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88:17-6

本日は二話更新になります。

こちらは一話目です。

【AIOライト 17日目 19:45 (2/6・雨) 漁村ハナサキ】


「ふぅ、これでよし……と」

「お疲れ様です」

 プレンメディパウダーの量産が一段落つくのに合わせて、俺は大きく息を吐く。


「これだけあれば暫くは足りるよな」

「はい、大丈夫だと思います」

 量産したプレンメディパウダーの数は10個。

 これだけあれば、少なくとも明日ぐらいは大丈夫だろう。

 なお、プレンメディパウダーを登録して、ギルドショップで購入するという選択肢はない。

 登録直後は値段が高いというのも問題だが、値段が安くなった後も自作した方が安く済むうえに錬金レベルの経験値も稼げてしまうのだからだ。

 仮に消耗品を登録するのであれば……まあ、最低でも特性付きのアイテムであるべきだろう。


「さて、消耗品の補給が終わったら……後は左手装備の替えを造らないとな」

「ハイドライに壊されてしまいましたからね」

「ああ。まあ、止むを得ない犠牲ではあったんだろうけどな」

 今日やるべき事はもう一つある。

 それは失ってしまったプレンウッドバックラーの代わりになる左手の装備品を作る事である。


「何が有ったかな……と」

 では何を作るべきか。

 俺は倉庫ボックスの中身をひっくり返して、何か作るアイテムが思いつかないか試してみる。


「ふうむ……」

 まず第一候補に挙がるのは?

 元プレンウッドバックラーである壊れた装備品(盾)を利用して、新しい盾を作る事である。

 これならば新たに使う素材次第ではあるが、性能がプラスになる事はあってもマイナスになる事はないだろう。


「何を悩んでいるのですか?」

 他の候補としては、新緑の杖のように持っていてもそこまで邪魔にならない武器を二本目として持つ事。

 具体的に言えば、杖、短剣、拳、メイスと言ったところか。

 一応、銃や弩も候補ではあるけれど、今は弾代なんて無いし、弾の作り方も分からないし、無しだな。


「いやまあ、ちょっとな」

「?」

 で、第三の候補……と言っていいのか分からないが、まあ、見えてしまっているものがある。

 恐らくは俺の目にだけ。

 そう、いつものアレだ。


「……」

 繋がっているように見えるのは、ハナサキ到達直前に入手した壊れた装備品(短剣)、グランギニョルと一緒に潜った『雑音招く湿地の図書館』で手に入れた雑音招く薬草、そして今日手に入れたばかりなハイドライの棘。

 壊れた装備品(短剣)以外はギルドショップに先程登録してきたので、金策をして来れば問題なく再入手できる。

 また繋がっているかどうかは別の話だが。

 それよりも問題なのはだ。


「あのマスター?その、そんなに見つめられると……」

 今日俺は避けられる無茶はきちんと避けないといけないと言った。

 そう言った当日に、周囲から狂っていると散々言われたレア度:PMの作成をするのかと言われたら……うん、少し困る。

 だが繋がって見えているのは確かで、しかも恐らく今日を逃せばもう次の機会はないだろう。

 何となくだが、そんな気配がする。

 ここは……無茶のしどころだな。


「シア、少し下がっていろ」

「……。無茶をする気ですか?」

「大丈夫だ。出来ると分かってやる無茶だからな」

「……。分かりました。大人しく下がっています。が、これだけはさせてもらいます。『癒しをもたらせ』」

「ありがとうな」

 シアの言葉と共に俺の全身が緑色の光で包まれる。

 これで回復力が底上げされたから、HPとMPの回復も早まる。

 それはつまり成功率の上昇に繋がるはずである。

 うん、これは頑張らないとな。


「じゃ、始めますかね」

 シアが部屋の隅に移動したのを確認した所で、俺は実体化させている壊れた装備品(短剣)、雑音招く薬草、ハイドライの棘を錬金鍋の中に入れる。


「ふんっ!」

 で、いつも通りに左腕を鍋の中に入れて魔力を注ぎ込み始める。

 すると、魔力を注ぐのに合わせて左腕に何かに切られたような痛みが何度も走ってくる。


「マスター!?」

「動くな!アンブロシア!」

「!?」

 俺の表情とステータスの変化から何かを察したのだろう。

 シアが俺に駆け寄ろうとするが、俺は声だけでそれを制すと、さらに多くの魔力を鍋の中に注ぎ込み、それに合わせて刻まれる無数の切り傷の痛みを受け入れる。


「はぁはぁ……よし」

「マスター……」

 そうして十分に魔力を注ぎ込んだところで俺は左腕を鍋から引き抜く。

 左腕は既に無数の赤いエフェクトに包まれてよく分からなくなっているが、まあ問題はない。

 肉と骨の感覚が残っているのなら、櫂を握る事ぐらいどうという事はない。


「すぅ……錬金術師ゾッタの名において告げる!」

 さて、ある意味ではここからが本番である。


「打ち砕かれた名もなき刃よ、歪に鳴り響く音が秘める癒しの力を以って汝が身を繋ぎ直せ!」

 俺は櫂を両手で握り、魔力を注ぎ込み、言葉を紡ぎながら全力で鍋の中をかき回す。

 すると鍋の動きに合わせるように、鋭い刃と化した液が俺の顔面に向かって飛んでくる。


「姿見えぬ燕尾の刃よ、歪に鳴り響く音の中で名も無き刃と協奏せよ!」

 避けるべきなのだろう。

 だが俺はそれを避けずに受け止め、痛みを気にする事なく鍋の中をかき回し続ける。


「二の刃、一の草、金で奏で、空地の狭間、地の中、水地の狭間にて一つの器と成りて調べ奏でよ!」

 シアが息を飲んでいるのは分かる。

 だが今だけはシアの事を気にしている暇はない。


「想いは歪なれど適し形を成せ!我が身我が爪と化せ!一にもならずに二もならず、狭間に在れ!」

 今だけはただひたすらに思いを……あらゆる敵を切り裂き打ち倒さんとする想いを込めて櫂を動かし続ける。

 この痛みをもたらしたものの力こそがシアを守る力になると分かっているが故に。


「認めよ!改めよ!従えよ!静まれ!鎮まれ!調べ調和させ形を成せ!音もなく、姿もなく、境界に在りし燕尾の刃として再び生まれいづれ!」

 俺は鍋の中に左腕を突き入れる。

 それと同時に、俺の左腕に何本もの刃が突き刺さるような痛みが襲い掛かってくる。

 だが俺はそれを無視して、鍋の中に居るそれを掴む。


「さあ、我が前に汝が姿を顕せ!」

 そして引き上げ、名を与える。


「棘刀・隠燕尾(かくれえんび)

 先が二股に分かれた、ギザギザの刃を持つ一本の短剣に。

遂にやらかしました


08/21誤字訂正

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