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【AIOライト 13日目 11:00 (満月・晴れ) 『雑音招く湿地の図書館』】
「まずは名前通りって感じだな」
「そうね。これなら間違えようもなく湿地の図書館だわ」
「他のプレイヤーが入って来る事は無さそうだな」
「湿度が高い感じがしますね」
『雑音招く湿地の図書館』に突入した俺たちは、まずは口々に感想を言い合い始める。
いや、半分ぐらいは愚痴の気持ちかもしれない。
なにせ俺たちが突入した『雑音招く湿地の図書館』の一部屋目は、半分ぐらいが沼に沈み、壁際に置かれた苔とカビが生えきった中身入りの本棚も沼に浸かっているという、中々に先々の光景を不安視させてくれる場所だったからである。
なお、幸いにして次の部屋に繋がる扉が沼の中にあるような事は無かった。
もしも沼に沈んでいたりしたら……うん、即帰りだったな。
たぶん開けられないし。
「まあ問題はないわ。湿地系列のダンジョンがこうなっている事は、前々から知られていた事だもの」
今更な話ではあるが、自動生成ダンジョンの構成要素についてはダンジョンの名前からある程度察する事が出来る様になっている。
で、掲示板情報によれば、そんな自動生成ダンジョンの名前は三つに分ける事が出来る。
例えば俺が初めて潜った『回復力溢れる森の船』の場合なら、
回復力溢れる→特性:リジェネの付与。
森の→ダンジョンの素材に植物の要素が多く含まれている。
船→ダンジョンの構造が船を模しており、揺れる事がある。
と言う風に分けられるそうだ。
そして、この流れに従うのであれば、今回の『雑音招く湿地の図書館』はこう見れる。
雑音招く→正体不明の特性が付与されている。
湿地の→沼地の発生。
図書館→壁あるいは橋のようになった本棚がある。
うん、湿地のせいで色々と面倒な気がしてしょうがないな。
「じゃ、周囲に気をつけつつ進みますかね」
「はい」
「分かったわ」
「分かった」
だがそうだと分かった上で入ったのだ、最低限の目的は果たさなければいけない。
と言うわけで、俺たちはダンジョンの攻略を開始するべく、最初の扉を開けた。
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「さて、まずは何処から探索を始めますかね」
扉の向こうは普通の図書館ならば一般の客が入って、静かな雰囲気の下に落ち着いて本を読んだり借りたりする場所だった。
が、此処で本を読んだり借りたりするのは不可能だろう。
なにせ部屋の半分以上は沼の中に沈み、本棚や机と言った物の上に乗らなければ、辿り着けなさそうな場所に次の部屋への扉があるのだから。
そして広い部屋の中には、数体ではあるがモンスターも徘徊しているし、採取ポイントのようなものもあるのだから。
幸いにして天井の方から陽が射しているので暗くはないが……それはつまり天井の一部が崩れているという事なので、何と言うか微妙な悲壮感を感じる。
「とりあえず確認するべきことが一つある」
「まあ、そうよね」
そう言うとブルカノさんは沼地に入る一歩手前の場所でしゃがみ、沼の中に指先を入れる。
「ぐっ……これは……キツイな」
そうして暫く指先を浸けていると、突然ブルカノさんは指を引き、耳を抑え始める。
と同時に、視界の左上隅に表示されているブルカノさんのステータスにも明確な変化が生じる。
「状態異常
「はい。『癒しをもたらせ』」
「ブルカノさん。私の声は聞こえる?」
「え?あっ?あー、すまない。何を言っている?っつ!?またキーンと……」
生じた状態異常の名前はノイズ。
ブルカノさんの様子を見る限り、酷い雑音によって聴覚がまるで使い物にならなくなるだけでなく、平衡感覚などもやられるようだ。
まあ、シアの『癒しをもたらせ』でブルカノさんの回復力を上げたので、そう時間はかからずに回復するだろうが……これは厄介だな。
「あー、あー、うん、よし。もう大丈夫だ」
「ありがとうございます。ブルカノさん」
「いやなに、誰かが身を以って知っておくべき情報だからな」
と、ここでブルカノさんが回復し、ゆっくりと立ち上がる。
そして、ノイズ状態の間、周囲の音がどう聞こえてくれるかを語ってくれたが、その内容についてはだいたい周囲から見て感じた通りだった。
「しかしそうなると、沼に落ちるのは厳禁と言う事でいいんですよね」
「ああそれでいいと思う。今のように陸で触れるならまだしも、沼の中で雑音状態になったりしたら、大惨事間違いなしだからな」
「そして敵が使うノイズ状態にも注意と。それだけ酷いと戦う事もままならなくなりそうね」
「『雑音招く……』ですからね。順当に考えて、此処に出現するモンスターはノイズ状態にしてくると考えていいと思います」
で、このダンジョン『雑音招く湿地の図書館』の厄介な点だが、だいたいはブルカノさんたちが語った通りだ。
沼に入ればノイズ、敵と戦ってもノイズ。
対策をするには特性:ノイズの防具や装飾品を身に付けるのが早いのだろうが、それを得るためには此処で採取か戦いをしなければならない、と。
「これはもうボスは諦めで、レベル上げとアイテム集めを目的にするべきね」
「そうだな。対策なしではそれが限界だろう」
「分かった、ならそうしよう」
「はい」
そんなわけで、俺たちは素直に目的を変更。
今回は雑魚モンスター狩りと素材集めに専念することに決めたのだった。