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【AIOライト 17日目 06:00 (2/6・雨) 漁村ハナサキ】
『ピピッ、ピピッ、ピピッ』
「ん?」
翌朝、俺は聞き慣れない音に目を覚ます。
「ふぁ……おはようございます。マスター、どうかしましたか?」
「おはようシア。いや、ちょっとな」
シアが目を覚まして体を起こす横で、俺は音源を探る。
音源は……視界左上のステータスバーから、つまりは現実に鳴っているのではなく、システムの方から俺にだけ聞こえているように音が鳴っているらしい。
となると、その原因はメニュー画面を開けば分かるはずである。
と言うわけで俺はメニュー画面を開く。
「ああ、メッセージか」
音の原因はフレンドのタブにあった。
どうやら、重要なメッセージが届いたので、わざわざ音まで鳴らしたらしい。
まあ、俺の所には一度も普通のメッセージが届いた事はないので、実際にどんな音が鳴るのか知らないのだが。
「朝ごはん作ってますね」
「よろしく頼む」
とにかくメッセージが届いた以上は、中身を確認しなければならない。
まずメッセージの数は二件、差出人の名前は『
うん、前者はともかく後者はこの上なく怪しいな。
タイトルも『賢者の石を求める者へ』とか書かれてあるし。
とりあえず、こっちは後回しにしよう。
「えーと、『巌の開拓者』の方は……っと」
俺は『巌の開拓者』運営を名乗る人物から届いたメッセージを見る。
タイトルは『運営からのお知らせ』。
内容は……要約してしまうと、錬金レベルが10に到達したから、ギルドショップの品ぞろえが更新されると共に、新しい機能が使えるようになりましたという物だ。
品ぞろえについては……本当に色々と追加されているし、レア度:2のアイテムも買えるようになったようだ。
まあ、俺のプレイスタイル上、修理結晶購入以外でお世話になる事は少なさそうだが。
「新機能の方は……なるほど、重要だな」
注目するべきは新機能の方。
どうやら、アイテムを10個までギルドショップに登録する事が出来るようになり、登録したアイテムは
そして、この複製のレベルだが……素材とレア度は勿論の事、特性に付加効果まで複製してくれるらしい。
つまり、有料ではあるが、アイテムを無限に増殖させることが出来るという事である。
ちなみに、システム外の物を色々と利用しているレア度:PMについては登録不可と末尾にこっそり書かれていた。
それはまあ……そうだろうな、うん。
後、個人的には料理関係も厳しいのではないかと思う。
料理は料理本体だけで完結するものじゃないからな。
「良い事でもありましたか?マスター」
「ああ、だいぶいい事があった」
いずれにしても、この機能は今後の攻略活動の円滑化の為に有効活用するべき機能である。
と言うわけで、俺は魚入りのパイを持ってきたシアに礼を言うと、美味しくパイをいただきながら、シアに新機能の説明をしておく。
十枠もあるなら、数枠ぐらいはシアの為に使っても良いと判断したからだ。
「なるほど、では、数を増やしたいものが有ったら、マスターに頼みますね」
「ああ、その時は遠慮なく頼んでくれ」
うん、喜んでもらえたようで何よりだ。
「さて、それじゃあ、もう一つの怪しいメッセージの方だな」
「怪しい……ですか?」
「ああ、凄く怪しい」
さて、『巌の開拓者』運営からのメッセージを読み終わったら、次は差出人不明のメッセージである。
まあ、ここはゲームの中の世界であるし、差出人不明のメッセージなんてほぼ100%の確率で
「ま、開けてみなければどうするべきかの判断も付かないし、開けるぞ」
「はい」
と言うわけで、俺は特に警戒する事なくメッセージを開くと、その内容を読む。
そこにはこう書かれていた。
『汝、賢者の石を欲する者よ。賢者の石を求めるならば、双角登り、千変万化する迷宮を抜け、碧玉の板に潜む双角の主を下し、汝が技を以って胴への鍵を手にせよ。胴の中心、かつて栄華を極めし都に汝が欲する者の手掛かりはある』
「……」
「マスター、これって……」
シアは困惑の表情を浮かべている。
携帯錬金炉のヒントと同じで、わざと少し違う言葉を使い、少々意味を理解するのが面倒になっているから仕方がないが。
だがまあ、意味するところは分かる。
「ヒントだ。それも今は頭の片隅に留めておけばいい程度のな」
「そうなんですか?」
「ああ」
ゲームをクリアしたいなら、双角の山……恐らくは東の丘陵の南北に存在している山に登り、そこでボスを倒して先に進むためのアイテムを手に入れろ。
アイテムが手に入ったら、滅んだ都を目指せと言う話だ。
うん、今は無視していいな。
なにせだ。
「今の俺たちがやるべき事は携帯錬金炉の作成と、レア度:2の素材を用いた装備品の作成、それにレベル上げだからな。このメッセージに書かれている事をこなすのは、その後で十分だ」
「分かりました」
今の俺にはもっと優先してやるべき事があるからだ。
「さ、そう言うわけだから、飯を食ったら雨具を着けてハナサキの外に出るぞ」
「はい、分かりました」
そうして俺たちは魚のパイを平らげると、一通りのアイテムを持ってハナサキの北の方の門からハナサキの海岸に出たのだった。
08/17 誤字訂正