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86:17-4-D2

本日は二話更新になります。

こちらは一話目です。

「「……」」

 ハイドライの姿は完全に見えない。

 この辺りからも、やはり今の俺たちには『秘匿する凍土の街』の攻略は早かった事は分かる。

 しかし周囲に居る事は分かる。

 微かにだが石畳の敷かれた道をこする音が聞こえるからだ。


「シア、俺の馬鹿のせいで危険な目に合わせて悪かったな」

「気にしないでください、マスター。マスターが自分の勝手だと言うのなら、私だって好きでマスターに付き従っているんですから」

「シア……」

 俺は周囲の警戒をしたまま、シアに今回の件について謝る。

 だが、俺の言葉にシアは軽く頭を横に振ると、何でも無いようかのように言い放つ。


「大丈夫ですよマスター。私はマスターに対する忠誠を与えられていない。だから、マスターが馬鹿をやったら、後ろから殴る事も出来ますし、本当に許せない事をしてしまったのなら……その時は勝手に見捨てます。そんなマスターに私は仕えたくありませんから」

 今、俺に従っているのは自分の意思だというシアのその言葉は、シアが俺の求めた通りの存在である事をよく表している言葉だった。

 その言葉が聞けたからこそ……俺は奮起しないわけにはいかなかった。


「じゃあ、見捨てられないように頑張らないとな」

「そうですね。頑張ってください」

 シアの主として相応しい振る舞いが出来なければ、シアは俺を見捨ててしまうのだから。

 そうして改めて気持ちを引き締めなおした瞬間だった。


「ラ……」

「来たっ!」

 俺の右手側の道が僅かに動き、そこからハイドライが現れる。

 棘の生えた尾は既に振りかぶられていた。


「イッ!」

「シア!」

「『ペイン』!」

 咄嗟に俺はハイドライとシアの間に入ると、盾を構える。

 そして、盾を構えた俺の横を光の球が飛んでいく。


「ぐっ!?」

 棘の生えた尾が既に耐久値が限界に達していたらしい盾を破壊し、俺の腕に棘が突き刺さる。

 僅かに回復していたHPバーも当然減り、一気に10%以下にまで落ち込む。

 だが、ハイドライもただでは済まなかった。


「ライイイィィ!?」

「やりました!」

「よしっ!」

 ハイドライの叫び声が再び響き渡ると同時に、激痛状態を示すマーカーが表示される。


「一気に決めるぞ!」

「はいっ!」

 此処で決めなければ、耐性の上昇もあって、もう勝ち目はない。

 そう判断した俺とシアは一気に攻撃を仕掛ける。


「ライイィィ……」

「はぁはぁ……勝った」

「やった……」

 そして激痛状態が切れる直前、俺たちはハイドライを撃破したのだった。

 HPもMPも底を突きかけた、ギリギリの勝利だった。


「アイテムを回収次第撤退するぞ」

「はい」

 今襲われればひとたまりもない。

 当たり前の判断を下した俺は素早くハイドライとハイドオクトパスの死骸に剥ぎ取り用ナイフを突き刺してアイテムを回収すると、最初の部屋から外に脱出する。


【液体状のアイテムを獲得しました。インベントリ内のプレングラスボトルを使用して回収します】

【ゾッタの戦闘レベルが8に上昇した。戦闘ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】

 インフォも流れているが、当然無視である。


「よしっ!」

 そして外に出た所で俺とシアは……


「疲れたあああぁぁぁ!」

「はあああぁぁぁぁ……」

 緊張の糸が途切れてその場に倒れ込んだ。


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【AIOライト 17日目 11:02 (2/6・雨) ハナサキの海岸】


「それでマスター、アイテムについては?」

 俺たちは倒れ込んだ姿勢から、モンスターに襲われてもいいように、背中合わせに座り込む姿勢になると、消耗したHPとMPを回復するべく休憩を始める。

 幸いにして現在周囲には敵影も無いので、これならば、最低限のHPは確保できるだろう。


「えーと、これだな」

 で、ついでなので、回収したアイテムの詳細を確かめておく。



△△△△△

ハイドライの棘

レア度:2

種別:素材

耐久度:100/100

特性:ハイド(認識しづらく、人目に付かない)


ハイドライの尾に付いている鋭い棘。

金属製の刃物のような鋭さと強度を持つ上に、有毒であるため、取扱には注意が必要。

▽▽▽▽▽


△△△△△

ハイドオクトパスの墨

レア度:2

種別:素材

耐久度:100/100

特性:ハイド(認識しづらく、人目に付かない)


ハイドオクトパスの噴き出す墨。

煙幕のように広がり、触れたものの目を見えなくする力を持つ。

▽▽▽▽▽



「棘に墨……ですか」

「まあ、命がけだった甲斐は有ったんじゃないかと思う」

 手に入れたアイテムの名前はハイドライの棘とハイドオクトパスの墨。

 使い道は……ま、幾らでもある。

 そして錬金術師ギルドの複製機能を使えば、量産も可能だろう。

 なお、液体としてプレングラスボトルを使用しているのはハイドオクトパスの墨の方である。


「と、ステータスの操作もしないとな」

 と、此処で俺はステータス操作の画面が表示されたままだったのを思い出すと、回復力を1上げる。

 これで回復力は素の数値が20、目標に到達である。



△△△△△

ゾッタ レベル8/10


戦闘ステータス

肉体-生命力13・攻撃力10・防御力10・持久力9・瞬発力10・体幹力10

精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7・回復力20+2・感知力10・精神力11


錬金ステータス

属性-火属性10・水属性10・風属性10+1・地属性10・光属性7・闇属性10

分類-武器類13・防具類13・装飾品13・助道具13・撃道具10・素材類13

▽▽▽▽▽



「マスター、疲れましたね……」

「そうだな……」

 中の雪と同じように雨は降っている。

 だが、疲れた体には雨の冷たさは微妙に心地よかった。


「シア、俺たちが次にレア度:2のダンジョンに挑むのは、きちんとした準備を整えてからだ。避けられる無茶はきちんと避けないといけない。だから今日はもう街に帰るとしよう」

「はい、分かりました」

 しかし、いずれにしても今日はもうこれ以上戦えない。

 ステータス的にも精神的にも。

 だから俺とシアは敵に遭遇しないように気をつけつつ、ハナサキへと帰るのだった。

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