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「キモイ!」
我ながらどうかと思う感想だったが、目の前の巨大な芋虫を見て最初に口から出てきた感想はそれだった。
分かっている。
身体の側面についている黄色の線は威嚇の為だろうかとか、生えている牙や爪がとても鋭そうだとか、マトモに体当たりを受けたらかなり痛そうだとか、もしかしたら糸を吐くんじゃないかとか、一体何処から現れたのだとか、色々と考える事があるぐらいは自分でも分かっている。
分かっていても、自分で自分にツッコミを入れてしまう程度には目の前の芋虫はキモかった。
と言うか、俺(175cm)が横になったのと同じくらいの長さで、体高も膝上ぐらいまで有る全身ほぼ緑色の芋虫がキモくないはずがないのである。
「キキュ!?」
「赤マーカーは……アクティブな敵だったか」
と、俺が芋虫に気づき、芋虫もこちらに気付いたためだろう。
芋虫の頭の上にアクティブな敵である事を示す赤い逆三角形が現れ、その横にこの芋虫の名前である『プレンキャタピラ』と言う文字と、レベルを示す『Lv.1』と言う文字、それに残りHPであろう緑色のバーが表示される。
「キャキャキュ……」
「初戦闘だな」
プレンキャタピラが上半身を重たそうに持ち上げ、鳴き声を上げつつ見るからに頑丈そうな歯を俺の方に向けてくる。
対する俺も腰の斧を右手に持ち、少しだけ腰を低くして何時でも動けるように構える。
それにしてもプレンかぁ……他のアイテムの特性に付いているプレンと同じ意味なら、このゲームの芋虫はこのサイズが普通のサイズと言う事になるのだが……うん、虫嫌いな人間ならこれだけで心が折れそうな話だ。
幸いにして俺はそこまで虫が苦手ではないので、キモイと思うだけだが。
「キキュー!」
鳴き声を上げながらプレンキャタピラが俺に向かって突進を仕掛けてくる。
その動きは俺の想定よりも少し速く、気付いた時には回避する余裕はなかった。
「ふん!」
なので俺は反射的に足を振り上げて蹴りの体勢に入っていた。
「ギキュ!?」
「ぎっ!?」
俺の蹴りが突進するプレンキャタピラの身体の側面に入り、プレンキャタピラが鳴き声を上げると共にほんの少しだけ……1%か2%程、緑色のバーが減る。
そしてそれと同時に俺の足に想像以上に固い物を蹴ってしまった感触と不快感が襲い掛かり、それに合わせるように視界左上隅にある俺のHPバーが5%程減る。
「キャキャキュー……」
「ちゃんと武器で殴れって事ね。了解」
どうやら武器はきちんと武器として使わなければ意味はなく、武器を使わずにモンスターに勝とうとするのは無謀な事であるらしい。
プレンキャタピラから距離を取った俺はそれを理解すると、改めて斧を構える。
「キキュー!」
「ふっ!」
再びプレンキャタピラが突進してくる。
なので俺は横に跳んで突進の回避を試みる。
「よし!」
先程まで俺が居た場所をプレンキャタピラが通り過ぎていく。
よし、回避は成功した。
「すぅ……」
回避に成功した俺は斧を両手で持つと、プレンキャタピラに駆け寄りながら大きく振りかぶる。
そして、走る勢いを乗せながら、プレンキャタピラの後頭部に向けて全力で斧を振り下ろす。
「おらぁ!」
「ギキュウ!?」
プレンキャタピラの後頭部から紅い燐光が無数に弾け飛ぶ。
それと同時にプレンキャタピラの緑色のバー……いや、HPバーが一気に20%程削れる。
「ふん!」
「ギキュー!」
いける。
そう判断した俺は振り下ろした斧を撥ね上げて追撃を行う。
が、俺の行動に合わせるようにプレンキャタピラも身体を勢いよくこちらに向けてくる。
「ぐっ!?」
「ギキュ!?」
結果は相打ち。
だが、俺のHPバーは30%ほど削れたのに対して、プレンキャタピラのHPバーは25%ほど削れただけだった。
どうやら考えなしの殴り合いも非推奨であるらしい。
「ギキュー!」
「うおっと!」
なので俺はもう一度振り返りながら攻撃しようとしたプレンキャタピラから距離を取り、その様子を窺うと同時に呼吸を整える。
「すぅ……はぁ……あと半分よりちょっと多いぐらいか。二発か三発は要るな」
「キャキャキュー」
プレンキャタピラは上半身を持ち上げて、俺に向けて威嚇の態勢を取っている。
「よしっ!」
ならば次は自分から……俺は心の中でそう考え、プレンキャタピラに向かっていく。
「ふん!はっ!」
「ギキュ!?ギキュー!」
「ぐっ……」
俺の攻撃は難なく二回とも決まる。
だがトドメの一撃をするよりも早くプレンキャタピラが動き、俺は腹に突進の直撃を受けてしまう。
その結果、俺のHPは30%を少し超えている程度にまで削れてしまう。
それと同時に、突進の勢いで撥ね飛ばされ、転がされ、多少の距離が出来てしまう。
「くそっ、しぶと……」
「キキキュー!」
「なっ!?」
そして距離を詰めようと俺が動こうとした時だった。
プレンキャタピラの口から白い糸のようなものが吐き出され、俺の足をその場に縫い付けてくる。
視界の左上隅、MPバーに表示された記号にはバインドの文字。
状態異常である。
「最初の敵から状態異常とか殺意高過ぎんだろ!」
「キキュー!」
その場から動けなくなった俺の下に向かってプレンキャタピラが突っ込んでくる。
「クソッタレがああぁぁ!」
こうなれば、俺に取れる手段は一つしかなかった。
俺は両手で斧を持つと、突進してくるプレンキャタピラに向けて全力でそれを振り下ろす。
「ギキュウゥゥ……」
「はぁはぁ……」
結果は……ギリギリだった。
俺のHPバーはミリ残りで、プレンキャタピラの身体はHPバーが砕け散った後、ゆっくりと横に倒れた。
そう、ギリギリだったが、勝利した。
「しんど……」
勝利したが……勝利の高揚感以上に俺がまず感じたのは、多大な疲労感だった。
初戦闘でした。
これにて初回連続投稿は終了となります。
以降は毎日昼の12時更新予定です。