48:9-4-D3
本日は二話更新になります。
こちらは二話目です。
「と言うかどんなモンスターだよこれ」
「モスーン……」
俺は改めてソフトモスと言う名のモンスターの姿を確かめる。
見た目は本当に苔の塊が動いている感じだ。
口もないのに何故か鳴いているという点はさて置き、眼も鼻も、手足の類も見られない。
一番簡単にその姿を表すのであれば……黄身がきちんと膨らんでいる目玉焼きの形をした苔の塊と言う所か。
まあ、直径が2メートルを超え、体高も1メートルを超している目玉焼きなど現実には有り得ないだろうが。
更に言えば、ゆっくりではあるが、そんな物が自分の側ににじり寄ってくる状況など夢でも早々無いだろう。
「……」
いずれにしてもレベルが上である以上は最大限の注意を払うべき。
そう判断した俺は斧と新緑の杖を自分の前に構えると同時に、相手の様子を窺っていた。
「モー……」
「ん?」
ソフトモスの身体の一部が膨れ上がり、球体のようになる。
そしてソフトモスは膨れ上がった部分に繋がる部分を後ろに逸らせ……
「スッ!」
勢いよく元の位置に戻す事で膨れ上がった部分を分離、俺に向かって苔の塊を飛ばしてくる。
「っつ!?」
俺は反射的に斧と新緑の杖で苔の塊を受け止めようとした。
だが苔の塊が俺に当たった瞬間、中から爆発的な勢いで水が撒き散らされ、全身を揺さぶられつつ俺はHPを削られ、その上で大きく吹き飛ばされて、床に後頭部を打ちつける。
「ぐっ……分かり易く魔法攻撃だな……」
「モスー……」
立ち上がった俺は自分のHPバーを見る。
すると今の一撃だけで俺のHPバーは30%以上削られていた。
つまり4回喰らえば確定で死に戻り、場合によっては3回受けただけでも死に戻る威力と言う事になる。
明らかに特性:ソフトの影響を受けていない威力である。
「おまけに範囲攻撃の性質も有りか……厄介だな。『リジェネ』」
加えて俺の周囲は今の一撃で水浸しになっていた。
そこから察するに、苔の塊が直撃しなくても、破裂地点の近くに居れば多少のダメージは受けると考えるべきである。
なので俺は被弾は避けられないと判断し、新緑の杖の魔法を一つ使っておく。
これで戦闘中でもそれなりの速さでHPが回復するはずである。
「だが、レベルの為にも逃げてはいられない!」
「モス!?」
『リジェネ』を使った俺は攻撃を終えて微睡んでいるソフトモスに近づくと、思いっきり斧でソフトモスの身体を叩く。
「うげっ!?」
「モスー……」
ソフトモスの身体を叩いた感触は非常に柔らかかった。
それこそふわふわのクッションか何かを棒で叩いたような感じだった。
そして、その感触の正しさを示すように、ソフトモスのHPは殆ど減っていなかった。
多く見積もっても5%減っているかどうかという所である。
「モー……スッ!」
「うおおおぉぉい!」
と、ここで再びソフトモスの身体から苔爆弾が投射され、俺は慌てて曲がり角の向こう側にまで移動。
「ひいぃ……」
直後、角の向こうに隠れている俺の身体にまで振動が伝わってくるような爆発が起き、大量の水と苔の塊が俺の視界の正面を通り過ぎて行った。
どうやら先程はアレが直撃したらしい。
「……いや駄目だな」
この時点で俺はソフトモスから逃げて別ルートから奥地に向かう事を考えた。
が、俺の今までの探索に基づいて記された脳内マップが確かなら、次の階層に繋がる階段があるのはこの通路の先で、他の道は存在しなかった。
そしてソフトモスを放置した場合……この先で他のモンスターなり仕掛けなりで足止めされたら……後ろからあの威力の攻撃が飛んでくることになる。
それは俺の死に戻りと同義だろう。
「放置は出来ない。『ブート』交えつつ地道に倒すしかないな……よしっ!」
覚悟を決めた俺は曲がり角から飛び出すと、こちらに向かってゆっくりとにじり寄って来ていたソフトモスに向けて新緑の杖の先を向ける。
「『ブート』!」
「モスッ!?」
俺の起動文と同時に新緑の杖の先から光の弾が発射され、ソフトモスの身体を直撃する。
だがダメージは……10%程度、どうやら特性:ソフトは物理攻撃なら大抵の物に反応してくれるらしい。
ちくしょうめ!
「殴る!」
「モモモ……」
だが、『ブート』のダメージによってソフトモスは怯んでいた。
その隙を突く形で俺は接近、三度ほどソフトモスの身体を斧で切りつける。
「モー……」
「逃げる!」
そしてソフトモスが苔爆弾を投射する体勢に入った瞬間に逃走を開始。
「スッ!」
「ぐっ……」
直撃は避けられず、飛んで来た苔の塊と水の勢いでHPバーが多少削られるも、それ以上の被害はなく、安全圏にまで移動する事に成功する。
「よし、後はこれの繰り返しだ!」
そうして攻撃が止んだところで俺は再び飛び出し、ソフトモスに攻撃を加えた。
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「はぁはぁ、何とか倒したな」
数分後。
俺は何とかソフトモスを退けていた。
HPバーは20%を切っているし、プレンメディパウダーも一つ使わされてしまったが、勝利は勝利である。
後の回復は時間はかかるが、自然回復に任せればいい。
「よし、剥ぎ取りだな」
俺はソフトモスの身体に剥ぎ取り用ナイフを突き立てる。
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ソフトモスの苔皮
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:ソフト(柔らかくしなやかである)
モスと呼ばれる生命体の表皮。
苔が生い茂っており、優れた保水性と手触りを持つ。
水を吸うと信じられないほど重くなるが、乾いていると非常に燃えやすいので扱いには注意が必要。
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「んー……悪くはない……か?」
素材としては悪くはないと思う。
が、あの強さを考えると……集める気にはちょっとなれない。
「とりあえず50%を超えたら先に進むか」
俺はソフトモスの苔皮をインベントリに収めると、周囲に敵影が無い事を確かめてからその場で休憩を始めた。