53:9-9
【ゾッタは『柔軟な球根の王』を倒した】
「はぁはぁ……」
頭の中でボスを倒した事を示すようなファンファーレが鳴り響く。
どうやら俺は守りを捨てて攻撃を仕掛けると言う賭けに勝ったらしい。
【素材とホムンクルスの核、どちらを入手するか選択してください】
「考えるまでもないっての」
俺は目の前に表示された入手するアイテムを選ぶ画面で迷いなくホムンクルスの核を選択し、インベントリ内にそれを収める。
そして、一応説明を確認してみる。
△△△△△
柔軟なホムンクルスの核
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:ソフト(柔らかくしなやかである)
ホムンクルスの核となる菫青色の珠。
自動生成ダンジョンのボスたちが所有しているが、正体は不明。
傷一つ無い完全な球形を為している核は非常に稀である。
※入手者以外の所持不可能。
▽▽▽▽▽
「よし」
俺は思わずガッツポーズをとる。
これで後は持ち帰り、錬金すれば、俺もホムンクルスを得る事が出来る。
尤も、手を抜いた間に合わせの物を作る気も、普通のホムンクルスを作る気も俺には無いが。
【ゾッタの戦闘レベルが6に上昇した。戦闘ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】
「ああ、こっちもか」
レベルが上がったという事で、俺は続けて画面を操作。
折角だからと回復力をさらに1上げる。
こうなればもう素で20に到達するまで上げてしまうべきだと思ったからだ。
△△△△△
ゾッタ レベル6/5
戦闘ステータス
肉体-生命力13・攻撃力10・防御力10・持久力9・瞬発力10・体幹力10
精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7・回復力18+2+3・感知力10・精神力11+1
錬金ステータス
属性-火属性10・水属性10・風属性10・地属性10+1・光属性7・闇属性10
分類-武器類11・防具類10・装飾品13・助道具13・撃道具10・素材類13
▽▽▽▽▽
「次は?」
さて、ここまでシステム的な処理が続くなら、他にも何か有ると考えるべきだ。
俺はそう判断して少し待つ。
すると俺の予想通りに次のメッセージが表示される。
【自動生成ダンジョン『柔軟な森の洞窟』をクリアしました。以下の選択肢からお選びください】
「これは……ありがたいな」
俺の前に表示された画面には、三つの選択肢が表示されていた。
つまり、このままこの場に留まる、ダンジョンの入り口に転移する、自分の所属する錬金術師ギルドの本部に移動するかである。
「もう今日は疲れたしな。素直に帰って寝よう」
当然俺は三つ目の選択肢を選んだ。
長時間に及ぶ戦いで、既に精神状態が限界に近づいていたからだ。
そして、三つ目の選択肢を選んだ俺は白い光に包まれ、『柔軟な森の洞窟』を後にした。
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【AIOライト 9日目 22:37 (2/6・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】
「……っと」
白い光が止むと、そこは既に人影もまばらとなった『
ただ、転移された位置は死に戻りをした時に送られる位置ではなく、専用の場所のようだった。
「おや、ゾッタ君」
「番茶さん」
なのでまあ、自動生成のダンジョンのボスを倒した人間を待っていたであろう番茶さんがそこに居る事は何もおかしくは無かった。
「……。なるほどねぇ、一人でボス討伐とは……」
「我ながらよく勝てたと思います」
荷物を自室の倉庫ボックスに預けてきた俺は、番茶さんと情報交換をしていた。
と言っても、俺が出す情報はそこまで大したものではない。
『柔軟な森の洞窟』の構造にモンスター、ボス、それに特性:ソフトと状態異常ペインについてぐらいだ。
「まあ、君自身が感じている通り、色々な物がぴったりとはまりあった結果だろうね。私の考えが正しいなら、ゾッタ君が戦った『柔軟な森の王』はトッププレイヤーたちでもハメ殺される可能性がありそうだ」
「そうですね。相性が良かったのは確かだと思います」
対する番茶さんからの情報は多岐に渡った。
今日までに判明したホムンクルスの基本的な仕様。
新たに確認された素材、モンスター、特性について。
ヒタイ周辺のマップの調査状況。
ヒタイ内部の各種情報。
危険な可能性の高いプレイヤーの動向。
その他諸々の『AIOライト』の仕様。
どれも俺にとっては貴重な情報だった。
「しかしまあ、私から出せる情報の質が悪くて心苦しいね」
「そうですか?」
が、番茶さんにとっては、これだけの情報を出しても俺の情報には釣り合っていないと感じられるようだった。
「そうだとも。状態異常ペインと特性に関係なくその状態異常を使うプラティプス。この情報は非常に重要だ。それこそ各人が今後の身の振り方や対策を考えないといけない程度にはね」
「はあ……?」
どうやら番茶さんにとってはペインとプラティプスについての情報は非常に価値があるものだったらしい。
だが俺には番茶さんが言う程の価値があの情報にあるとは思えなかった。
ペインの痛みは激痛と言っても幻の痛み、気合を入れれば耐えられる程度の物でしかないのだから。
知らないのは流石に拙いが、知っていれば問題はない。
俺にとっては既にその程度の意識だった。
「さて、もう夜も遅いのに引き止めて悪かった。それじゃあ私はこれで。掲示板への書き込みもこちらでやっておくよ」
「はい、お願いします。じゃあ、お疲れ様でした」
まあ、この辺りは個々人の認識の差だろう。
俺はそう判断すると、情報交換を切り上げ、自分の部屋に行って力尽きるように眠り始める。
「……」
きちんと体力を回復させなければいけない。
なにせ今日までは所詮素材集め、錬金術師にとって本番は明日からなのだから。
07/27誤字訂正