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「とりあえず回収だな」
一通りの疲労感を感じ終った俺はその場にしゃがみ込むと、目の前に横たわっているプレンキャタピラの死体を剥ぎ取り用ナイフの刃先で突く。
するとプレンキャタピラの身体が白い光の粒子に変わって消滅。
俺の目の前に半透明の画面が表示される。
△△△△△
プレンキャタピラの皮
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
プレンキャタピラの緑色の皮。
ぶよぶよとしたその皮は意外と伸縮性があり、加工次第では様々な用途に使える。
▽▽▽▽▽
「皮か……防具にでも使えばいいのか?」
入手したアイテムの名前はプレンキャタピラの皮。
見るからにゲーム序盤の汎用素材……と言うか実際そうなのだろう。
初日の初戦闘からレアアイテムが出たりしたら、クソゲー分類待ったなしである。
「バインドは……治ってるのか。でもHPバーは全然だな。少しじっとしているか」
いつの間にかバインドの状態異常は解けていた。
その場から移動できなくなるという凶悪な効果ではあるが、流石に最序盤だけあって効果時間そのものは短いらしい。
だがHPバーについてはまだ10%にも到達していなかったので、俺は適当な木に背中を預けて、地べたに直接座る。
ヘルプに依れば楽な姿勢や状態であればあるほどにHPバーの回復は速くなり、回復力を上げることによってその速さは更に増すとの事だったので、これで間違っていないだろう。
「しかし……序盤から状態異常が来るとなると対策を考えないとな……」
俺は体を休めつつもメニュー画面のヘルプタブを開き、今後の戦闘について考える。
正直な話、単純にダメージがデカいだけ、攻撃が速いだけならば対策は幾らでもあると思う。
だが状態異常は拙い。
状態異常の種類によっては……それこそ睡眠なんて状態異常を一人で居る時に受けてしまった日には、死に戻りが確定したと考えてもいいだろう。
「一番簡単な対策は……パーティを組む事か」
『AIOライト』では最大六人一組でパーティを組むことができ、そのパーティを四つ繋げた
まあ、アライアンスについては脇に置いておくとして今はパーティだ。
今のこの状況ならパーティは難なく組めると思う。
誰も彼もが少しでも戦力を欲しているはずだからだ。
と言うか、今の時点で終始ソロで行くことを決めている奴が居るとしたら、そいつはよほどの変態か、実力者か、コミュニケーション能力に難を抱えている人間だと思う。
そしてパーティを組めれば状態異常の脅威度は基本的に下がる筈だ。
行動不能状態に陥っても、他のプレイヤーに助けて貰えばいいのだから。
「後は……ホムンクルスか」
ホムンクルス。
錬金術によって生み出される人造人間で、『AIOライト』はβテストの時は様々な容姿と性格のホムンクルスをガチャで引いて集め、戦わせるという内容だったらしい。
今もプレイヤーが錬金術師であるという事に変わりはないのだし、それを考えれば何かしらの手段でもってホムンクルスを入手することは可能であると考えるべきだろう。
問題はどうやってホムンクルスを入手するかだが……皆目見当がつかない。
「……。うんまあ、無理だよな」
なお、原典と言うか現実の錬金術ではホムンクルスは人の精液から造られるものであるらしい。
が、この世界では尿意も便意もない上にメニュー画面で装備を変更できる関係か、ズボンを脱ぐと言う行為は出来ないようだった。
さらに言えば、脚防具を外しても、股間部分をガードするパンツだけはきっちり装備されているようだった。
つまり、この世界で人の精液を入手することは不可能であるため、ホムンクルスが造れるとすれば別の方法でと言う事になる。
「さて、HPバーはそろそろいい感じか」
さて、そんな馬鹿な事をやっている間に、俺のHPバーは80%を超えるところまで来ていた。
回復力13はやはり伊達ではないらしい。
「じゃ、そろそろ探索を再開しますかね」
俺は立ち上がると、プレンキャタピラと戦う前に向かっていた採取ポイント……樹の幹が光っている場所に向かう。
「んー……試してみるか」
プレンキャタピラと戦う前、俺は草の採取ポイントを剥ぎ取り用ナイフで採取してみた。
だが、相性が良くなかったのだろう。
手に入れた薬草は少し耐久度が落ちていた。
しかし、採取する対象が樹で、採取に使う道具が斧ならば?
これの相性が悪いとは俺にはとても思えない。
むしろいいはずである。
「せーのっ!」
と言うわけで俺は腰の斧を抜くと全力で樹の幹の光っている部分に叩きつけてみる。
すると手で触れた時には数秒かかっていたゲージが一瞬にして溜まり切り、即座に俺の目の前に半透明の画面がポップしてくる。
「どれどれ……」
俺は笑みを浮かべながら得たアイテムを確認する。
△△△△△
普通の丸太
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
斧で切られた極々普通の樹の幹。
そのまま使ってもいいし、加工してもいい。
何事も発想次第である。
▽▽▽▽▽
「よし!」
俺は思わずガッツポーズする。
これが斧を使ったおかげで入手出来たのか、偶然手に入ったのかについてはもう何度か試して見る必要があるだろう。
だが俺は半ば確信していた。
これは斧を使ったからこそであると。
「ようし、次だな」
そして俺は自分の考えが正しい事を証明するべく、草の採取ポイントを無視して、樹の採取ポイントに向かう事にした。
06/20誤字訂正