました」
後は倉庫ボックスにこれを収めて、入手を確定すればいい。
そう判断した俺は、シアと一緒にハナサキへと帰ったのだった。
一つ目回収です