62:12-2
本日は二話更新になります。
こちらは二話目です。
【AIOライト 12日目 19:22 (5/6・晴れ) 南の森林】
「「……」」
俺とシアは南の森林の道なき道をひたすらに歩いていた。
寄ってくる雑魚を蹴散らし、太い茨のようなものを避け、ヒタイに帰るために歩き続けていた。
陽が落ちてから一時間半近く経った今でも。
「あの、マスター。もしかしなくても……」
「皆まで言うな。俺もそうだと理解できている」
俺とシアの状況を誰かが見たら、こう評するだろう。
道に迷っている、と。
「はぁ……悪いな、シア。不甲斐ないマスターで」
「いえ、奥へ奥へと進もうというのは私の意思でもありましたから、マスターが気に病む事ではないと思います」
シアの優しさが今ばかりは心に刺さる。
シアは私の意思と言ったが、先導していたのは明らかに俺だったからだ。
「それにしてもここは何処なんだろうな……」
「南の森林の奥地。他にプレイヤーの方が入っていない領域なのは確かですよね」
「そうだな。それは間違いない」
なお、プレイヤーである俺が道に迷っている為だろう。
現在マップ機能については大幅な制限がかかっており、マップの縮小……範囲を広げる行為は一定の広さ以上に広げる事が出来なくなっているし、俺たちが通った場所についても十分程でマップから消えてしまっている。
当然、方角を示す機能も失われていた。
その為、今の俺は自身の正確な位置は勿論の事、どちらを向いているのか、此処が一度通った事がある場所なのかすらも分からなくなっていた。
「せめて月が見えれば方角も確認できるんだがな……」
「この辺りの樹を登るのは、止めておいた方がいいと思います。いえ、結果的に街へは帰れるかもしれませんけど」
「だよなぁ」
俺とシアは揃って手近な木の上の方を見る。
が、木は上の方に行けばいくほど鋭い棘を生やした茨が絡んでいて、昇る事が出来ないようになっていた。
当然、茨に触れればダメージが有るので、これでは木の上に上ろうとする行為と死に戻りは同義になってしまう。
「はぁ……本当にどうしたものか……」
「マスター……」
俺は思わず溜め息を吐いてしまう。
まあ、幸いと言っていいのか、モンスターについては問題ない。
プレンゾンビやプレンスケルトンと言ったアンデッド系モンスターは普通に殴り倒せば問題なかったし、プレンバットのような空を飛ぶモンスターもシアの『ブート』と『ペイン』で簡単に倒せたからだ。
だが、モンスターが倒せても、無茶をしなくても、死に戻りの時間は確実に迫っている。
満腹度が減少すると言う形で。
『ぐうううぅぅぅ……』
ああうん、遂に腹が鳴り始めたか。
この分だと、日付が変わる前には状態異常
本当に不甲斐ないマスターで、シアと二人きりだからと浮かれて、こんな事になって、シアに対して申し訳ない気分になってくる。
と、そうして俺が落ち込んでいる時だった。
「マスター」
「どうした?シ……はっ?」
シアが俺に木の実を一つ差し出してくる。
その木の実はあまり美味しくなさそうだが、腹を満たすには十分と思える大きさを持っていた。
△△△△△
普通の木の実
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
正体不明の木の実。
生で食べても腹を壊す事はないが、味は保証できない。
▽▽▽▽▽
「えと、これは……」
「途中の採取ポイントで採取しておいたんです。二つありますから、一つずつ食べましょう」
シアは笑顔でそう言うと、もう片方の手に同じような木の実を取りだす。
ああうん……本当にシアには申し訳ない。
でも……この好意には素直に縋らせてもらう。
「ありがとう。シア」
「私は貴方のホムンクルスですから。貴方を支えるのが役目ですよ。マスター」
俺はシアから木の実を受け取ると、手近な木の根元に座って、一緒に食べ始める。
「味はどうですか?マスター」
「心配しなくても美味しいさ」
「ならよかったです」
俺の食べた木の実は……渋かった。
だが今はその渋さが良いと感じた。
そう、この味は戒めだ。
調子に乗ってシアを連れ回し、道に迷った俺自身に対する戒めだ。
決して忘れてはいけない。
二度とこんな事を起こさないようにするために。
「それでマスター。これからどうしましょうか?」
「一先ず今日中にヒタイに帰るのは諦めるとして、とりあえずは開けた場所を探し出して方角を確認する事だな。方角すら分からないんじゃ、帰りようがない」
「なるほど」
「寝床については……まあ、案が無いわけじゃない。こっちも見つかるとは限らないのが辛いところだけどな」
さて、腹が満たされた事で頭も回って来たみたいだし、これからどうするかを考えるべきだろう。
と言うわけで、俺はシアと話しつつ、周囲を軽く見回してみる。
「ん?」
「どうしました?」
「いや、アレは……」
「あっ……」
すると、遠くの方に明らかに森の中とは光の濃さが違う場所が見つかる。
どうやら、あちらの方に多少なりとも空を確認できる場所があるらしい。
「行ってみるぞ。シア」
「はい」
俺とシアの二人は一度頷き合うと、その光に向かってゆっくりと歩き出す。
「「……!?」」
そして目の前に広がった光景に俺もシアも唖然とさせられた。
「すげぇ……」
「綺麗……」
俺とシアが辿り着いた場所は巨大な湖を見下ろす崖の上だった。
いや、巨大などという物ではなかった。
崖の上と言う地形と俺たちが出た位置のおかげで、西と南の岸は見えるが……東の岸はまるで見えない。
俺の知る限りでは現実でも見た事が無い広さの湖だった。