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本日は二話更新になります。

こちらは二話目です。

「ギア……ガ……アアアァァァ!?」

「ぐわ、ぐあ、ぐわ」

 腹の中を無造作にかき回されているような感覚だった。

 それもただの金属の棒でかき回されているのではない。

 棘の付いた鉄杭を、赤くなるまでに熱した上で、グルグルと回しながら、痛みに慣れないように緩急を付けつつ、何十度も出し入れされているような痛みであり、痛みが強くなるたびに俺の意識を持って行かれそうになる感じがした。


「ヒグ……アッ……ギイイイィィィ!?」

 俺はこの異常事態に視界の左上隅にある自分のHPバーを確認する。

 そして自分の身に何が起きているのかを認識する。

 HPバーは殆ど減っていなかった。

 だが、その下には二つの状態異常を示すアイコンが表示されていた。


「これ……は……」

 一つ目の状態異常はポイズン。

 直訳して毒の名の通り、俺のHPバーを少しずつ削っていっているようだった。

 しかし、不快感を与える力はあっても、今俺が感じているような激痛を与える力はないと考えてよかった。

 なぜならば……


「ペイン……だと……」

 二つ目の状態異常の名がペイン(激痛)だったからだ。


「グギッ……グゾッ……」

「ぐわ、ぐあ、ぐあ」

 ソフトプラティプスが地面に倒れ、痛みで動けなくなっている俺を見て笑っているように感じた。

 いや、コイツは間違いなく笑っていた。

 俺に抵抗する力はないと思い、自らの余裕と強さを示す為に笑っていた。


「ぶざげやがっで……」

 だがしかし、その余裕にも納得は行く。

 現に俺は今この場で動く事が出来なくなってしまっている。

 プレイヤーによってはこの痛みだけで気を失う事だってあるだろう。

 いや、それどころか戦いそのものに対してトラウマを覚え、二度と武器を握れなくなるかもしれない程だった。

 ソフトプラティプスの見た目に惑わされ、初撃の危険度を見誤った対価は途方もなく大きかった。


「ぐあっ、ぐあっ、ぐあー!」

 ソフトプラティプスが跳躍し、空中で縦方向に回転しながらこっちに向かってくる。

 なにを狙っているかなんて考えるまでもない。

 あの平たい尾を勢いよく俺に叩きつけてくるつもりなのだろう。

 その攻撃には大して威力は無いだろうが……ペインと言う状態異常が有れば威力なんて必要無いに決まっている。

 だって相手は一歩も動けないのだから。


「なめ……」

 そんなソフトプラティプスの舐めた行動に俺の中で何かが弾けた。

 あの新芽の指輪を作った時のざわめきを払うのと同じように。

 こんなただの痛みになど負けられない、負けていられるかと俺の中の何かが叫んでいた。


「るなぁ!」

 気が付けば俺の身体は勝手に動き出していた。

 痛みが無いわけではない。

 それどころか全身がバラバラに分解されるような痛みだった。

 だがそれでも俺は動いていた。

 動いて武器を構えていた。


「『リジェネ』『ソイル』!!」

「ぐわっ!?」

 ソフトプラティプスの尾と俺の左腕が当たる瞬間に、俺は新緑の杖の『リジェネ』と『ソイル』を発動。

 『リジェネ』の効果によって杖から伸びてきた茨によってソフトプラティプスの尾を絡め捕り、その場から動けないようにする。


「ぐあっ!ぐあっ!ぐあー!」

 拘束から逃れようと、ソフトプラティプスが俺の身体を何度も蹴ってくる。

 その度に俺の身体に激しい痛みが襲い掛かり、意識が飛びそうになる。


「たっぷりと……」

 だがそれに何の問題があるだろうか?

 この痛みはHPバー()を削る力を持たない。

 ただただ、痛みによって相手を拘束するだけの状態異常(データ)に過ぎない。

 そんなものを何故恐れる必要があるのだろうか。

 ただ痛いだけの状況など……理解し、慣れれば……どうと言う事はない。


「やりかえしてやらぁ……」

「ぐわ!?」

 俺は斧をゆっくりと振り上げ、そして振り下ろす。


「お前が……」

 一度だけでなく、二度、三度と。


「くたばるまでなぁ……」

「ぐわわわわー!?」

 お互いに逃げられない状況下で、ソフトプラティプスのHPが尽きるその時まで何度も斧を振り下ろす。


「ぐわ……」

「くたばったか」

 やがてソフトプラティプスのHPバーは尽きる。

 その頃にはどちらの状態異常も解除されていて、HPバーは全く減っていなかった。

 どうやら『リジェネ』と『ソイル』の効果によって強化された回復力に、ソフトプラティプスの攻撃力と毒では僅かに競り勝つ事も出来なかったらしい。


「ふぅ……回収だな」

 俺はソフトプラティプスの身体に剥ぎ取り用ナイフを突き立てる。



△△△△△

ソフトプラティプスの蹴爪

レア度:1

種別:素材

耐久度:100/100

特性:ソフト(柔らかくしなやかである)


ソフトプラティプスの後ろ脚に付いている爪。

突き刺した相手に激痛を与える毒が含まれており、取り扱いには注意がいる。

▽▽▽▽▽



「使い道は……まあ、幾らかはあるか」

【ゾッタの戦闘レベルが5に上昇した。戦闘ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】

 俺はソフトプラティプスの蹴爪をインベントリに収めつつ、ステータスを操作。

 回復力を上昇させる。



△△△△△

ゾッタ レベル5/5


戦闘ステータス

肉体-生命力13・攻撃力10・防御力10・持久力9・瞬発力10・体幹力10

精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7・回復力17+2+3・感知力10・精神力11+1


錬金ステータス

属性-火属性10・水属性10・風属性10・地属性10+1・光属性7・闇属性10

分類-武器類11・防具類10・装飾品13・助道具13・撃道具10・素材類13

▽▽▽▽▽



「さて、探索を再開しますかね」

 俺は装備品を含めた自分のステータスに異常がない事を確かめると、微妙に昂った気持ちのまま探索を再開する。

 とりあえず次から見つけた敵は有無を言わさず、様子見もせず、最初から全力で潰すとしよう。

 よくよく考えるまでもなく、このダンジョン『柔軟な森の洞窟』には俺よりも格が上のモンスターしか居ないのだから。

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