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【AIOライト 7日目 07:12(新月・雨) 始まりの街・ヒタイ】


 翌日。

 俺は自動生成ダンジョンについての情報を集め、パーティメンバーを募集している掲示板が無いかを最初は調べていた。

 が、今日の予定は直ぐに全てキャンセルされる事となった。


「雨……かぁ……」

 それは日付が変わった直後から降り始め、俺が起きる頃にはそれなりの激しさを以って降り続いている雨の存在。

 この雨のために、今日は殆ど全てのプレイヤーが外出を諦め、一日大人しく掲示板を読み漁るか、錬金術を行う事を余儀なくされている。


「はぁ、この世界の雨は凶悪すぎるだろ」

 たかが雨と侮りたくはなる。

 事実俺も最初は侮り、朝一番で南の森林に向かおうとした。

 だが直ぐに引き返す事になった。

 この『AIOライト』の雨に……より正確に言えば、対策なしに濡れた場合に、プレイヤーに対して洒落にならないペナルティがあった為である。


「今日はもう大人しくしているしかないな」

 全身が水に濡れたプレイヤーのペナルティは全ステータスの低下。

 それも濡れている時間が長くなればなるほど、濡れた範囲と程度が酷くなればなるほどにステータスの低下は強まり、場合によってはHPバーとMPバーが直接減り出すという恐ろしい仕様まで隠れている。

 そのため、夜間にしか出現しないモンスターを求めて、昨夜から街の外に繰り出していたプレイヤーの中には雨のダメージで死に戻りしたプレイヤーまで居るようだった。

 全くもって恐ろしい話である。


「対策アイテムも作れないしな」

 勿論、これだけの凶悪な効果を持っているだけあって、対策は存在している。

 傘の形をした武器を作り、さす事で雨を防いだり、装飾品の枠に雨具と言うのが有るので、そこから合羽を作ると言う案も掲示板では提案され、既にそれなりの効果を上げているとの事だった。

 が、残念ながら今の俺の手持ちアイテムでは、それらの対策アイテムを作ることは不可能である。

 昨日使ってしまったプレンキャタピラの皮が一枚でもあれば話は違ったのかもしれないが……まあ、使ってしまった物は仕方がない。

 そんなわけで、今日はもう諦めて錬金術師(アルケミスト)ギルドの中で大人しくしているしかないのである。


「とりあえず、倉庫ボックスの中身でも一通り検めてるか」

 個室に移動した俺は倉庫ボックスの中身を一つ一つ確かめていく。

 それは掲示板を眺めているだけではつまらないからと始めた行動だった。


「ん?あー……」

 そうしてそれを見つけてしまう。


「うん、二度目だし、見間違えようは無いな。と言うか前回よりもはっきり見えてんな。これ」

 それは新芽の指輪の時にも見た繋がりのようなもの。

 今回も三つのアイテムを一つにするべきであるように俺には感じられた。

 そう、


 回復力溢れる樹の枝。

 地力満ちた樹の枝。

 壊れた装備品(杖)。


 この三つのアイテムを一つにするべきだと俺は思えた。


「……」

 俺は少し考える。

 この繋がりに従ってシステムを利用せずに錬金すれば、また何かしらのレア度:P(プレイヤー)M(メイド)のアイテムが得られるのだろう。

 だが、レア度:PMのアイテムを得てどうする?

 レア度:PMのアイテムを作る意味はあるのか?

 これは新芽の指輪を作った時から、暇を見ては思い続けていた問題だった。


「でもまあ、恐らくはそうなんだろうなぁ……」

 しかし、今になって少し思っている事がある。

 もしかしたら、『AIOライト』のクリア条件である賢者の石、それはレア度:PMのアイテムではないのかと。

 あのGM(ゲームマスター)がこんな事件を起こした目的が賢者の石にあるとするならば、賢者の石がGM本人にはどう頑張っても作れず、プレイヤーならば作れるものだとしたら。

 そう考えたら、俺のこの考えはそれほどおかしな話でも無い気がする。

 根拠も何も無い、肝心な部分に妄想に近い推論が混じっている話なので、信頼性など欠片もない話だが、十分あり得るのではないかと思う。


「もしこの考えが正しいなら、レア度:PMを自由に作れるようになるぐらいでないとゲームクリアは出来ないのかもな」

 俺は改めて三つのアイテムを見る。

 俺の目には相変わらずこの三つのアイテムが繋がっているように、一つにするべきであるように見えた。


「……」

 レア度:PMのアイテムを自由に作れるようになるためには、俺にはまだまだ経験が足りない。

 経験を積むためにはレア度:PMのアイテムを一つでも多く作ってみなければいけない。

 その経験を積むためには……この機会を逃す目はない。


「結局はお前の掌の上ってか?まったく、あの悪魔の掌はどんだけ広いんだか」

 だがそれはあのGM……悪魔の思惑に乗る事でもある。

 正直に言って腹立たしい。

 普通のレア度:PMのアイテムではあの悪魔の思惑を外れる事は出来ない事が決定づけられたようなものだからだ。


「だが、その思惑全てに乗ってやる気はねえ。絶対に何時か出し抜いてやる」

 俺は三つのアイテム以外を倉庫ボックスの中に仕舞うと、錬金鍋の前に立つ。


「だから今回も少しだけ乗ってやる」

 そして、少しだけ気合を入れ直した。

人なんだから、雨を浴び続けてたら死にます。

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