77:15-3
本日は二話更新になります
こちらは一話目です
【AIOライト 15日目 17:21 (4/6・晴れ) 漁村ハナサキ】
「ヒタイとはまるで違いますね」
「そうだな。大違いだ」
ハナサキは簡単に言ってしまえば、ヨーロッパは地中海沿岸の港街と言う雰囲気を持つ街だった。
それも建物や道路、NPCの見た目だけではない、歩いていて香ってくる匂いに、波の音、露店で売られている商品の品揃えも含めての話である。
なお、街の構造としては、街の入り口は高い場所にあったが、生活の場は門から坂を下った場所にある。
そのために、坂の上からはレンガ造りの街並みに海、それに船をまとめて眺められるのだが、その光景は中々に感動的な物である。
「お魚……パイも良いですけど、ムニエルとか、ソテーとかもいいですよねぇ」
「まあ、買うなら明日だけどな。もう今日は日が暮れかけているし」
ちなみに露店で売られている魚の鮮度……耐久度については時間の影響があるらしく、夕方の今だと微妙に減っていた。
これだと……うん、ちょっと買いたくはないな。
何となくではあるけれど。
「と、在ったな」
「あ、本当ですね」
と、ここで俺はようやくハナサキの『
日暮れまで後三十分ほど。
割とギリギリの発見だった。
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「「「『巌の開拓者』へようこそ!」」」
「あ、少し衣装が違いますね」
「潮の香りもするな」
ハナサキの『巌の開拓者』は、基本はヒタイのそれと同じだったが、細部まで見ると少し変わっていた。
具体的に言えば、受付嬢の着ている和服が青を基調とした海をイメージさせる模様のものになっていたり、壁の装飾がどことなく海を思わせるものになっていた。
「とりあえず、登録っと」
【ギルドポータル:ゾッタのポータル移動先に『巌の開拓者』ハナサキ第7支部が登録された】
「これで一安心ですね」
「だな」
なにはともあれ、まずはギルドポータルの登録と言う事で、俺は何時もの巨大天秤に手をかざし、移動先を増やす。
これで仮にこの後何かがあって死に戻りする事になっても、転移一回でハナサキまで戻って来る事が出来る。
「後は部屋のレンタルと携帯錬金炉についてだな」
「はい」
俺は受付嬢に近づき、いつも通りに一番安い部屋をレンタルする。
そして、メニューの中に携帯錬金炉についての項目がある事を確認したので、それに触れてみる。
「携帯錬金炉についてですね。そちらにつきましては奥の部屋で個別に相談することになっていますので、奥へとお越しください」
すると受付嬢は何時もの作り物な笑顔を浮かべつつ、奥の扉を手で示す。
ああうん、何となくだが、この時点で携帯錬金炉の入手が一筋縄ではいかないって言うのが分かるな。
「マスター」
「まあ、行くしかないだろ」
一筋縄でいかない気はするが、それでも話を聞かなければ話が進まない。
俺は心の中でそう考えると、シアを連れて奥の扉へと向かった。
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「いらっしゃい、よく来たね」
扉の向こうは壁も天井も布で覆われた暗い部屋だった。
部屋の中心にはタロットカードと小さな灯りが乗せられたテーブルが置かれており、テーブルの向こうの椅子には老婆が腰かけていた。
「携帯錬金炉についてはアンタに相談すればいいのか?」
「その通りだ。さ、そこに座りな」
俺は椅子に座りつつ、老婆を観察する。
老婆は全身を緑色の布で覆い、フードを目深に被っているため、皺とシミだらけの地肌は指先と顔の鼻から下しか見えない。
その声はしゃがれてはいるが、不思議と聞き取り辛くはない。
「シアは俺の後ろに」
「はい」
「さて、アンタが携帯錬金炉を手にする方法は四つある」
老婆は他のNPCとは違う淀みない手付きでタロットカードのシャッフルを始め、テーブルの上に四枚、裏返しで並べる。
これは……もしかするともしかするかもしれない。
「一つ目は金で解決する事。1個10,000Gだ」
「そんな金はない」
「だろうね」
老婆が一枚目のカードをめくる。
数字は3、女帝、正位置だ。
「二つ目はホムンクルスの核を錬金術師ギルド……ああ、ハナサキの本部にだよ。そこに納品する事」
「今持ってるなら、戦力の増強に使う」
「まあ、そうだろうね」
老婆が二枚目のカードをめくる。
数字は5、法王、逆位置だ。
「三つ目はこちらが指定した三つのアイテムを制限時間内に納品する事」
「んー……」
「かかっ、悩むよねぇ」
老婆が三枚目のカードをめくる。
数字は18、月、正位置だ。
「四つ目は自分で作る事。ヒントぐらいはあげるがね」
「へぇ」
「乗り気だねぇ。いい心構えだ」
老婆が四枚目のカードをめくる。
数字は14、節制、正位置だ。
で、このタロットに何の意味があるんだろうな?
「さて、どうするかい?」
「そうだな……前にも言ったが、俺はお前に与えられる金には興味がない」
「……。それは私は知らない話だねぇ」
俺の言葉に老婆が僅かにだが口角を釣り上げる。
うん、今ので確信した。
この老婆は
どうしてこんなところにいるのかとか、一プレイヤーに過ぎない俺に干渉していいのかとか、色々と突っ込みどころはあるけれど。
「さて、ヒントだが……『羊の鼻が見つける白花と赤い右目の澱みが器となる。限られし時に眠るものと青い左目在りし場の涙が泉となる。器の中に泉の源来れば汝の炉は産声を上げるだろう』」
「謎解きか」
「ふふっ、本物を目指すならこれぐらいは解いて見せるんだよ。本来の錬金術ってのは、そう言う物だからね。そして本物なら……と、これ以上はまだ言えないねぇ」
「そうかい」
老婆はとても楽しそうに笑っている。フードの端から橙色の髪の先を見せつつ。
「さ、頑張りな。アンタの努力次第で幾らでも世界は変わるんだからね」
「そうだな、お前が望まない世界に変えてやるよ。クソ悪魔」
「やってみせな、ひよっこ錬金術師」
そう言うと老婆は消え去った。
「え?」
「ま、これぐらいは出来るよな」
そして気が付けば、俺たちの居る場所は『