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【AIOライト 17日目 08:12 (2/6・雨) ハナサキの海岸】


「流石に人が多いですね」

「まあ、昨日と一昨日で結構な数のプレイヤーが到着しただろうからな。今日あたりからは賑わってもおかしくはない」

 ハナサキの海岸は、二日目に西の草原に出た時と同じような状況……つまりは多くのプレイヤーでごったかえしていた。

 加えて本日は雨。

 そのため、本来ならば波が寄せては返す浜辺も、潮風に草木が揺れる草原も、その本来の姿を隠してしまっており、何とも微妙な気分にさせられる状態になっていた。

 特に携帯錬金炉を自作するヒントの件もあってか、白い花の周囲には人だかりのような物が出来ていた。

 元の姿のままであるのは……安全に入る方法が分かっていない海と、波風で浸食されて奇妙な形になっている岩場ぐらいか。


「しかし……白花が白い花って言うのは、ちょっと安直過ぎると思うんだがなぁ……」

「そうなんですか?」

「ああ、たぶんだけど違う。こんな街の近くで簡単に手に入るようじゃ、他の素材との釣り合いが取れていないと思う。青い左目在りし場だって、ヒタイからかなり離れた場所にあったしな」

「言われてみればそうですね」

 俺はシアと一緒に海岸線を歩きつつ、人だかりの隙間から白い花を見てみる。

 そうして見た結果として確信する。

 やはりあの白い花は普通の白い花であり、携帯錬金炉との関わりは無さそうだと、ここにあるのはGM(ゲームマスター)のミスリードであると。


「もう少し街から離れてみよう」

「はい」

「でまあ、雑魚モンスターと戦いつつ、良い自動生成ダンジョンが有ったら、そっちに潜ろう」

「白花はいいんですか?」

「採取出来る日が限られている可能性もあるからな。何日もかけてじっくりと探すつもりで居た方がいい。だから、いい素材が手に入りそうなら、そっちを優先して、装備を整えた方がいい」

「分かりました」

 だが白花自体までは分からない。

 と言うわけで、俺はシアと共に気長に探す事にしたのだった。


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【AIOライト 17日目 10:35 (2/6・雨) ハナサキの海岸】


「ーーー……」

「やっぱりプレンだと弱いですね」

「だな」

 歩く事およそ二時間。

 時折、二、三匹で襲い掛かってくるモンスターたちを退けながら、俺とシアは海岸線に沿って北上を続けていた。

 で、今襲ってきたのはプレンクラゲLv.7、Lv.9、Lv.12の群だったのだが、ノイズクラゲとの戦闘経験もあったので特に何の問題もなく狩れた。

 あれならば、ノイズクラゲ一匹の方がよほど強かったぐらいである。

 何と言うか、改めてモンスターの特徴と特性の組み合わせは重要なのだなと実感させられた感じである。


「おっ、自動生成ダンジョンだな」

「本当ですね」

 さて、既に周囲の人影は疎らになって来ている。

 それに反比例するように、自動生成ダンジョンの入り口である白磁の扉はその数を増やしてきている。


「どんなダンジョンでしょうね?」

「さて、どんなのだろうな?」

 俺とシアは白磁の扉に近づいて、自動生成ダンジョンの正体を確かめる。


【ゾッタは『秘匿する凍土の街』を発見した】

「『秘匿する凍土の街』……か」

 自動生成ダンジョンの名前は『秘匿する凍土の街』。

 えーと、記憶が確かなら、秘匿するは特性:ハイドの事で、敵が発見しづらくなっている。

 凍土は雪や氷の出現。

 街は……本当に街を歩くような感じになるんだったか。


【『秘匿する凍土の街』 レア度:2 階層:5 残り時間71:59:02】

「行ってみてもいいか?シア」

「私は構いません。マスター」

 クリアは……まあ無理だろう。

 レア度も2あるしな。

 だが、素材回収と言う面から見れば、中々に美味しいダンジョンではないかと思う。

 敵に遭遇しても、全力で戦えば、最初に『回復力溢れる森の船』に潜った時のように一方的に葬られるような事は無いだろうし、何とかはなると思う。


「よし、それじゃあ、行ってみるか」

「はい」

 と言うわけで、俺は白磁の扉に手をかざし、シアと共に『秘匿する凍土の街』へと進入した。


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【AIOライト 17日目 10:40 (2/6・雪) 『秘匿する凍土の街』】


「っつ!?」

「寒いな。大丈夫か?シア」

「あ、はい、驚きましたけど、大丈夫です」

 『秘匿する凍土の街』に進入した俺がまず感じたのは真冬の家の外のような寒さだった。

 その寒さは、俺たちが今居る場所が何処かの小さな石造りの民家の中で、一応は屋内であるにも関わらず、寝たり休んだりしてはいけないと思わせるほどだった。

 そして、窓から僅かに窺える外の光景には、空から降り注ぐ雪が見えており、何処か幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「そうか?ツラいなら……」

「いえ、大丈夫です。これぐらいなら問題ありません」

「分かった」

 寒さに依るものか、シアの耳先は赤くなっている。

 それとこれは俺もだが、寒さによって息は完全に白くなっている。

 これは……危ないと俺が感じたら、シアがどう言おうが関係なく、脱出するべきだな。


「じゃあ、慎重に探索を進めていくぞ」

「はい」

 俺は家の外に通じる扉に手をかけると、家の中に流れ込んでくる冷たい空気を感じつつ、ゆっくりと開け放った。

寒いから雨が雪になる。普通ですね。


08/18誤字訂正

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