<< 前へ次へ >>  更新
56/621

56:10-3

本日は四話更新になります。

ご注意ください。

こちらは三話目です。

【AIOライト 10日目 14:00 (半月・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】


「……」

 その時が来た。

 何処からか吹いてきた風を感じた俺は、不意にそう察した。


「始めるか」

 俺は倉庫ボックスとインベントリから五つのアイテムを取りだして並べる。


・柔軟なホムンクルスの核

・新芽の指輪

・新緑の杖

・新紡の糸

・新命の赤き水


 柔軟なホムンクルスの核以外のアイテムは全てレア度:(プレイヤー)(メイド)であり、もう一度得られるか分からないアイテムである。

 だが気にすることはない。

 俺の目にはこの五つのアイテムが繋がっているように見えている。

 そしてこの錬金の結果、これらのアイテムを素材にするに相応しい物を得られる事も既に確信している。

 だから惜しまず、怯まず、進めばいい。


「錬金術師ゾッタの名において告げる」

 五つのアイテムをシステムに頼らず錬金するという死地に等しき戦場へと。

 一挙手一投足の狂いすら許されぬ舞台へと。

 一言一句どころか一音程の間違いすらあってはならぬ劇場へと。


「新命の赤き水よ。汝の権能を以って母なる海を為せ」

 俺は新命の赤き水の栓を開けると、瓶からあふれ出す赤い液体に自身の魔力を混ぜ込みつつ、錬金鍋の中が一杯になるまで注ぎ込み続ける。


「新紡の糸よ。汝の権能を以って父なる雷を招け」

 続けて新紡の糸を左手で粉々に砕きつつ俺の魔力を混ぜ合わせ、真っ赤に染まった錬金鍋の中へと新紡の糸を投入していく。


「新芽の指輪、新緑の杖。汝等の権能を以って境界を産め」

 黄金と真紅の輝きが混ざり合った錬金鍋の中に、俺は新芽の指輪と新緑の杖を同時に入れ、二つのアイテムが液体に溶け込むまで魔力を鍋の中に注ぎ込みつつ左腕で掻き混ぜる。


「新たな命の核よ。汝が育まれるための床は成った。行くがいい」

 俺は右手に持った柔軟なホムンクルスの核を錬金鍋の中に投入する。

 すると、黄金と真紅の二色が入り混じっていた錬金鍋の中は、一瞬にして海のような青さを持ち始める。

 さあ、ここからである。


「すぅ……新たな命の核。汝が成るべきものの名は魂であり、心である」

 右腕を静かに錬金鍋の中に入れ、目を閉じ、魔力を注ぎ込みながら呪文を唱え、その上で俺はただ一つの事だけを思い浮かべ続ける。


「新芽の指輪。汝が為すべきは肉であり、臓腑であり、器である」

 そう、思い描き続けるのだ。

 己の中のアニマを、太母を、少女を、理想とする者の姿を。


「新命の赤き水。汝が為すべきは血であり、情動であり、生命である」

 俺だけの存在を、けれど一個の生命である事を願う者の姿を。


「新紡の糸。汝が為すべきは思考であり、繋がりであり、維持である」

 欲望から目を逸らさず、されど全てが己の物とならぬ者、真の意味において新たな命を持つ者の姿を。


「新緑の杖。汝が為すべきは骨であり、芯であり、自我である」

 ああそうだ。

 主に従うだけの命など命ではない。

 自ら考え、動き、必要とあれば主にすら刃向かってこそが命である。

 それこそが俺の求める新たな命である。


「新生、芽吹き、湧き鳴き、紡ぎ、支え、我が意を根源とし、為すべき姿を為して、鎖なく生まれ出づれ」

 瞼を開けた俺の前で錬金鍋の中が激しく脈打ち出し、煮え立ち、稲光を発し始める。

 その熱と雷光は容赦なく俺の命を削っていくが、大した問題ではない。

 新たな命を生み出すという行為に生命の危機を伴う事など、遥か昔から知られている事なのだから。

 そう、何の問題もない。


「夢見て目を開け、囀り聞いて歌謳い、芳香嗅いで香り立て、森羅に触れて感じ取り、五味を以って禍福知り、我が魔を知りて未知を知れ」

 俺の視界が色褪せようとも、音が聞こえず、匂いも分からず、指先の感覚も舌先の感覚もなくなって、俺の魂から溢れ出るそれしか分からなくなっても問題はない。

 否、そうならなければならない。

 でなければ掴めない。

 深い深い場所で眠っている彼女の腕を。


「さあ、別れが何時になるかは分からぬけれど、貴女がそれを望む限り共に行こう」

 でなければ起こせない。

 深淵の底で眠る彼女の魂を。


「目覚めの時は来た」

 でなければ触れない。

 光射さぬ暗闇で流れ続ける彼女の心に。


「アンブロシア」

 そして俺が彼女の名を告げた瞬間。


「っつ!?」

 世界は色を、音を、全てを取り戻す。

 いや、失われていた分だけ、強く、鋭敏になって帰ってくる。


「錬金……術……は?」

 そうして全ての感覚が数段鋭くなった状態で俺がまず感じたのは?


「……」

「ん……」

 視覚は目の前にある若干白めな肌色のそれ。

 聴覚は聞き慣れない、けれど頭の奥底にまで染み入る様な優しさを感じる声。

 嗅覚は甘い甘い花のような香り。

 触覚は手と腕と顔で、柔らかいと同時にほのかな温かさを持つ物を感じている。

 味覚は……何かに反応したのか、ほんの少しの塩味と甘味を感じている。

 そして第六感……いや、魔力感覚は、俺の物ではない別の存在の魔力を感じ取っていた。


「ここは……」

「……」

 俺は顔を上げる。

 するとそこには良く整った、金色の髪に藤色の瞳を持つ若干耳の先が長めな、どこかまだ寝ぼけた感じのある、俺の理想とするような女性……アンブロシアの顔があった。


「……」

「……」

 俺とアンブロシアの目が合う。

 そして俺もアンブロシアも気づく。

 アンブロシアが服を着ていない事実に、アンブロシアの身体の見えちゃいけない部分が色々と見えてしまっている事実に、異性ならば安易に触ってはいけないであろう部位に先程まで俺の顔が埋まっていたと言う揺るがしようのない事実に。

 それらの事実に気づいたアンブロシアは。


「キ……」

「っ!?ま……」

 顔を赤らめながら叫口を開き、腰を捻りながら右腕を引く。


「キャアアァァァ!」

「ぶごあっ!?」

 そして、その細腕からは到底想像できない威力でもって俺の腹を殴りつけたのであった。



【ゾッタの錬金レベルが8に上昇した。錬金ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】


△△△△△

ゾッタ レベル6/8


戦闘ステータス

肉体-生命力13・攻撃力10・防御力10・持久力9・瞬発力10・体幹力10

精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7・回復力18+1・感知力10・精神力11+1


錬金ステータス

属性-火属性10・水属性10・風属性10・地属性10・光属性7・闇属性10

分類-武器類13・防具類11・装飾品13・助道具13・撃道具10・素材類13

▽▽▽▽▽

ようやくメインヒロインの誕生です

<< 前へ次へ >>目次  更新