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本日は二話更新になります。

こちらは一話目です

「手順はさっきと同じでいいよな」

「ええ、それでいいと思うわ」

 ノイズクラゲはこちらの動きを窺う様子も見せずに、何十本とある足を細かく動かしながら、その場で漂い続けている。

 目も鼻も耳も見当たらないので当然なのかもしれないが、どうやら満月の影響でアクティブになっていても、かなり近くまで接近しなければ、攻撃を仕掛けたりはしないらしい。


「それじゃあ、行くわよ。『ブート』!」

 先程と同じようにグランギニョルが手に持った本から光の球を放つ。

 真っ直ぐ飛んで行ったそれは狙い違わずノイズクラゲの傘部分に当たった。

 そしてノイズクラゲのHPが20%ほど減った瞬間だった。


「ーーーーーーーーーー!!」

「っつ!?」

「あぐっ!?」

「ぐっ!?」

「いっ!?」

 ノイズクラゲの全身から凄まじい音が鳴り響き、鼓膜どころか全身が揺さぶられる。

 当然、俺も含めて全員が反射的に両手で耳を塞いでいた。

 だが、既に状態異常ノイズの表示が全員のステータス欄に表示されている。

 ダメージこそないが……グランギニョルも、ブルカノさんも、そしてシアも聴覚と平衡感覚が潰されたため、マトモに動く事も出来ないようだった。


「くぁwせdrftgyh」

「ぃdp……」

 自分の声すらマトモに聞こえない中、ゆっくりとノイズクラゲがこちらに近づいてくる。

 その足には電気のような物が走っており、触れればどうなるかは考えるまでもなさそうだった。

 加えて先程の凄まじい音、恐らくはカウンター行動なのだろうが、カウンターの条件次第ではもう何度か鳴り響かせざるを得なさそうである。


「lptrjsぉいおms……」

 まあ、なんにしてもだ。


「zs、うsちlpypjslせsとmそls」

 後ろ三人が動けない以上は俺が頑張るしかない。

 なので俺は斧を杖代わりに立ち上がると、視界がぐらつき、音が音として捉えられない中でノイズクラゲの姿をはっきりと視界の中央に収める。

 収めた上で、出来るだけ安定するように腰を落とし、己を奮い立たせるように笑みを浮かべつつ斧を構える。

 うん、これなら最低限の仕事は出来るな。


「じょmmちぃ!」

「pぉきじゅh!?」

 俺は斧をノイズクラゲの傘部分に叩きつける。

 すると、ノイズクラゲは先程のような怪音を上げる事もなく、HPバーを減らしつつ素直に吹っ飛んでいく。

 どうやら物理攻撃あるいは近接攻撃ならカウンターは発生しないらしい。

 ああいや、全くカウンターが無いわけではないか、足の電撃に触れたのか、俺のHPが少し削れている。


「『おうsどえpzpystsdr』!」

 と、此処で俺の身体を緑色の光が包み込む。

 どうやらシアが『癒しをもたらせ』を使ってくれたらしい。

 それならもうHPと状態異常の心配はしなくていいな。

 後は、カウンターを気にせずに俺一人でノイズクラゲを倒すだけだ。


「くぁwせdrftg!」

「lぽ!」

 俺を一番危険な相手と認識したのか、ノイズクラゲが向かってくる。

 なので俺はそれを迎撃する形で多少バランスを崩しつつも斧を振るい、反撃の電撃を喰らいつつも接近してきたノイズクラゲを吹き飛ばす。

 後はもう、この繰り返しだった。

 こちらはHPが大して減らないのに、相手はダメージを受けて確実にHPを減らしていく。

 どちらに勝機があるかなど、考えるまでもなかった。


「ypつs!」

「pぉきじゅhyg……」

 そうして何度目かの攻撃を加えた所で、ノイズクラゲは沈黙し、力を失って地面に墜落した。

 俺たちの勝利である。


「s-、s-、あー、おっ、治ったか」

 なお、ノイズクラゲの電撃はダメージを与えるだけでなく、状態異常ノイズを与える効果も付いていたらしく、戦闘中に他の面々が状態異常から回復し、周囲の敵に乱入されないように警戒する中、俺一人だけは戦闘が終わるまでノイズ状態が治らないでいた。

 尤も、そのノイズ状態も今治ったのだが。


「さて、剥ぎ取りだな」

 さて、ノイズ状態も治ったところで剥ぎ取りをしようと思ったのだが……どうにもシアたちの様子がおかしい。


「マスター、あんな状態で戦うなんて、幾らなんでも無理をし過ぎだと思います」

「何と言うか……シアちゃん関係なしにゾッタ兄は『狂い斧』だったわね」

「ふうむ……確かにVRゲームである以上は本人の技量や精神力でどうにかなる部分もあるのだろうが……それにしてもとんでもないな」

 何と言えばいいのだろうか。

 普通の人間扱いをされていない気がする。

 特にグランギニョルからは、シアの方がよっぽど人間っぽいというような視線を感じる。

 あれー?どうしてこうなった?


「とりあえず、剥ぎ取りするぞ」

「ええまあ、そうね」

「そうだな」

 いやまあ、俺の気のせいかもしれないし、此処は気にせず剥ぎ取り作業に移ろう。



△△△△△

ノイズクラゲの電撃結晶

レア度:1

種別:素材

耐久度:100/100

特性:ノイズ(聞き取れない雑多な音を持つ)


ノイズクラゲの体内に存在している電気を貯める性質を持つ透き通った結晶。

結晶とは言うが、柔らかく湿っている辺りからして明らかに結晶ではなく、別の何かである。

なお、雷の力は風の属性に属する。

▽▽▽▽▽



「なんか妙なのが取れたな」

 俺はインベントリからノイズクラゲの電撃結晶を取り出し、手に持ってみる。

 うん、確かに柔らかいし、湿っているし、微妙にビリッと来る。

 何と言えばいいのだろうか……寒天あるいは脂の塊を触っているような、そんな不思議な素材である。


「詳しい検分は街に帰ってからにしましょう。今はインベントリがいっぱいになるまで稼ぎたいわ」

「マスター、今は先を急ぎましょう。まだ狩るべき相手は残っています」

「そうだな。そうするか」

 詳しい事は街に帰ってから。

 俺はグランギニョルとシアの言葉にその通りだと思い、次の行動に移るのだった。

ノイズもペインも本来ならば致命的な状態異常です。

ゾッタでも効果時間中は動きが鈍っていますしね。

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