74:14-4
【AIOライト 14日目 17:42 (5/6・雨) 西の草原】
「さて、陽もだいぶ傾いて来たし、そろそろ今晩の寝床を探したい所だな」
「野宿は出来るだけ避けたいっすよねー」
「眠っている所に襲われるのは勘弁願いたいもんな」
さて、ジャックさんたちと合流してからおおよそ十時間後。
陽はだいぶ傾き、もう間もなく夜になるところまで来ていた。
そのため、俺たちは西へ向かうのを控えて、今晩の寝床を探す事になった。
「寝床ってのは、例のあの方法でいいんですよね」
「その通りだ。向いているのと向いていないのとがあるが……まあ、選り好みをしている余裕はないだろう」
勿論、最悪の場合ではあるが、西の草原に点在している木や岩場の陰で眠るという未来はある。
が、現状では焚火のような灯りを長時間得る方法は殆ど無いし、襲い掛かってくるモンスターを抑える手段もないため、寝ずの番を立てるにしても、一晩過ごすのはそれなりに難しい行為になるだろう。
この点は、長距離を旅するプレイヤー共通の悩みだった。
少し前までは。
「マスター、例のあの方法と言うのは?」
「んー……簡単に言ってしまえばシステムの穴を突く方法だな」
「システムの穴を突く?」
俺の言葉にシアは首を傾げ、不思議そうにしている。
シアもこの仕様については知っているはずなのだが……まあ、仕様を知っているのと、この方法を思いつくかどうかはまた別と言う事か。
と言うわけで、俺は目標のそれを探しつつ、シアに説明をする。
「ああそうだ。シアも自動生成ダンジョンは知っているよな」
「あ、はい」
「その自動生成ダンジョンだが、入り口である白磁の扉を通った直後の部屋。あの部屋については敵モンスターが出現しないようになっている事が、検証勢からの報告で分かっているんだよ」
「もしかして……」
勿論、部屋の中にモンスターが出現しないだけで、部屋の外に居るモンスターにこちらの存在を知覚されれば、普通に部屋の中に入ってくるのだが、その点については寝ずの番を立てるなどして、少し気をつければ問題ない点である。
「だから、残り時間が15時間ほどある自動生成ダンジョンさえ見つかれば、とりあえず普通に眠っている限りではモンスターに襲われない場所を確保できるという事だ」
「なるほど……よく考えつきましたね」
だが逆に言えば問題になるのはその点だけ。
残り時間にさえ注意すれば、安心して眠れるという体力回復において最も大きなアドバンテージを得られる場所になるのだ。
「ちなみに、寝床として活用する場合に人気があるのは岩、森、機械系のダンジョンで、人気が無い組でも特に不人気なのは湿地系のダンジョンだ。理由は……まあ、言わなくても分かるだろう?」
「あ、はい。それは分かります」
「湿ってる場所とか寝るにはちょっとなー」
「流石にあの雰囲気で眠るのは少しな」
なお、今ジャックさんが言った部分は自動生成ダンジョンの名前の中で、特性について記述した部分の次に記述されている部分、俗にダンジョンの素材について記述しているとされている部分の話である。
で、末尾の部分、俗にダンジョンの構造について記述されている部分について、寝床として見た場合の人気は船タイプが圧倒的不人気である。
どうやら、不規則な揺れが寝るのには適さないらしい。
「おーい、見つけたぞ。大当たりだ」
「分かった。今行く」
と、クリームブランが寝床に良さそうな自動生成ダンジョンを見つけたらしい。
と言うわけで、俺たちは全員揃ってそちらに向かい、名前と残り時間を確かめた後でその自動生成ダンジョン……『少量の機械の塔』の中に入った。
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【AIOライト 14日目 18:03 (5/6・雨) 『少量の機械の塔』】
「どうにか日暮れまでに入れたな」
「そうですね」
『少量の機械の塔』の最初の部屋は、全面金属製で、何かの駆動音のような物が壁の中から聞こえてくる、どこかSFチックな部屋だった。
尤も、駆動音と言っても、それほど大したものではなく、寝るのに支障を来たすようなものではないので、不眠の心配をする必要は無さそうだが。
「残り時間は27時間。明日の朝までちゃんと存在しているな」
「レア度が2だから、部屋の外に出るのは絶対に止めた方がいいけどな」
部屋の中に家具や装置の類はない。
あるのは次の部屋に繋がる扉だけである。
だが、クリームブランの言うとおり、『少量の機械の塔』のレア度は2、戦闘になれば、一戦二戦程度でも全力で戦う事になるだろう。
そうなれば……まあ、明日以降の旅にも支障を来たす事になるだろう。
「では、寝ずの番は決めた通りの順番で」
「分かりました」
「了解です」
「頑張らせてもらいますわ」
そう言うわけで、寝ずの番をする人間は重要である。
悪意あるプレイヤーが来ないとは限らないのだから。
なお、寝ずの番の順番はマンダリン→ジャックさんと俺→クリームブランの順である。
「じゃ、俺たちは眠ってます」
「あの、マスター?そう言えば寝具は?」
と、ここで他の人たちと違って、寝具を用意していない事に対して、疑問を浮かべる。
だが何の問題もない。
「大丈夫だ。俺が下になれば一晩ぐらいは問題ない」
「えっ!?」
「俺がシアを抱えて寝れば、一晩ぐらいは問題ない。俺の回復力なら数字的にも支障はないな」
「えーと……」
俺の言葉にシアは困惑している。
で、そんな俺たちの横では……
「その手が有ったか!?」
「お前天才か!?」
「「……」」
マンダリンとクリームブランが騒いでいるが……まあ、こちらはどうでもいいか。
「その……お願いします」
「ああ、分かった」
そうして俺は壁に背を預け、身体の上にシアを乗せて、シアの事を抱きかかえながら眠り始めた。
ああ、シアの身体の柔らかい感触と、甘い香りのおかげで、何だか普段以上にぐっすり眠れそうな気がするな……。