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【AIOライト 9日目 18:00 (2/6・晴れ) 『柔軟な森の洞窟』】
「やっとか」
ソフトプラティプスとの戦闘からおおよそ四時間。
休憩を挟みつつ『柔軟な森の洞窟』の探索を続けていた俺は、第三階層に到達していた。
「しかし……」
そして第三階層に着いた俺は、真っ先に見えてきたそれ……見るからに他の扉よりも豪勢であると同時に、南京錠のようなものが付けられて封印されている扉に対して困惑せずにいられなかった。
「いきなりか」
俺はここで情報を思い出す。
トロヘルと掲示板の情報によれば、ボスが居る部屋はそうだと分かるようにとの配慮なのか、他の扉よりも豪華であると同時に封印のような装飾が付けられているとの事だった。
なので、俺の前にあるこの扉をくぐれば『柔軟な森の洞窟』のボスと戦えることは間違いない。
「……」
ではボス戦はどうなのか。
ボス戦自体は扉をくぐればすぐに始まる。
扉から外に出れば、ボスのHPが全回復するのと引き換えに、ボスの追撃は心配しなくてもよくなる。
ボス部屋はパーティあるいはパーティを四つまでくっつけるアライアンス単位で挑むようになっていて、別のパーティやアライアンスが挑んでいる所に割り込む事は出来ないようになっている。
それと余談だが、ボスを倒してもそのダンジョンが即座に消滅するようなことはない。
自動生成ダンジョンが消滅するのは、残り時間が無くなった時だけであるらしい。
「アイテムは……」
俺は念のためにアイテムの残りを確認する。
が、変化は殆ど無い。
柔軟な綿の実とモンスター素材が幾つか増えて、満腹度回復のための普通のリンゴが一つ減っただけだ。
それとソフトクラブのハサミなど、インベントリに空きが無かったので一部のアイテムは捨てているが、そのおかげで持ち帰る価値がありそうな物でインベントリが溢れかえっている事も変化ではあるか。
……。
普通に考えれば一度帰るべきなのだろう。
ボスに来るまでの道のりは変わらず、ボス戦にはボス戦用の準備という物があり、貴重なアイテムをロストする可能性は可能な限り低くするべきなのだから。
だが、俺の直感は俺に対してこう囁いている。
『恐れずに進め』
と。
うん、俺の直感ではなく、あの
した上で行こう。
アイテムを失ったらその時はその時でいい。
「よしっ」
そして俺は扉にかかっている南京錠に手で触れて解除し、部屋の中に入った。
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「さて……」
部屋の中は暗かった。
天井の枝葉の間から月の光のようなものは射し込んできていたが、それ以外に光源は無く、ギリギリで俺の足元と周囲が見えるぐらいの暗さだった。
「何処から……」
部屋の空気は冷えていると同時に湿り気を含み、清涼で神聖で、柔らかそうな雰囲気を漂わせている。
床は相変わらずの柔らかい部位を含んだ木の根で、壁も同様。
柱のようなものは一本たりとも見当たらない。
本当にただただ広い広間と言う感じである。
「来る?」
音はない。
俺自身の心音が聞こえてきそうなほどに耳を澄ましているが、俺自身が発しているもの以外に音はない。
だから俺は慎重に、ゆっくりと、何時何処から敵が出て来てもいいように広間の中を進んでいく。
「……!」
暗闇の中で何かが動いた気がした。
なので俺は反射的にそちらに注意を向け、腰を少し落とす。
そしてその反応は正しかった。
「出たか……」
暗闇の中から俺の方に向けてゆっくりと近づいてくる物があった。
「キューン、コーン」
それは直径1メートルほどある球体の本体に、下には足代わりであろうひげ根と呼ばれるものを何十本と付け、上には先端につぼみと葉っぱを付けた蔓を三本ほど生やしたモンスターであり、目や耳などと言った感覚器の類は見つけられなかった。
頭上に浮かぶマーカーの色は当然赤、そして形状はボスである事を示すように、一般のモンスターとは少し違う形状をしていた。
「キューン……」
モンスターの名前は『柔軟な球根の王』Lv.10。
見間違う事なく『柔軟な森の洞窟』のボスである。
「コオオォォォォン!」
「ぐっ……」
そして、『柔軟な球根の王』の咆哮と共に、マーカーの横で『柔軟な球根の王』のHPバーが一気に伸び、それに合わせるように広間の暗闇が幾らか薄くなったところで戦いが始まった。
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【AIOライト 9日目 18:05 (2/6・晴れ) 『柔軟な森の洞窟』】
「キュコオオオォォォン!」
「っつ!『リジェネ』『ソイル』!」
戦闘開始と同時に『柔軟な球根の王』が動き出す。
ひげ根を動かして少し前進をしつつ、芽を出す部分から生やした蔓の一本を鞭のように、勢いよくこちらに向かって振るってくる。
対する俺は反射的に新緑の杖の魔法を発動。
自身の回復力を高めた上で武器を構え、蔓を真正面から受けるような体勢を取る。
「っつ!?」
その行動の結果は?
蔓が俺の右腕に当たり、HPバーが10%ほど削れる。
それは速さと避け辛さも含めれば痛い一撃であったが、ボスの攻撃としてみれば温い攻撃でもあった。
つまり、特性:ソフトは俺に対して有利な方向で働いていた。
「いける!」
故に俺は『柔軟な球根の王』に駆け寄ると、全力で右手の斧を叩きつけた。
さてボス戦です