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【AIOライト 14日目 08:12 (5/6・雨) 西の草原】
「本当によかったんですか?」
「よかったって、何がだ?」
番茶さんと別れた俺とシアは、二人だけで小雨が降る中、西に向かって歩き続けていた。
そして一時間ほど経った頃、沈黙に耐え切れなくなったのかシアが口を開いた。
「番茶さんの誘いを断った事です」
「ああ、その事か。別に問題はねえよ」
「マスター、私を気遣ったりはしてないですよね」
「してないから安心しろ」
話題に上がるのは、当然のようにハナサキに向かう集団について。
どうやらシアは自分の為に俺が無理をしたと思っているらしい。
その考えは確かに間違ってはいない。
現に俺は、あの集団の中に居た一部の連中によってシアが不快な思いになるのを嫌って、二人だけで行く道を選んだのだから。
だがある意味では間違ってもいる。
「番茶さんと一緒に行かない事を決めたのは俺のわがままだ。俺のわがままだから、シアが気にするなら、むしろ俺の事を怒る方面で気にしろと言う話だ。みんなで行けば楽だったかもしれませんのに、とかな」
「マスター……」
そう、結局はそう言う事。
あの時の選択権は俺にあって、俺はその選択権を行使した。
ならばそれに伴う不利益は全て俺一人が被ればいい。
利益については……まあ、あるならシアと分け合えばいい。
これはそう言う類の話なのだ。
「と、どうやら別集団に追いついたみたいだな」
「え?あ、本当ですね」
さて、今更ではあるが、旅の人数を減らすメリットは何だろうか?
具体例を挙げれば様々ではあるが、メリットの一つに歩く速さの落ちが抑えられるというのが挙げられる。
そしてハナサキを目指すプレイヤーは俺たちと番茶さんたちが率いていたプレイヤーだけではなく、ほぼ全てのプレイヤーが目指していると言ってもよかった。
そんなわけで、俺たちの前に別のプレイヤーたちがいる事は、ある意味では必然でもあった。
「お、あの頭は……おーい!マンダリン!クリームブラン!」
「ん?おおっ!ゾッタじゃねえか!」
「おっ!久しぶり!」
尤も、そのプレイヤーたちが俺の顔見知りであったのは、嬉しい偶然だったが。
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「さて、と。一応自己紹介しておくか。『
「アンブロシアと言います」
俺とシアは、マンダリンたちと横並びになって歩きつつ、自己紹介をする。
と言うのも、マンダリンとクリームブランの他にも、初めて会ったプレイヤーが一人居たからだ。
尤も、俺たちの自己紹介は不要だったのかもしれない。
と言うのもだ。
「おお、彼女がシアちゃん……いやぁ、掲示板で『
「何と言うかアレだよな。普段テレビとかで見ているアイドルに実際に会った気分、アレに近いものがあるよなぁ……」
「は、はあ……」
「心配しなくても君たちの事は知っている。『
「へぇ、そうなんですか」
マンダリンとクリームブランの二人は勿論の事、もう一人の男性も俺とシアの事を既に掲示板で知っていたからだ。
どうやら俺の思っている以上に、シアについての情報は掲示板で拡散されているらしい。
うんまあ、こればかりは仕方がないな。
シアは可愛いし、普通のホムンクルスとは明らかに色々と別だからな。
「じゃ、俺たちの方も自己紹介をしておこうか。俺の名前はマンダリン。『真理の探究者』所属だ。で、こっちが俺のホムンクルスのウンシュウ。可愛いだろう」
「……」
マンダリンが自分自身と若干小走りで横についていく杖持ちの橙髪の少女を紹介する。
どうやらウンシュウはシアと違って普通のホムンクルスであり、感情を表すような事は出来ないようだが、それでも何となくだが俺の目には二人が良好な関係を築いているように見えた。
「じゃあ次は俺で、名前はクリームブラン。『
「……」
続けて、盾だけでなくメイスも持つようになったクリームブランが、自分と隣を歩く杖持ちの赤い長髪の女性を紹介する。
レチノールもやはり普通のホムンクルスではあるようだが、クリームブランとの仲は悪くないようだ。
きちんとした繋がりのような物が感じられる。
「最後は私だな。私はジャック。武器は短剣を使っている」
最後の一人、黒髪の男性はジャックと言う名前であるらしく、腰には短剣を三本も挿していた。
見た感じだとこの中で一番強そうなのは彼な気がする。
何と言うか、身のこなしに隙のような物が見えない。
「あの、ジャックさんのホムンクルスって……」
「ああ失礼。ここに居るよ。どうにも寝ている時は物にしか見えないようになっているらしい」
シアの質問にジャックさんは短剣の一つを叩く。
すると叩かれた短剣の上にホムンクルスである事を示すマーカーが出現し、誰も触れていないのに宙へと浮かび上がる。
なるほど、魔物型……それもアームと呼ばれるモンスターの姿をしたホムンクルスか。
「名前はスカルペル。検証の為に作ったホムンクルスのつもりだったんだが……まあ、愛着がわいてしまってね。この通りだ」
「はー……」
「ふうん」
ジャックさんの言葉に偽りはないのだろう。
ジャックさんとスカルペルの間には、やはり円満な繋がりのような物が見える。
どうしてこんな物を感じられるのかは分からないが……うん、間違いとか気のせいとかでは無さそうだ。
「じゃ、ゾッタ。自己紹介も終わった事だしさ」
「折角だし一緒に行かないか?どうせお前とシアちゃんもハナサキに行くんだろ?」
「シア?」
「はい、構いません」
「じゃ、よろしく頼みます。ジャックさん、マンダリン、クリームブラン、それにスカルペル、ウンシュウ、レチノールもな」
いずれにしても彼らとならば、道中問題なく過ごせる。
そう判断した俺は、ジャックさんとフレンド登録を交わすと共に、ジャックさんたちのパーティに加えてもらう事にしたのだった。