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【AIOライト 13日目 08:25 (満月・晴れ) 東の丘陵】
「何か今日はアクティブの敵ばかりだな」
「そうなんですか?」
今日の東の丘陵は、ハナサキの一件もあって流石にプレイヤーの数が少なかった。
プレイヤーの数が少ないという事は、モンスターとのエンカウント率も高いという事だが、まあ、所詮は地上のモンスター、俺とシアの二人で戦うならば何の問題もなく処理出来ている。
「ああ、普段はもう少しノンアクの敵が居るんだが、今日は一匹も見かけてない」
「不思議ですねぇ」
が、倒せるかどうかとは別に問題も生じている。
それは異常なまでの敵のアクティブ率の高さ。
普段ならばもう少しノンアクティブ状態の敵が居るものなのだが、今日に限っては一匹も見かけていない。
何と言うか、初日を思わせるアクティブ率の高さだった。
ん?初日?
「……。あー、そう言えばそうか。となるとそう言う事かもな」
「どうしました?マスター」
「いや、月齢は錬金だけじゃなくてモンスターの動向にも影響しているんだなと気づいただけ」
「月齢……そう言えば今日は満月でしたね」
「ああ、そうだ」
俺はメニュー画面を開いて、月齢を確認してみる。
するとそこにはしっかりと満月の文字が書かれている。
そう、『AIOライト』開始一日目の月齢も満月だった。
そして二日目の月齢5/6の時、トロヘルは昨日はアクティブだった敵が今日はノンアクになっていると言っていた。
加えてよくある話として、満月の日は月の力が高まって、獣が狂暴化するという話がある。
つまりはまあ……月齢が満月だと、全てのモンスターがアクティブ化する。
と言う事なのだろう。
「じゃあ、少し警戒して進んだ方がいいですね」
「そうだな。不意討ちを受けてもいいように備えておいてくれ」
どの道目に付いたモンスターを全て狩るのであれば、そこまで差が無い情報ではあるが、今後敵と戦わずに距離を稼ぐ事を優先する日が有った時には、知っているのと知らないのとでは結構な差がありそうな情報ではある。
俺はそう思いつつ、周囲を警戒しながらシアと一緒に丘陵の奥地へと進む。
そうして、幾つかの丘を越えた時だった。
「ん?」
「あっ」
「おや」
「はい?」
俺とシアはグランギニョルと俺より頭一つ分は背が高い赤毛の女性が白磁の扉の前で佇んでいる姿を見つけ、向こうもこちらの姿を見つけたのか、小さく声を上げる。
「ああうん、ゾッタ兄なら丁度いいか。ちょっとこっちに来てくれない?」
「丁度いいって……」
お互いの姿を認識した以上無視するのもどうかと思い、俺はシアを伴ってグランギニョルの方へと歩いていく。
「で、何の用だ?俺もシアも用事があるから、雑談に興じるつもりはないぞ」
「心配しなくてもちゃんとした用事はあるって」
「用事ねぇ」
普通に考えれば、二人の傍にある自動生成ダンジョンに一緒に挑んでくれと言う所だろうか?
うんまあ、それならダンジョンの内容次第では受けてもいいか。
もう一人の女性は分からないが、グランギニョルならそれなりの信用は出来る。
「ああ、まずは自己紹介をしておきましょうか。私は『
「アタシはブルカノと言う。所属は『
「ゾッタだ。シアのマスターで、『巌の開拓者』所属だ」
「えと、アンブロシアです。マスターのホムンクルスです」
お互いの名前を知らないと不便という事で、グランギニョルが切り出す形で俺たちは自己紹介をする。
それにしてもグランギニョルがこんな簡単にリアル情報を出すという事は……このブルカノと言う女性は、最低限の信頼は置いても大丈夫な相手と言う事だろうか。
「アンブロシアちゃんについてはよく知っているわ。掲示板ですごい騒ぎになっているもの。それだけにそれを作ったゾッタ兄へのヘイトは色んな意味でヤバいけどね」
「は、はあ……」
「知った事か。レシピは公開してある」
「そのレシピが再現不可能な代物だから、『狂い斧』なんて呼ばれるんだけどね」
「うっさい」
「ははは……」
誰が『狂い斧』だっての。
まったく、根性……いや、思いの足りない奴らだ。
あの程度の痛み、本当に成し遂げたいと思っているなら耐えられるだろうに。
「それにしてもアンブロシアちゃんてば、本当に人間にしか見えないわね。耳を隠したら、ただの美人さんで通じそうだわ」
「その、ありがとうございます?」
「人間そっくりに喋り、笑い、動くホムンクルスか。こうして実物を近くで目にすると、確かに凡百のホムンクルスとは明らかに違うな」
「え、えーと……」
グランギニョルとブルカノさんはシアの顔を興味深そうに見つめ、対するシアは若干困った顔をしつつ少し引いている。
うん、困り顔のシアも可愛いが、助け舟を出そう。
「はいはい、それで用件ってのは何だ?二人の後ろにあるダンジョンを一緒に攻略して欲しいのか?」
「と、そうだったわ。つい、アンブロシアちゃんに見惚れていたわ」
そう言うとグランギニョルは俺たち二人を招きよせる。
「で、そうね。ゾッタ兄の思っている通りよ。私たちはホムンクルスを得るために、あるいはレベル上げと素材集めの為に、この自動生成ダンジョンに挑もうと思っているの」
そうして十分に近づいたためだろう。
俺の前に目の前の自動生成ダンジョンについての情報が表示される。
【『雑音招く湿地の図書館』 レア度:1 階層:3 残り時間71:38:15】
「でもビルドの関係上私たち二人だけでは探索もおぼつかない。だからゾッタ兄にパーティに加わって欲しいのよ。前衛役としてね」
そして求められたのは、俺の予想通りの内容だった。
なので俺はこう返す事にした。
「分かった。が、幾つか確認の質問を先にさせてもらうぞ」
「私が答えられることなら」
そうして幾つかの質問をした後、俺はグランギニョルたちとパーティを組み、自動生成ダンジョン『雑音招く湿地の図書館』へと突入した。
満月:全敵のアクティブ化
新月:全敵のノンアクティブ化
敵と月齢の関係はこれが正解でした。