54:10-1
本日は四話更新になります。
ご注意ください。
こちらは一話目です。
【AIOライト 10日目 08:25 (半月・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】
「朝……か」
昨日は夜遅くまで活動していたからだろう。
流石に今日の目覚めは遅かった。
「あー……体がだるい」
俺は布団から起き上がると、適当な味のカロリーバーとミネラルウォーターを取りだして満腹度を回復すると共に、微妙にまだすっきりとしていない頭を覚醒させていく。
「とりあえずは装備品の修復だな」
そしてある程度頭がはっきりしてきたところで、昨日一日でだいぶ消耗が進んだ装備品の修復を始めた。
で、そうして修復していると嫌でも気づく。
明らかに普段よりも難易度が上がっていると。
「やっぱり月齢みたいだな」
確定ではないが、錬金術の難易度が上がっている原因は分かっている。
月齢だ。
番茶さんからの情報によれば、どうにも『AIOライト』の世界では錬金術の成功率に月齢が関わってくるそうで、満月と新月には錬金術の成功確率が上がり、半月の日には錬金術の成功確率が下がるのではないかとの事だった。
勿論今まではただの推測に過ぎなかったわけだが……今日の手応えから察するに、確定でいいのではないかと思う。
「ま、俺には関係のない事だな」
だがまあ、半月の日に俺は新芽の指輪を創っている。
それを考えれば、影響はそこまでではないのだろう。
と言うわけで、俺は装備品の修復を終えると、倉庫ボックスの中にあるアイテムをまとめて取り出し、畳の上に並べていく。
その中には当然、昨日入手した柔軟なホムンクルスの核も含まれており、菫青色の傷も歪みも一切ない拳大の真球は綺麗な光を放っていた。
「……。ま、当然見えるよな」
そして俺の目には、柔軟なホムンクルスの核と繋がっているように見えるアイテムが四つ……ああいや、これから作らなければいけないものも含めてだ、とにかく四つ、ホムンクルスの核と一つにするべきアイテムが見えている。
で、四つのアイテムの内、二つのアイテムは既に完成している。
新芽の指輪と新緑の杖だからだ。
貴重品でまた作れるかも分からないアイテムだが……別に惜しくはないな。
俺だけのホムンクルスを創る事を考えたら、むしろ相応しい材料だ。
「さて、どっちからいくか……」
俺は新芽の指輪と新緑の杖から意識を放すと、まだ出来ていない二つのアイテムにするべき素材たちを見る。
一つ目のグループは……脆い金塊、回復力溢れる花粉、柔軟な綿の実が二つ。
ただ、柔軟な綿の実二つは先に錬金して、糸状にする必要がありそうだ。
今の状態だと何となくだがモヤモヤした感じになっている。
二つ目のグループは、回復力溢れる花粉、柔軟な花の蜜、そしてプレンエルフの血。
こちらの注意点は鍋の中に入れるのは中身だけで、器であるプレンカッパーボトルごとではないという点か。
むしろ器は残しておかなければならない感じすらするな。
「とりあえず柔軟な綿の実を糸にしてしまいますかね」
俺は素材の劣化を防ぐために一度全ての素材を倉庫ボックスの中に収納すると、通常の錬金でもって柔軟な綿の実の加工を始める。
選択は変形
魔力は十分。
打ちこみは……
『iTo soleniha SAmazamaNA yacuwaliGa aL』
「はいはいっと」
まあ、特に問題なしだ。
半月の影響で多少難易度が上がっているかもだが、この程度ならばどうという事はない。
「はい、出来上がりっと」
そうして無事に出来上がったアイテムの状態を俺は確認する。
△△△△△
柔軟な綿糸
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:ソフト(柔らかくしなやかである)
綿の実を紡いで作られた糸。
手作業で造られた物と錬金術で造られた物では微妙に性質が異なるが、一流の職人でもなければその差は分からない。
糸の用途は幅広く、使い手の考え方が試されるだろう。
▽▽▽▽▽
「うん、これならいけるな」
俺の目には既に柔軟な綿糸と脆い金塊、回復力溢れる花粉の二つのアイテムとの間に繋がりがあるように見えていた。
同時に確信もしていた。
今日一日で全ての工程を終わらせるべきだと。
「さて、それなら気合を入れて……」
俺は軽く準備運動を行い、普段より長く眠ってしまった事により生じた身体の凝りなどをほぐしていく。
そして無事にほぐし終わったところで、HP、MP、満腹度に問題が無い事を確かめると、一度深呼吸をして気合を入れ直した。
「じゃ、始めますかね」
俺はまず脆い金塊、回復力溢れる花粉、柔軟な綿糸の三つのアイテムを倉庫ボックスから取り出すと、実体化させて錬金鍋の中に放り込む。
「さあ、吸いな」
続けて錬金鍋の中に左腕を入れ、魔力を注ぎ込む。
魔力を注ぎ込む量が増すにつれて、錬金鍋の中は恐ろしい程に熱くなってくるが、もう慣れたものであり、この程度の痛みなら意思でどうとでもなる。
「すぅ……錬金術師ゾッタの名において告げる」
十分な魔力を注ぎ終ったところで、俺は右手に持った櫂を錬金鍋の中に入れ、魔力を注ぎながら言葉を紡ぎ、それに合わせて櫂も動かし始める。
「不変なる者、生命の根源たる者、一つの物として紡がれし者。貴様等は随分と甘い考えをしているようだな。いいだろう」
そうして櫂を動かし始めてすぐに気付く。
コイツ等は慢心していると。
俺如きに自分たちが変化させられるはずがないと驕っていると。
いいだろう、ならばまずはその考えを改めさせてやる。
「不変なる者!如何なる変化にも輝きを失わぬ者!確かに汝の煌きは変わらぬし、変えられないだろう!だがそれだけだ!汝の身はいとも容易く変形する!」
俺の櫂が大きく動くと同時に、錬金鍋の中の液体が一気に黄金色に変わる。
脆い金塊が融け落ちたからだ。
「生命の根源たる者!満たされし力にて輝きを絶やさぬ者!確かに汝の煌きは何処までも続いていくだろう!だがそれだけだ!続くのは煌きだけであって汝自身ではない!」
俺の櫂が再び大きく動く。
すると錬金鍋の中身が激しく脈打ち、金色の粒子のようなものが漂い始める。
回復力溢れる花粉の力が溶け込んだからだ。
「一つの物として紡がれし者!如何なる力をも受け流して輝きを繋ぐ者!確かに汝の煌きは折れる事ないだろう!だがそれだけだ!折れずとも切れる!」
俺の櫂が三度大きく動く。
すると錬金鍋の中身が激しく波打ち、黄金色の液体の中に飛び飛びの線で出来た輪のようなもの見え始めてくる。
柔軟な綿糸が切れて、在るべき位置に着いたのだ。
「故に我が生み出す!長き長き糸を器とし!不変の黄金の輝きをその内に留め!自ら紡ぎ直す力を与える!」
錬金鍋の中で激しい対流が起き、湧き上がる蒸気によって俺のHPが急速に削られ始める。
このままでは数十秒の内に俺のHPは尽きるだろう。
「認めよ!改めよ!従えよ!静まれ!鎮まれ!調べ調和させ形を成せ!不断ならずとも不屈たる黄金の縛糸と化せ!それこそが汝の新たなる姿にして在るべき姿である!!」
だがそれよりも俺の錬金術が完成する方が遥かに速かった。
既に錬金鍋の中の液体は無くなっている。
「さあ、我が前に汝が姿を晒せ!新紡の糸よ!」
そして俺は錬金鍋の中から黄金色の糸を取りだした。
△△△△△
新紡の糸
レア度:PM
種別:道具-罠
耐久度:100/100
特性:フラジル(脆く砕けやすい)
リジェネ(回復力を強化する)
ソフト(柔らかくしなやかである)
それはCommonではなくSoleである。
黄金色の輝きを持つ糸。
熱と電気をよく通し、腐食に強いこの糸の強度は決して高くない。
だが、切れても自然に繋がり、直るという不思議な力を有している。
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【ゾッタの錬金レベルが6に上昇した。錬金ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】
△△△△△
ゾッタ レベル6/6
戦闘ステータス
肉体-生命力13・攻撃力10・防御力10・持久力9・瞬発力10・体幹力10
精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7・回復力18+2+3・感知力10・精神力11+1
錬金ステータス
属性-火属性10・水属性10・風属性10・地属性10+1・光属性7・闇属性10
分類-武器類12・防具類10・装飾品13・助道具13・撃道具10・素材類13
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07/28誤字訂正