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【AIOライト 1日目 08:25(満月・晴れ) 南の森林】
「やっとか……」
『
そうして一時間ほど歩いた頃。
南の大門に到達し、NPCである衛兵に見送られながら街の外に出る事に成功したのだった。
「それにしても……凄いな」
俺は改めてマップを確認する。
マップの名称は南の森林。
その名に相応しく、地面は背の低い草花に覆われ、南の大門の近く以外は無数の木々が空に向かって真っ直ぐに伸びているマップである。
だがそんな視覚の変化よりも凄いのは空気の変わり方だ。
街の中のざわつきながらもどこか温かみのある空気ではない。
森の中には清涼であると同時に、余所者を排除するような冷たい空気も漂っていた。
「他のプレイヤーは……結構いるな」
さて、マップそのものへの感想はこれまでにしておいて、近くに目を向けよう。
俺以外のプレイヤーだが当然居る。
それも見える範囲だけで何十人とだ。
「それじゃあ、基本は盾持ちが一度攻撃を防いで……」
「剣なんて扱った事ねえよ……」
「あー、緊張してきた……」
漏れ聞こえる会話とその様子からして、恐らくだが彼らはパーティを組むことによって、出来るだけ安全に事を進めようと思ったプレイヤーたちなのだろう。
そしてプレイヤー以外に気になる物として、幾つかの木々や草が光を放っていた。
こちらは……たぶんだが、採取ポイントか何かなんじゃないかと思う。
さっきから何人かのプレイヤーが俺の目でも光っているのが分かるポイントでしゃがみこんで何かをしているし。
俺の目では光っているように見えない場所でしゃがんでいるプレイヤーが居るのは……感知力の差で発見できるポイントと出来ないポイントがあるとかなのかもしれない。
俺の感知力は10だし。
「とりあえず行くか」
いずれにしてもこの場は混雑し過ぎているし、モンスターの類が出てくるようには見えない。
もう少し奥に行くべきだろう。
そう、きっと奥に行けば出てくるはずである。
PVにも出てきたような危険なモンスターたちが。
初期装備かつ一人でそれらと戦えるかは、今後の為にも知っておきたい。
失う物など時間しかない今の内に。
そんな事を考えながら、俺は誰かに話しかけられるよりも早く森の奥に向かって走っていった。
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「すぅ……はぁ……」
数分後。
俺は早速このゲームの洗礼と言うか、ステータスのマイナス振りを行ったツケを払わされていた。
具体的に言えば息が普段……現実よりも少しだけ早く上がるようになっていた。
どう考えても持久力9が原因である。
これぐらいなら、そうだと分かっていれば問題ないが……その内少し対策を考えた方がいいのかもしれない。
「とりあえず採取してみるか」
俺は近くの幹が光っている樹に近づくと、ギルド支部にあった巨大天秤にしたように手をかざしてみる。
が、反応はない。
「ふむ……こうするのか」
続けて光に触ってみる。
すると手の部分に円状のゲージが表示され、五秒ほどしてゲージが溜まったところで自分の目の前に半透明の画面がポップしてくる。
△△△△△
普通の樹の枝
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
手折りされた極々普通の樹の枝。
だが使い道は様々である。
▽▽▽▽▽
「普通の樹の枝……ねぇ」
使い道は様々、ならば回収はしておくべきだろう。
何に使えるのかはヘルプにも載っていなかったので分からないが。
「と、一個だけなのか」
俺は先程光が有った場所を改めて見てみる。
が、既に光は消えており、そこには極々普通の樹の幹があるだけだった。
どうやら一つのポイントにつき一個しか回収できないらしい。
これが仕様なのか、偶然なのか、俺のステータスが低いからなのかは分からないが。
「……。ちょっと試してみるか」
と、此処で俺はとある事を思いつく。
そしてそれを試すべく、次の採取ポイントに近づく。
「草か……ならこっちで試してみるか」
次の採取ポイントは草が群生している場所だった。
そこで俺はだいじなもの分類として他の装備品とは完全に別枠になっているアイテム、剥ぎ取り用ナイフを取り出すと、採取ポイントに近づけてみる。
「お、やっぱりか」
すると先程よりも早く、より具体的に言えば刃先が採取ポイントに触れた時点でゲージが表示される。
そうしてゲージが満タンになると採取ポイントの光が消滅し、半透明の画面がポップしてくる。
△△△△△
普通の薬草
レア度:1
種別:素材
耐久度:90/100
特性:プレン(特別な効果を持たない)
刃物で刈り取られた極々普通の薬草。
そのまま食べても一応の効果はあるが、ただただ苦いだけで薬と呼べるほどの物ではない。
▽▽▽▽▽
「……」
ああうん、微妙にやってしまった感がある。
恐らくだが薬草は刈り取るものではなく摘むものだったのだろう。
つまり間違った方法で採取するとデメリットがあると。
まあ、それが分かっただけでもいいとしよう。
「えーと、インベントリの空きは……後19か」
なお、入手したアイテムは空きがあるならばインベントリに自動収納される。
「こっちは間違いなく対策が必要そうだな」
収納されるのだが……このインベントリの容量はヘルプ曰くプレイヤーの戦闘レベル+持久力+15だそうで、装備中の装備品もこの数に含まれるとの事だった。
少ない、間違いなく少ない。
空き容量19は誇張抜きに少ない。
「なにせ見えてる範囲だけでも20以上は確実にあるもんな……」
何故ならば、俺が今居る場所の周囲だけでも少なく見積もって20、多く見積もれば30は光っている場所が見えるからである。
これはもう、戦闘レベルと持久力を上げる以外の何かしらの容量拡張方法があると見るべきだろう。
「とりあえず、インベントリがいっぱいになったらモンスターに遭遇できなくても帰るべきだな」
俺は自分の中で方針をそう決めると、次の採取ポイントに向かおうとする。
その時だった。
「ん?うわっ……」
「キャキャキュー」
目の前に、俺と同じぐらいの大きさを持つ巨大な芋虫が現れたのは。
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