79:16-1
本日は二話更新になります
こちらは一話目です
【AIOライト 16日目 08:13 (半月・晴れ) 漁村ハナサキ】
翌日。
俺とシアの二人は、『
「心地いい潮風ですね」
「だな」
海まで続く坂道を駆け抜ける潮風は本物と違ってべたついたりすることが無く、とても爽やかな物である。
ただ、街行く人々はいつもの事なのだろう。
朝からとても忙しそうに見えるように繰り返しの行動をとっている。
「それにしてもよかったんですか?」
「何がだ?」
と、興味深そうに今朝採れたばかりという名の、先程目の前で耐久度が回復したばかりの魚を眺めていたシアがやや唐突に問いかけてくる。
だが俺には何の話か分からなかったので、尋ね返す。
「今日は一日ハナサキで過ごして休む。と言う話です」
「ああ、その事か。別に問題はないさ」
俺はシアの質問に答えつつ、今朝そう言った際に見せたシアの唖然とした表情を思い出す。
あの顔は本当に予想外で仕方がないと言う顔だったな。
その後は俺が決めた事なら仕方がないか……と言う顔をしていたが。
「いやあの……マスターって一日でも早くクリアしたいとかは思わないんですか?」
「それは思っているな」
「だったら……」
「だからこそなのさ」
「だからこそ?」
俺は露店で売られている銀製の食器の値段に多少頬を引き攣らせつつ、シアの質問に答える事にする。
「ゲーム開始から既に丸二週間が経つ。だが、ゲームクリア条件である『賢者の石』についてはまだ何も分かっていない。それどころか、基礎すら固まった雰囲気が無い。となると、ゲームクリアまでには月単位、あるいは年単位で時間がかかると思った方がいい」
「それは……そうかもしれませんけど」
ゲームクリアまでにかかる時間についての予想は、悪い意味でつかない。
だが、今の状況から考えるに、何かしらの大きなブレイクスルーでもなければ、一年以上かかるというのは、俺だけでなく既に多くのプレイヤーが内心で思っている事だろう。
なにせ今の時点でまだ二つ目の街であり、戦闘レベルと錬金レベル、その何れかが10に到達していればトッププレイヤーの枠に入ると言う状況なのだから。
「で、毎日睡眠時間3時間以下のそれ以外は全て戦闘か錬金術に費やしています、なんて言うレベルの廃人は居ても一人か二人程度で、とてもじゃないが俺にはその域には至れない。そして、毎日毎日緊張状態を維持し続けるって言うのも俺には無理だ。そこまでの集中を維持する力は俺には無いからな」
「ボソッ……(マスターが廃人云々言うのは正直どうかと)」
「ん?」
「いえ、何でもありません」
「まあ、いいか。とにかく、そんなわけだから、時には休憩を入れて、緊張の糸をわざと切っておくことも、俺みたいな凡人が効率よく進むためには必要なんだよ。だから今日は休み。観光ついでにギルドポータルの登録や、ちょっとしたアイテム回収はしても、それ以上をする気はない」
「は、はあ……そう言う事なら、分かりました」
シアは微妙に納得がいかなさそうな表情をしているが、それでも俺の今日は休みにするという意見には納得してくれたのだろう。
先程まで微妙に張っていた気を少しではあるが緩めてくれる。
完全に緩めるのは……まあ無理か、NPCだけじゃなくて、プレイヤーも少なからず俺たちの周囲には居るし、中には微妙に不穏な雰囲気を出している奴もいるしな。
「さ、そう言うわけだから、とりあえずはあの一際大きい建物に向かうぞ」
「あ、はい」
まあ、街の中ではやれても決闘の申し入れまでだ。
気にする必要はない。
と言うわけで、俺はハナサキの街の中でも、一際大きい建物が密集している場所へと向かうのだった。
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【AIOライト 16日目 11:22 (半月・晴れ) 漁村ハナサキ】
「普通に本部でしたね」
「だな。普通に本部だったわ」
一際大きい建物が密集していた場所は、ハナサキに存在している
理由は定かではないが、ヒタイと違ってハナサキでは七つのギルドを一つの広場にまとめて、利便性を高めたらしい。
まあ、実際便利ではあるのだろう。
本部前の広場では一部のプレイヤーが露店を出していたり、物々交換を持ちかけたり、パーティメンバーを探したりする場として活用されていたようだから。
「それで、この後は?」
「んー、折角の港町だし、船には乗ってみたいんだよな」
「じゃあ、港ですね」
「そうだな」
ただまあ、今日の俺たちには用がない。
と言う事で、俺は『巌の開拓者』ハナサキ本部を登録すると、更に坂道を下り、多くの船が停泊すると共に、行き交ってもいる港の方へと向かう。
尤も、行き交っていると言っても、よくよく見れば同じ船が同じ場所を行ったり来たりしているだけなのだが……そこはまあ、いつものGMの手だろう。
そう、違和感を感じる光景によって、此処がゲームの中だと理解させるいつもの手。
気にする必要はない。
それよりも今は船である。
そんな訳で俺とシアは港に向かい、暇そうにしているNPCの漁師に話しかけ、船に乗せてもらえないかと頼む。
「ああ?船に乗せろだ?馬鹿言うな。余所者を乗せる船何ぞハナサキにはねえよ」
「「……」」
が、その結果は惨憺たるものだった。