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本日は二話更新です。
こちらは一話目になります。
【AIOライト 9日目 14:12 (2/6・晴れ) 『柔軟な森の洞窟』】
「ようやくか……」
ソフトモスを倒した後も、数戦の戦いを挟みつつ、俺の探索は続いていた。
そして、俺はようやくそれを見つけ出していた。
「情報通りで何よりだ」
俺の前にはダンジョンの入り口になっているものによく似た、けれどよく見れば上部に下向きの矢印が付いている白磁の扉が聳え立っていた。
そう、この扉こそが自動生成ダンジョン内で別の階層に移動するための階段だった。
「……」
俺はインベントリの中にある持ち込んだアイテムの残数を確認する。
プレンメディパウダーはソフトモスとの戦いで消費したので残り4個。
普通のリンゴは此処までの道中で減った満腹度を回復したので残り2個。
プレンカッパーボトルの中身は無し。
うん、まだ行けるな。
逃げるだけなら問題はないし。
「すぅ……はぁ……さて、行きますかね」
インベントリの確認を終えると、俺は一度深呼吸してから白磁の扉に触れ、白い光に包まれて次の階層に移動した。
「さて第二階層は……」
『柔軟な森の洞窟』の第二階層に着いた俺は、白い光が収まると同時に周囲の状況を確認する。
「特に変わりは無さそうだな」
敵影はない。
危険な構造物の類も見られない。
ダンジョンの雰囲気や材質、空気についても特に変化は見られなかった。
ただ心なしか……第一階層で聞こえていた諸々の音が小さくなったようには思える。
なんにしても、俺はこの部屋を安全な場所だと判断した。
なので、次の部屋に繋がる扉に手をかける。
「……」
扉を出てすぐ外にモンスターが居るような事は無かった。
俺はゆっくりと扉の外に出ると、第二階層の探索を始める。
「採取ポイントか」
そうして見つけたのは第一階層にもあった花畑のような採取ポイントである。
さて、第一階層では柔軟な綿の実ばかりが取れていたが、こちらではどうだろうか?
【液体状のアイテムを獲得しました。インベントリ内のプレンカッパーボトルを使用して回収します】
「ん?」
どうやら液体状のアイテムが回収出来たらしい。
△△△△△
柔軟な花の蜜
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:ソフト(柔らかくしなやかである)
甘い香りのする花の蜜。
その匂いの通りに味も甘いが、量は少ない。
▽▽▽▽▽
「花の蜜かぁ……」
残念ながら現状では使い道のなさそうな素材である。
そもそもこんな貴重品を作ってまで甘くしたいものがない。
「と言うか、液体状の物が柔らかくなるってどういう事だ?」
むしろ特性:ソフトを他の物に付けるためにこのアイテムは利用するべきなのかもしれない。
液体状のアイテムに特性:ソフトが付く意味が分からないし。
いやまあ、俺の想像力が足りないだけで効果自体はあるのかもしれない。
あるかもしれないが……うん、やっぱり思いつかないな。
強いて言えば融点が下がるとかか?
「ま、回収しておいて損はないな」
俺は柔軟な花の蜜から意識を戻すと、部屋の外に出る。
すると、遠くで何かが動くのが見えた。
どうやらモンスターがいつの間にか湧いたらしい。
「さて何……が?」
当然俺はそのモンスターの名前と姿を確かめた。
名前はソフトプラティプスLv.6、これはまあ、問題ない。
問題はその姿。
胴体は間違いなく水棲の哺乳類のそれであり、ヒレ付きの手足と平たい尾を持っていた。
だが頭部についているのは間違いなく鴨の嘴だった。
と言うかこの生物は……
「プラティプスってカモノハシかよ!?」
「ぐわっ?」
カモノハシだった。
「初めて本物……本物?ああうん、とにかく初めて見たな……」
俺はカモノハシ……ソフトプラティプスの頭上にあるマーカーがアクティブである事を確かめると、斧と新緑の杖を構える。
ソフトプラティプスの体長はおおよそだが1メートル半、現実に居るであろうそれよりもだいぶ大きい……と、思う。
つまり、マーカー通りにコイツはモンスターなのである。
である以上は見た目はどこか間抜けそうに見えても油断してはいけない相手なのだ。
「ぐあー……」
「……」
ソフトプラティプスがトコトコと言う擬音が付きそうな感じでこちらに向かって走ってくる。
その姿と鳴き声は俺に多大な脱力感を与えようとしてくる。
してくるが、それでも俺は構えを維持していた。
そうしてソフトプラティプスが俺の斧の間合いにまで来た時だった。
「がっ!」
「っつ!?やっぱりか!」
ソフトプラティプスが俺に向かってドロップキックをかますような姿勢で飛びかかってくる。
それも見た目よりもかなり速く。
「だが……」
俺はそんなソフトプラティプスの攻撃を武器で受け止めようとした。
が、よく見ればソフトプラティプスの後ろ脚には爪が付いており、その爪の先端はほんの少しだが俺の腹にめり込んでいた。
だが、この程度なら何の問題もない。
俺がそう思った瞬間だった。
「う?」
赤くなるほどに熱せられた棘付きの鉄杭によって腹を刺された。
そうとしか表現のしようのない痛みを俺は覚えた。
そして次の瞬間には……
「ガアアアアァァァ!?」
俺はあまりの痛さに絶叫を上げていた。
雄のカモノハシの蹴爪には毒がある