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本日は二話更新になります。

こちらは一話目です。

【AIOライト 9日目 11:30 (2/6・晴れ) 『柔軟な森の洞窟』】


「しかし歩きづらい」

 『柔軟な森の洞窟』は床から天井まで、全てが木で出来ている洞窟である。

 だが、前述のとおりその足場は凸凹としており、全く整っていない。

 恐らくだが直線を有する場所よりも曲線を有する場所の方が圧倒的に多いだろう。


「と、また水たまりか」

 また、床の木の根の間には冷たい水が溜まっている場所が所々にあり、こちらの事を驚かせると共に、床のある位置の目測を見誤らせるという危険な罠にもなっていた。

 次に全体的な構造に目を向けてみる。

 すると、以前訪れた『回復力溢れる森の船』が場所によっては外気に晒されている通路が有ったり、小部屋が多めだったりしたのに対して、『柔軟な森の洞窟』は通路と部屋、そのどちらの大きさも形状も一定しておらず、通路が少しずつ萎んでいって行き止まりになるような構造になっている場所もあった。

 その構造の複雑さは素材が木と言うだけで、ここが洞窟には変わりない事を俺に認識させるには十分な物だった。


「お、部屋か」

 と、ここで俺は蔓と葉で造られた扉を発見したので、扉自体に妙な仕掛けが無いか確かめた後、音を立てないように慎重かつゆっくりと扉を開ける。


「敵影は無し……」

 俺が見つけた部屋の中は、他の場所と違って床一面が花畑になっていた。

 そして、花畑の中心には採取ポイントである事を示す光が表示されていた。

 他に通路は無く、入口から見た限りでは敵影もない。

 どうやら純粋な採取ポイントであるらしい。


「さて、何が取れますかね?……っと」

 部屋の中に入った俺は光に手で触れて採取を行う。



△△△△△

柔軟な綿の実

レア度:1

種別:素材

耐久度:100/100

特性:ソフト(柔らかくしなやかである)


ふわふわとした綿の実。

此処から手作業で糸を紡いでもいいが、それも錬金術を使えばあっという間である。

▽▽▽▽▽



「綿の実か……」

 綿の実ならば、用途は糸にして衣服に使う事を始めとして、数多くあるだろう。

 おまけにこれは特性:ソフト付きの綿だ。

 これまでの戦闘の経験からして、特性:ソフトが有ると打撃攻撃に対して著しく強くなる感じもあるし、中々に良さそうである。


「これは今後も積極的に回収しておきたいな」

 とりあえずこれはインベントリに空きが無くなっても捨てないアイテムの枠でいいだろう。

 その程度の価値は間違いなくある。


「逆に捨ててもいいのは……色々とあるな」

 なお、ここに来るまでにソフトリギア含めて、四匹のモンスターと戦ったが、その何れもが俺よりも高レベルのモンスターであったにもかかわらず、脅威度は低かった。

 プレンメディパウダーの一つも使わず、自然回復に任せても何の問題なかった。

 だがそれも仕方がない事だろう。


「ソフトクラブのハサミとかどうしろって感じだもんなぁ……」

 まずソフトクラブ。

 体高が1メートルを超す巨大な蟹のモンスターだったが、自慢であるはずの甲殻もハサミも特性:ソフトのせいで非常に柔らかくなっており、挟まれても大して痛くはない程だった。

 そしてそのハサミを剥ぎ取れたのだが……使い道は全く思いつかなかった。

 物が切れない柔らかいハサミなどどうしろと言う話である。

 たぶん、インベントリに空きが無くなったら真っ先に捨てられるだろう。


「ソフトアントの甲殻は……まだ使えるか」

 次にソフトアント。

 こちらはソフトクラブとソフトリギアに比べれば多少は強かった。

 が、特性:ソフトによって牙が柔らかくなっていたため、有効な攻撃手段は口か尾部から撃ち出す蟻酸だけになっていた。

 そのため、その二ヶ所にさえ注意すれば、後は体高1メートルの巨体に潰されないように気をつけるだけだった。

 こちらの甲殻についてはソフトリギアの甲殻と似た用途があるだろう。


「ソフトフィッシュの鱗は……駄目だろうな」

 最後にソフトフィッシュ。

 フィッシュ……魚とあるが、謎の手段によって宙を自由自在に泳ぎ、こちらに噛み付きや体当たりによる攻撃を仕掛けてくるモンスターである。

 尤も、特性:ソフト……もう、以下省略でいいか。

 剥ぎ取れた鱗については……たぶん、使い道はある。


「んー……」

 俺は部屋を出ると、先に進みつつ改めて特性:ソフトについて考える。

 まず特性:ソフトがあると、説明通りに柔らかくしなやかな能力を得る。

 その結果として物理防御力……特に対打撃耐性が大きく伸びる。

 が、代わりに物理攻撃力は大きく下がる、鋭さを必要とする斬撃と刺突については特にだ。

 そして、これは硬い甲殻と特性:ソフトが組み合わさった場合の話だが……どうにもゴムボールのような弾力を得てしまうらしい。

 そのため、硬い甲殻持ちのモンスターたちは突進を仕掛けると、突進した勢いと同じかそれ以上の勢いでもって弾んでしまう。

 このダンジョンがレア度:1の最低レベルのダンジョンで敵のAIがそれほど賢くないのも弾んでしまう原因としてはありそうだが、それでも硬い部位を持つモンスターと特性:ソフトの相性が良くないのは確かだろう。


「となると気をつけるべきはやっぱり魔法系と状態異常系か」

 だが、特性:ソフトを硬い部位を持たない、あるいは頼みとしないモンスターが持っていたら?

 その場合の厄介さは推して知るべきだ。

 俺の斧もメイスや鎚程ではないが、打撃攻撃に近い要素を持っているのだから。

 相手は一方的にメリットだけを獲得する可能性は高い。


「と、噂をすれば影ってか……」

 と、そんな事を考えつつ曲がり角を曲がった時だった。

 俺の前にどう見ても硬い部位を持っていないであろうモンスター……


「モスーン……」

「さて、倒せるか?」

 ソフトモスLv.7と言う名前を持つ、苔を一塊にしたようなモンスターが現れたのは。

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