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【AIOライト 8日目 15:15(1/6・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】


「えーと、これで素材は十分かな?」

 シュヴァリエを打ち負かした俺は街に戻ると、自室で集めたアイテムを倉庫ボックスに移すと同時に必要のないアイテムの幾つかを適当に錬金。

 そうして出来たアイテムを売却または納品することでお金を作ると、街に出て普通の小麦粉を五個、普通のリンゴを三個買った。

 小麦粉はプレンメディパウダーを作るため、リンゴは純粋な食料としてである。


「帰ったらリンゴを一度倉庫ボックスに移して……プレンメディパウダーを作って……」

 頭の中でこれからする事を思い浮かべつつ、俺は『巌の開拓者(ノーム)』ヒタイ第24支部に向けて街中をゆっくりと歩く。

 と、そうして歩き続けて、ちょっとした広場にまで来た時だった。


「ん?」

「おいおい、マジかよ」

「羨ましいなぁ……」

「俺、頑張ろう」

「これは世界が変わるな」

 その広場は妙に多くの人が賑わっていた。

 しかもマーカーを見る限りNPCではなくプレイヤーである。

 どうやら何かしらの見世物になるようなものがあるらしい。


「ちょっと失礼。何があるんだ?」

「おっ、悪いな」

「見てみろ、凄いぜ」

 と言うわけで、俺もプレイヤーの輪に加わり、その中心にあるものを見る。

 そしてこの人だかりに納得する。


「……」

「さあさ見てくれ!これがホムンクルスだ!」

 そこには一人の革鎧姿の男性プレイヤーと、無表情な人形のような女性が立っていた。

 いや、実際人形なのだろう。

 彼女の上に出ているマーカーはプレイヤーを表す緑色だが、その形はプレイヤーの物とは異なっていた。

 表情は無く、瞬きと呼吸も一定の間隔、外見も綺麗すぎたし、何と言うか自己の意思の様な物が感じられなかった。

 それに俺の目には彼女と革鎧姿の男性プレイヤーの間に何かしらの繋がりのような物があるのが感じられる。


「戦闘は勿論、ちょっとした錬金術に採取も出来る。そして何よりプレイヤーとは別のインベントリを持っている!これで食料の問題で今まで行けなかった所まで行けるようになるぞ!」

「「「おおおおぉぉぉぉ!!」」」

 人造人間(ホムンクルス)

 彼女は正にその言葉を使うに相応しい存在だった。

 相応しい存在であるが故に……俺は微妙な嫌悪感を彼女に、そして彼女の主であるプレイヤーに対して抱いていた。

 理由も分からず、身勝手な思いだと思いつつも抱かずにはいられなかった。

 そして、同時に思わずにはいられなかった。

 自分が創るのであれば、もっと違う……本当の意味で俺にしか作れないようなホムンクルスを創って見せる、と。


「と言うか、それよりも何よりも嬉しいのは容姿を……」

「おい、ゾッタ」

「ん?」

 と、此処で俺は背後から自分の名前を呼ばれたので、プレイヤーの輪から抜けつつ声をかけた人物の姿を捉える。


「トロヘルか」

「よう。どうしたそんな顔をして」

 声をかけてきたのはトロヘルだった。

 ただ、装備品は全身金属鎧に変わっており、肩の部分には小さな鳥が乗っていた。

 小鳥の上に緑色のマーカーがある事からして、これもホムンクルスであるらしい。


「まあ、ちょっと思う所があってな」

「そうか。折角だし情報交換と行くか?俺は自動生成ダンジョンのボスとホムンクルス関係で情報を出せる」

「そうだな、そうするか。俺もトロヘルになら話しても良い情報がある……と言うか、これが目に入らないはずないもんな」

 俺は自分のホムンクルスを自慢しているプレイヤーを一瞥しつつ、背中に提げている新緑の杖を軽く小突いて見せる。

 するとトロヘルは一度頷いた後に、俺を近くの通りへと手の動きで誘導した。

 さて、どういう情報が聞けるのか、実に楽しみである。



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「さてと、はっきり言って俺の持っている情報の方が微妙そうだしな。俺の方から情報を出すよ」

「そうか?俺の情報なんて掲示板を見れば載っているレベルだぞ」

「概略は、だろ」

「……」

 俺の言葉に肩をすくめて見せるトロヘルに向けて、俺は新緑の杖、それに新芽の指輪の情報画面を見せる。

 ああそれと、レア度:PMの説明が乗っているヘルプ画面についてもついでに送っておく。


「……。すまん、ゾッタ。これと釣り合う情報が俺にあるとは思えなくなったんだが……」

 で、それらの画像を見せた結果、トロヘルは見事に頭を抱えていた。

 肩の小鳥もトロヘルのポーズを真似るように翼で頭を抱えていた。

 うん、この小鳥には特に嫌悪感とかは抱かないな。


「そうか?職人スレを見たら、色々と試行錯誤をしているプレイヤーは居たぞ?」

「いやいやいや、確かに『紅蓮蜥蜴の徒(サラマンダー)』の職人スレにもシステムを利用しない錬金術を試している奴はいたと言うか、専用スレも立ってはいたぞ。けどな、どう考えてもゾッタのこれは、それらのスレに載ってた自称成功例よりも上じゃねえか」

「そうか?」

「そうだ」

 そう言うとトロヘルは熱心に俺のレア度:PMの品のヤバさについて説明してくれた。

 曰く、レア度:PMのアイテムはスレを見る限り消耗品しかまだ作られていない。

 曰く、そうして造られたアイテムはシステムで名前が決まっている物で、名付けたりは出来なかった。

 曰く、新芽の指輪の回復力+2はまだ他に例が無い。

 との事だった。

 なお、特性二つの装備品は既に確認されているそうだが、この分だと新緑の杖の魔法、『リジェネ』と『ソイル』の仕様についても未知なものである気がしてくるから不思議な物である。

 なお、どちらのアイテムも三つのアイテムを同時に錬金することで作ったと言ってみたところ……


「……」

 トドメになったらしくトロヘルは完全に絶句した。

 うーん、此処まで驚かれる事だったのだろうか?

 ちょっと意外である。

ようやくホムンクルスの話題が出せました


07/20誤字訂正

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