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57:10-4

本日は四話更新になります。

ご注意ください。

こちらは四話目です。

【AIOライト 10日目 20:27 (半月・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】


「落ち着いたか」

「はい……」

 結局、アンブロシアが完全に落ち着くまで三時間以上かかった。

 そして現在アンブロシアは布団の上で正座して、申し訳なさそうにしている。

 なお、既に裸ではない。

 GM(ゲームマスター)が対応が遅れたというお詫びのメッセージと共に提供してくれた服を着ている。

 どうにも、人型ホムンクルスの初期装備はGMのプレゼントであるらしいが、レア度:(プレイヤー)(メイド)のホムンクルスであるアンブロシアについては基本のシステム外の存在と言う事で対応が遅れたらしい。

 思いっきりふざけていた文面からして、わざと遅らせた気しかしなかったが。

 後、落ち着かせる過程で色々とあったのだが……それは俺とアンブロシアだけの秘密として黙っておくとしよう。

 恥ずかしい。


「さて、アンブロシア……いや、シア。俺が誰だかは分かるよな」

「はい、マスター。私の創造主にして主人であるゾッタ様です。そして、絶対的な忠誠心を抱く必要は無いと言うのも理解しています」

「うん、それでいい」

 背筋を正してそう言うアンブロシアの姿は、彼女がどういう性格であるかをよく示しているようだった。

 つまり、先程の一撃を含めて考えれば、俺のホムンクルス作成は無事成功したと言っていいだろう。

 ちなみにシアと言うのは、アンブロシアの愛称である。

 アンでも良かったのだが、シアの方が何となく良い気がしたのでこうしたのだ。


「自分の事は分かるか?」

「私の名前はアンブロシア。マスターのホムンクルスで、外見についてはエルフ種の特徴が強く出ていますが、人型に分類されます。やれることは……色々ですね」

「うん、やれることについては追々確認していけばいい」

 シアの外見にエルフの特徴……尖った耳があるのは、もしかしなくても素材の大元にプレンエルフの血が含まれているからだろう。

 なお、シアが生み出された時点で、俺の視界の左上隅には俺のステータスを示すバーに加えて、一回り小さくシアのステータスも表示されるようになっている。


「この世界が俺にとってどういう世界かは?」

「『AIOライト』と言うゲームの中の世界ですよね。私は他の世界を知らないので、いまいち実感がわきませんけど」

「うん、それでいい」

 なるほど、シアはこの世界がどう言う物か理解していると。

 この辺りの知識の出所は、柔軟なホムンクルスの核に予めGMが仕込んでいた物だろうな。


「インベントリの中に入っているのは装備品二つだけだな」

「はい、GMから頂いたビギナズワンピースとビギナズサンダルだけです」

「……」

「マスター?」

「いや、なんでもない」

 ワンピースとサンダルだけ、という言葉に一瞬惑わされそうになるが、今のシアは既に普通に活動している限りでは絶対に脱げない下着を上下で身に付けている。

 だから大丈夫。

 そう、何の問題もない。

 色々と思いだしそうになるけど、大丈夫ったら大丈夫。

 煩悩退散!


「ゴホン」

 と言うわけで、話を切るために俺は大きく咳払いをする。


「つまり、明日以降活動するためには、シアの装備品をまずは揃える必要があるって事だな」

「そうですね。武器の一つもないと言うのは流石に不安ですので、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

「そこは主人が甲斐性を見せる所だから問題ない」

 さて、話を戻そう。

 今のシアは初日の俺から武器を除いた状態に近い。

 つまり、間に合わせでもいいから、シアの装備品を造り、持たせてあげなければいけない。

 それに俺自身も新緑の杖と新芽の指輪を失っているので、その穴を埋める必要がある。

 なので、明日からは、まず倉庫ボックスの中に残っている物を見て、使えそうな素材から装備品を作る作業に入らなければならないと言う事だ。


「それじゃ、明日以降の為にも今日はもう……」

 ならば今日はもう寝て、明日以降に備えるべき。

 俺はそう思い、その事を口に出そうとすると同時に気づいてしまう。


「マスター?」

「……」

 『巌の開拓者(ノーム)』で借りているこの部屋に用意されている寝具の数は?

 言うまでもない、一組だ。

 シアを俺のインベントリに格納するというのは?

 仕様上は問題ないが、シア曰くあそこは寂しいから出来れば……との事なので却下。

 では、これらの条件から導かれる結論は?


「シ、シア。分かっていると思うが……」

 緊張しているからなのか妙な汗が出ている。

 いやだがしかし、今後はこれが基本、デフォルト、スタンダード、ベーシックになるのだ。

 慣れなければ、慣れなければ!


「マスター、色々と今更だと思いますので、マスターの好きにすればいいと思います」

「あ、うん」

 そうして俺とシアは一つの布団で眠るのだった。

 エロイことは……何も無かったと言う事にしておく。

 眠るのが大変だったのは事実として認めるが。



■■■■■



【AIOライト 10日目 23:30 (半月・晴れ) ???】


「あー、あー、チェクチェク。マイクチェック。よし、問題なし」


「『AIOライト』開始から丸十日になります。では、現在の状況について口頭にて記録を行います」


「プレイヤー総数は56,372人。内、この十日間何かしらの活動を行い、戦闘レベルまたは錬金レベルを1だけでも上げたユーザーは約55,000人。つまり95%以上のユーザーはアクティブユーザーになってくれたようです。食を縛ったのはやはり正解だったようです」


「引き籠り共については私の側からの干渉は無し。放置します。きっとその内心優しいユーザー様がどうにかしてくれる事でしょう」


「ホムンクルスについては現在、約200名のプレイヤーが取得。男性型、女性型、魔物型の割合については、予想通り女性型、魔物型、男性型の順に多いです。ま、男性ユーザーの大半が女性型を選んでいるから仕方がないね」


「で、ホムンクルスの中に一人だけレア度:PMが出て来てしまっていますが……こちらについても放置で。ゲームバランスから著しく脱した機能などは見られないので、プレイヤーのモチベーション維持及び目的達成に良影響を与える可能性を鑑みて、放置します」


「でも、本当に危ない真似をするのニャー。危うくリアルの肉体が死ぬところだったのニャー。五感どころか六感の転写なんて破壊的な発想を一体どこから得たもんだニャー。第三深度への突入とか頭がどうかしているんじゃないかニャー。システム的には許容しているけど、色々と自重して欲しいのニャー。ニャーニャー、ニャアアアァァァ!仕事を増やすニャアアアアァァァァ!!私がクソGMならそっちはクソユーザーなのニャアアァァァ!!」


「コホン、とりあえず今後も要観察と。絶対にフォロワーも出てくるだろうし、ゲームバランスからの逸脱だけはしないように気をつけないといけません。記録終わり」

これにて一章閉幕でございます。


07/29誤字訂正

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