5:1-2
「「「『
「は?」
扉を開けたらそこは異世界だった。
いや、誇張でもなんでもなく本当に異世界と言うか……ああいや、流石に誇張か。
でも外と中では全く別の世界だった。
建物の外は住民の日本人的な顔付きを除けば、ファンタジーものによく有る中世ヨーロッパ風の建物に石畳、衣装だったが、建物の中は江戸時代の日本のお店と言う感じだった。
具体的に言えば客が歩く場所は土間になっていて、受付であろう黒髪緑目の和服の女性が座っている一段高い場所は畳敷き、壁は樹で出来ていて、横長の机は黒檀、筆記用具として置かれているのは筆だった。
そして、建物の奥に繋がる扉はちゃんと横にスライドする障子であり、灯りも和紙に包まれた行灯が天井から吊るされている。
この場の雰囲気にそぐわないものと言えば、俺と俺より先にこの建物の中に入って来ていた抹茶頭のプレイヤー、それに土間の奥の方に用意されている謎の巨大天秤ぐらいである。
「ギルド未登録の錬金術師様ですね。こちらへどうぞ」
「あ、はい」
俺は受付の女性の言葉に応じる形で、ギルドの中を見回しながらそちらへと近づく。
それにしても……うん、人が少ない。
ギルドに入って俺がまず感じたのがそれだった。
GMによればプレイヤーの数はおおよぞ56,000人。
その8,000人の中で俺より速くこの場に辿り着いたプレイヤーが一人?
有り得ない。
既にこの場を去った事を考えても計算が合わない。
うん、俺の想像通りならしっかりと把握しておくべき何かが有るな。
「『巌の開拓者』へようこそ。登録はこちらに名前を書き、手を五秒間押し当てて貰えれば結構です」
「……」
俺の前に現れた半透明の画面とキーボード越しに受付の女性の笑顔を見た時、俺は初めてこの世界が誰かが何かしらの意図をもって作ったものだと感じた。
具体的に何処がそうなのかは言えない。
ただ、どうにも笑顔が造り物臭かったのだ。
それも彼女自身の意思ではなく、外から何者かが手を加えたような形で。
「錬金術師様?」
「いや、何でもない」
俺はキーボードで自身の名前を打ち込み、右手を五秒間半透明の画面に押し当てる。
すると何かが読み取られるような感覚がした後、頭の中で電子音が鳴る。
「登録完了いたしました。これよりゾッタ様は『巌の開拓者』所属の錬金術師となります。メニュー画面にギルドとフレンドのタブが追加されましたので、ご確認くださいませ」
「分かった」
どうやら先程の電子音は登録完了を示す物だったらしい。
で、試しにメニュー画面を開いてみたところ、確かにステータス、装備、マップに続く形でギルドとフレンドのタブが追加され、ヘルプのタブが右端に移動している。
詳しい事は……後回しでいいか。
今はそれよりも確認することがある。
「あー、そこのプレイヤーさん?ちょいといいかい?」
「はい、何でしょうか?」
と、ここで俺は自分に声がかけられたと感じ、振り返る。
するとそこには先程も見た抹茶頭のプレイヤーの男性が居た。
「私は番茶。君と同じプレイヤーで所属も同じだ」
「えーと、俺はゾッタと言います。プレイヤーで間違いないです」
抹茶頭のプレイヤーは番茶と言う名前であるらしい。
その目は
歳は……たぶんだけど俺より少し上だろう。
少なくとも成人は間違いなくしている。
「それで何の用でしょうか?」
「あー、物は相談なんだが、フレンド登録をしないかね?こんな状況でもあるし、他のプレイヤーとの繋がりは出来るだけあった方がいいだろう?」
「そう……ですね。それじゃあ、お願いします」
「ふう、良かった。では、フレンド申請を送ろう」
番茶さんはそう言うと手元で俺には見えないメニュー画面を操作する。
すると、電子音と共に俺のメニュー画面のフレンドのタブに丸で囲まれた1の数字が現れる。
と言うわけで俺はフレンドのタブをタップして画面を出し、番茶さんからの申請を受理する。
「申請を受理しました」
「こちらでも確認したよ。ありがとう」
申請を受理するついでに俺はフレンドのタブの中身を確認してみる。
が、特に変わった点は無いようだった。
機能にしても、フレンドのリストとフレンドがギルド内に居るかどうか、後はメッセージを送る機能ぐらいしかないようだ。
「さて、後確認するべきはあの天秤かな」
「あれ、どう見ても違和感がありますからね」
俺と番茶さんは背後で新しいプレイヤーが入ってくるのを感じながら、謎の巨大天秤に近づく。
「さて……」
そして試しに俺が手をかざして見た時だった。
「うわっ!?」
「ん?ははー、なるほど」
突然自分の目の前に半透明の画面がポップしてくる。
番茶さんの様子を見る限り、番茶さんの方でも同じような画面がポップしたようだった。
で、肝心の画面にはこう表示されていた。
【ギルドポータル:ゾッタのポータル移動先に『巌の開拓者』ヒタイ第24支部が登録された】
「色々すっきりしましたね」
「そうだね。このギルドの人気のなさに納得がいったよ」
つまり、ここは『巌の開拓者』の本部ではなく、この街の至る所にある支部の一つでしかなかった、と。
そして、この巨大天秤は一度行った本部または支部の間を自由に行き来できるようにする物、と。
そう言う事であるらしい。
うんまあ、色々と納得した。
此処が第24支部なら、そりゃあ、まだ三人しかプレイヤーが来てなくても不思議ではないな。
「さて、ゾッタ君はこれからどうするつもりだい?」
「俺は一度街の外に出てみようと思ってます。番茶さんは?」
「そうだな……彼をフレンドに誘ったら、『巌の開拓者』の本部や別の支部、ヒタイと言うこの街に着いて色々と探ってみようと思う」
「そうですか、気をつけて」
「君の方こそ気をつけて。良い情報が手に入ったら、情報交換でもしよう」
「はい」
そうして俺と番茶さんは軽く手を挙げて挨拶を交わすと、別々に行動を始めた。
11/20誤字訂正