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59:11-2

本日は二話更新になります。

こちらは一話目です。

「「「ざわざわ……」」」

「何だか妙にざわついていませんか?」

「そうか?いつも通りだと思うが」

 嘘だ。

 『巌の開拓者(ノーム)』の本部と言えど、こんなにざわついている事は普通はない。

 確かに錬金術師(アルケミスト)ギルドの本部にしか無い機能は多い。

 死に戻り地点及び自動生成ダンジョンの帰還ポイントであるだけでなく、名前や外見の変更に、退会手続き、ステータスの振り直しと言った事が出来るのは錬金術師ギルドの本部だけである。

 だがそれでもこんなにざわつく事はない。

 普段は今のように密かに話し合う感じではなく、もっと大っぴらに賑やかだ。


「本当ですか?」

「ほ、本当だ」

 シアが俺の横顔を覗きこむように尋ねてくる。

 それと同時に、明らかに周囲の動揺とざわつきが大きくなる。

 人生経験のないシアには分からないだろうが、俺にははっきりとそれが感じ取れた。


「あれ、ホムンクルスだよな……」

「喋ってるし、笑ってるし……」

「いやでもマーカーは……」

 だがそれも仕方がない事だろう。

 少しでも詳しく見れば、シアが普通のホムンクルスとは一線を画す存在である事は直ぐに分かる事なのだから。

 だからまあ、仕方がない事である。

 番茶さんが俺に話を聞きたくて仕方がないという雰囲気を滲ませていたり、男性プレイヤーたちが横目でちらちらと見ていたり、グランギニョルと女性プレイヤーたちがシアの事は興味深そうに、俺の事は少し険しい目で見ていたりしてもだ。


「じー……」

「早いところに外に行くぞ。日が落ちたら面倒だ」

「はい、分かりました。ちょっと釈然としませんけどね」

「のわっ!?」

「それじゃ、案内お願いしますね」

 心臓が跳ね上がるかと思った。

 気が付けばシアが俺の左腕に抱きついていた。

 それと同時に周囲から壁を叩くような音と、刺すような視線が俺に向けて幾つも飛んでくる。

 これは……拙い。

 主に俺の命が。


「お、おう」

 とりあえず帰りは別の支部から、第24支部に飛ぼう。

 俺はそんな事を考えつつ、要らないアイテムの売却を済ませると『巌の開拓者』の本部を後にした。



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「ちゃんと一通り買えましたね」

「そうだな」

 市場に出た俺とシアは、無事に普通のリンゴ、普通の小麦粉、普通のバターを購入する事が出来た。

 シア曰く、錬金術で作るならこれだけあればアップルパイが造れるとの事だった。

 うん、実に楽しみだ。


「マスター、どうしました?」

「いや、ちょっとな」

 で、それとは別にヒタイの街中で気になる事があった。

 それは露店を出している人間の変化。

 どうにもNPCだけではなく、プレイヤーによる露店も出始めているようだった。

 扱っている品は……まあ、まだ微妙な品が多いが、自動生成ダンジョンで得られるプレン以外の特性が付いた素材などは、ものによっては購入を検討する余地がありそうだった。


「マスターと同じプレイヤーの方々の店ですか。確か錬金レベルが一定のレベルにまで到達すれば、ギルドで許可を貰えたと思います」

「へー……」

 錬金レベルが一定のレベルにまで到達すれば……か。

 なら、錬金レベルが8になった俺も、その気になれば開けそうだな。

 現状、開く気はないが。


「で、シアがそう言う事を知っているのは、ホムンクルスとしての基礎知識か?」

「たぶん、そう言う事だと思います。マスター以外から学ぶ機会は無かったはずですから」

 そして俺にその知識が無くて、シアにその知識が有ったのは、柔軟なホムンクルスの核にGMが仕込んでいたから、と。

 実際、全く知識が無かったら、基本的な倫理観を教育するところから始めなければいけなかったのだし、ありがたい話ではある。

 尤も、いずれはそんなGMを出し抜かなければならないのだろうが。


「なるほどな。その辺りの知識についても、どれほどのものなのかはいずれは確認しておきたいな……」

「そうですね。でも難しいと思いますよ。知識って切っ掛けが有れば簡単に引き出せますけど、切っ掛けが無いと案外引き出せないものですし」

「まあな」

 とりあえず現状シアがホムンクルスの基礎知識として持っている事が確定しているのは、この世界の基礎知識と、錬金術についての基礎知識、それに一般常識ぐらいか。

 それ以外はどの程度の知識を持っているか分からないが……とりあえず生活に苦労する事は無さそうな感じである。


「そこの君、僕と勝負だ!」

「げぇ!?決闘厨(シュヴァリエ)!?」

「お、決闘だぞお前ら!」

 ま、詳しい事はまたいずれ。

 買う物は買ったので、面倒なのに絡まれないように気をつけつつ帰るとしよう。


「な、なあ、あのホムンクルスって……」

「あんなの作れるのか……」

「やべぇ、すげえ好みだ。おっぱ……ひぃ!?」

 なお、シアに対して舐め回すような視線を送って下さった男性プレイヤーの諸君には、俺の本気の殺意を込めた視線を送らせていただこう。

 シアは俺の物ではないが、俺の保護対象ではあるのだから。

 ちなみに、『AIOライト』のセクハラ対策はかなりの物で、セクハラをする側に性的な意図があったかどうかを頭の中を覗く事で判定、一定レベル以上で性的な意図があった場合には対象にされたプレイヤーに通報するかどうかのメッセージが送られるとの事だった。

 身体を動かすのを読み取るのと同じように頭の中を読み取られるので、冤罪はないが、偽証は不可能と言う事である。


「マスター。あの、笑顔が怖いんですけど……」

「いや、ちょっと……な。もう大丈夫だ」

 なお、通報されるとPKした時と同じようにタグが付く。

 しかもその上で制裁用NPCがその場に召喚されるとの事だった。

 また、一定レベル以上で性的な意図があるかどうかで判定する為……同性相手でも場合によってはメッセージが出るとの事である。

 まあ、現代文化の多様性を考えれば当然の仕様ではあるのかもしれない。


「さ、早いところ帰ろう」

「あ、はい。そうですね」

 そうして俺とシアは適当な支部から、相変わらず人気のない第24支部へと移動。

 レンタルの自室に戻ったのだった。

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