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「雪に閉ざされた街……って、感じだな」

「本当ですね」

 家の外は全体的には薄く雪が積もり、所々には雪が高く積もった、石畳の道になっていた。

 黒い雲に覆われた空からは音もなく雪が降り続けており、空気を冷やしている。

 他の自動生成ダンジョンのような分かり易い壁はない。

 その代わりに、入口どころか窓すらない三階建て程度の石造りの建物が立ち並んで、壁の役割を為している。

 全体的な雰囲気としては……冬のヨーロッパと言うのが良さそうか。


「……。何かが動く音も気配もないな」

「そうですね。何だか私たち以外に誰も居ないみたいです」

 だが、街と言っても当然ながら人の気配はない。

 自動生成ダンジョンの中だからだ。

 そしてモンスターの気配もない。

 こちらは恐らくダンジョンの特性:ハイドに従って、姿を表すべきモンスターが姿を隠してしまっているからだろう。

 また、採取ポイントについても見える範囲では見つからない。

 こちらは単純に無いだけの可能性もありそうだが、特性:ハイドの影響を受けている部分もありそうではある。


「警戒を強めた方がいいな」

「不意討ちですか?」

「ああ、何時何処から襲われてもおかしくなさそうだ」

「分かりました。気をつけておきます」

 いずれにしても油断は禁物。

 そう判断した俺は、シアに警戒を促した上で、探索を始めるべく一歩目を踏み出す。

 その瞬間だった。


「ライッ!」

「アガッ!?」

「マスター!?」

 俺の顔面に向けて鞭のような何かが叩きつけられ、その衝撃に思わずよろめく。

 そして自分のHPが25%ほど減る中で、俺は何が起きたのかを認識する。


「エイ……!?」

「援護します!『癒しをもたらせ』!『力を和らげよ』!」

 気が付けば俺の下には体長が2メートルを超えるような巨大なエイが居た。

 そしてその棘付きの尻尾は、俺を打った後、地面と平行の位置に戻るようにゆっくりと下がり始めていた。

 マーカーは当然赤、名前はハイドライLv.15。


「拙い!?」

 此処に来て俺は自らの失敗を、そして慢心を悟る。

 レア度:2のダンジョンは今の俺たちには早すぎたのだと、もっとレベルを上げ、装備を整えてから来るべきだったと思い知らされた。

 なにせ、ハイドライのただの苛立ち紛れの攻撃一回で、俺のHPは四分の一も減ってしまっているのだから。


「キャア!?」

「シア!?」

 シアの悲鳴が上がり、後ろを振り返ろうとする俺の横にシアが転がってくる。

 そのHPバーは半分近く削れてしまっている。


「ニュロ~ン」

「っつ!?」

 そこにはハイドライとはまた別のモンスターが居た。

 名前はハイドオクトパスLv.16。

 八本の足を持つ、体高2メートル近い大蛸だった。

 1だけではあるが、ハイドライよりも更に格上のモンスターである。


「ニュロ~ン」

「ライ……」

「ぐっ……」

 ハイドオクトパスとハイドライの姿が消え去って行く。

 恐らくは表皮と周囲の風景を同化させているのだ。


「完璧にしくった。悪い……シア」

「マスター……」

 俺は自分の驕りに腸が煮えくり返りそうだった。

 錬金レベルが二ケタに達した程度で、いい気分になっていた自分をぶん殴りたい気分だった。

 ハナサキに辿り着けたから強くなったのだと思い込んでいた自分を蹴り飛ばしたい気分だった。

 だが今はそれどころではない。

 今するべき事はこの窮地を脱することである。


「大丈夫です。格上なだけなら、きっとどうにかなりますから」

「だといいんだがな……」

 俺とシアは背中合わせになって周囲を警戒する。

 幸いと言っていいのか、ハイドライもハイドオクトパスもそこまで積極的に攻撃を仕掛けてくるタイプのモンスターではないらしい。

 正確な位置は分からないが、なんとなく俺たちの周囲をグルグルと回っている感じがしている。


「シアはどちらに対してでもいいから『ペイン』を頼む。それが決まれば、多分何とかなるはずだ」

「分かりました」

 周囲を囲われている以上逃げる事は出来ない。

 つまり勝つしかないのだが、俺の頭で思いつく勝つ方法はシアの『ペイン』でどちらか片方を激痛状態に陥れ、動きが止まっている間に、もう片方をシアの支援を頼みに殴り倒すぐらいしか無さそうだった。

 要するにシア頼みと言う事である。

 窮地に陥った原因は俺にあるにも関わらず……だ。


「ニュ……」

「ラ……」

「シア!」

「『ペイン』!」

「ライイイイィィィ!?」

 敵が動き、俺たちも動く。

 目の前の壁からハイドオクトパスの吸盤が付いた腕が伸びてくる。

 シアの杖から俺の背後の方に居た敵に向けて光の球が放たれ、ハイドライの叫び声が響いてくる。


「ロ~ン!」

「ふんっ!」

 俺の構えた盾にハイドオクトパスの腕が当たり、巻き付き、逃げられないように絡め捕ってくる。

 対する俺は右手に持った斧をハイドオクトパスに叩き付け、そのHPを僅かにだが削る。

 こうなればもう倒すか倒されるかである。


「ふんっ!ふんっ!ふんっ!!」

 俺は何度も何度も斧を叩きつけ、ハイドオクトパスに攻撃を行う。


「ニュロロロー」

「ぐっ!?」

 だがハイドオクトパスも当然ただ殴られているわけではない。

 俺に腕を叩きつけて攻撃し、墨を吐きつけて盲目状態にし、身体に絡み付いて動きを封じようとし、腕の中に隠された口で噛んでもくる。


「ぐらああああぁぁぁぁ!」

「ニュロロロォォ!」

 それでも俺は殴り続ける。

 斧を盗られれば盾で、盾も取られれば手で、あるいは口で、己の安全を顧みずに、ただただ相手の命を削る事だけに専念する。

 シアに不意討ちをした貴様だけは絶対に殺して見せるという殺意を込めて。

 途中途中で何処からか力が流れ込んでくるのを感じつつ。


「うるがあぁぁ!」

「ニュ!?」

 そして俺は掴む。

 ハイドオクトパスの口の中、他の部位に比べて明らかに硬い、しっかりとしたその部分を。

 それを掴んだ俺は……


「ふんっ!」

「ニュゴ!?」

 全力でそれを引き抜く。


「ニュロー……」

 急所だったのだろうか?

 ハイドオクトパスのHPバーは底を突いており、俺の身体に絡んでいたハイドオクトパスの足も力を失って外れていく。


「はぁはぁ……シア!」

 これでハイドオクトパスは倒した。

 だが戦闘はまだ終わっていない。

 俺は急いでシアの方を向く。


「くっ……マスター!お願いします!」

「分かってる!」

 シアはハイドライ相手に光の球を打ちながら、必死に逃げ回っており、その全身には雪が付いていた。

 そして、そのHPバーは残り10%を切っており、誰の目から見ても危険域に突入していた。


「こっちだ!」

「ライ!?」

 俺は地面を這ってシアを追い続けていたハイドライに斧を叩きつける。

 俺が攻撃した時点でハイドライのHPバーはまだ80%残っていた。

 対する俺のHPはよくよく見てみれば、シアと同程度、10%を切っていた。

 どうやらハイドオクトパスにかなり削られていたらしい。

 いや、格上相手にこれだけで済んでいるのだから、むしろ幸運だったと思うべきだろう。


「ラ……」

「っつ!」

 だがいずれにしても、しばらく攻撃は受けられない。

 そう判断した俺は尻尾が僅かに動いたのを見て、咄嗟にその場から飛び退く。

 直後、ハイドライの尾が俺の目の前を通過していく。


「ふんっ!」

「ライ……」

 俺は攻撃後の隙を狙って斧を叩きつける。

 だがハイドライはゆったりとした動きで俺の動きを回避すると、周囲の風景に同化してその姿を眩ませる。


「シアッ!」

「はい!マスター!」

 俺とシアは再び背中合わせになって周囲を警戒する。

 そして同時に呼吸を整える。

 少しでもHPを回復させるべく。

やらかしました

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