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【AIOライト 6日目 6:25(1/6・晴れ) 南の森林】


「さて、どうにかして今日中に戦闘レベルを3まで上げたいな」

 俺は街の近くで採取だけしているパーティの間をすり抜けつつ、南の森林の奥地に向かって歩いていく。

 今日の目的は装備品の作成に使えそうな素材の確保と、未だに2止まりな戦闘レベルを上げる事。

 そんなわけで、敵の出現率が落ちる街、あるいは他のパーティの近くに用はなく、倒せる範囲でレベルの高い敵が欲しいところであり、掲示板情報ではあるが、街から離れるほど敵のレベルが高くなるという情報が有ったので、その情報を信じて今日は移動をしている。


「リジェネパンプキンは無理でも、リジェネスケルトンぐらいは早くどうにか出来るようになりたいよなぁ……」

 なお、今日もパーティを組む気はない。

 既に掲示板の検証班の働きでもって、パーティあるいはアライアンスを組んで戦闘を行うと、その規模に応じて入手できる経験値の量にマイナスの補正がかかる事が判明しているからである。

 また、PKについても一切のメリットが存在しない事が判明しているので、本物以外でPKプレイヤーが発生する可能性は考えなくてもいい。

 そんなわけで、今後も固定面子で組むならばともかく、今の時点では一時的に組むパーティにそれほどの価値は無いという事で、今日もソロなのである。

 フレンドが居ないわけでは無いのである。

 周囲からは何故かそんな感じの視線を向けられているがな!


「……。とりあえず早く奥地に行こう」

 そうして俺は少し歩速を速めるのだった。


--------------


「素材は……いい感じに集まってるな」

 南の森林の奥地。

 既に周囲に他のプレイヤーの姿はない。


「普通の丸太は武器に……」

 素材については此処に来るまでの道中で俺の武器である斧の柄に使えそうな普通の丸太を回収している他、防具の素材として使えそうなプレンキャタピラの皮を回収している。

 プレンキャタピラの皮についてはたしか一日目にも回収していたはずなので、それと組み合わせれば胴防具の一つぐらいは作れるはずである。

 本音を言えば芋虫の皮ではなくヒツジの毛とかイノシシの皮とかから防具を作りたいところだが、『AIOライト』のモンスターのポップ率と種類の多さを考えると、今はとにかく数を揃えることに専念するべきだろう。

 こだわりのある装備なんてのは、それを作れるだけの地力がついてから作ればいいのだ。

 新芽の指輪(レア度:PM)なんて物を既に作ってしまった俺が言っても説得力はないかもしれないが。


「しかし、この出現率だと、やっぱりレベル4か5くらいからは自動生成ダンジョンに潜ること推奨なのかね……」

 なお、街から此処まで俺の戦闘回数はたったの三回であり、未だに戦闘レベルは上がっていない。

 戦闘が目的で出て来ているのに酷い話である。


「と、この採取ポイントからは普通に採取しておくか」

 見つかるまで気長に探すしかない。

 そう判断した俺はとりあえず手近な場所にあった樹の幹の採取ポイントに手で触れる。

 斧による採取で丸太ばかり集めているのも、それはそれで問題があるからだ。


「何が……は?」

 で、そうして採取したアイテムを見て……俺は思わず固まっていた。



△△△△△

地力満ちた樹の枝

レア度:1

種別:素材

耐久度:100/100

特性:ソイル(地属性の力を宿している)


手折りされた極々普通の樹の枝。

だが使い道は様々である。

▽▽▽▽▽



「……」

 名前が違っていた。

 特性が違っていた。

 俺は思わずヘルプを確認した。

 そして一応納得はして落ち着いた。

 なんと言うか……うん、地上でもプレン以外の特性が付いた素材が採取できる可能性ってあるのね。

 確率は著しく低い上にプラスの特性が付くとも限らないし、目当ての素材に付いているとも限らないけど、そう言う事もあるのね。

 一瞬どういう事かと思ったよ。


「んー……これはもう帰れというお達しなのか?」

 いずれにしても回収出来た以上は持ち帰りたい。

 特性ソイルはどう見ても有用そうな特性だし、これを死に戻りでロストするのは勘弁したい所だ。

 だが、今日森に来た肝心の理由、レベル上げについてはまだ終わっていない。

 多少悩ましいところである。


「そうだな。帰るか」

 俺は少し悩んだ後、今日はもう帰ることに決定した。

 レベル上げについては明日以降でも出来るが、地力満ちた樹の枝をもう一度入手出来るとは限らないからだ。

 と言うわけで俺は踵を返そうとした。


「シッ!」

「ぬおっ!?」

 踵を返そうとし……木立の向こうから飛んでくる矢に気づいて盾を構え、間一髪のところで直撃を防いでいた。


「な、何が……」

 俺は斧を構えつつ、矢を放った何者かの姿を視界の中心に捉える。


「マジか……」

「「……」」

 矢が飛んできた方向には二人の女性が立っていた。

 だがただの女性ではない。

 服装はフード付きの身軽さと森の中での作業のしやすさを優先したもので、一人は手に弓を持つと同時に腰に短剣を提げ、もう一人は自身の身長と同じくらいの長さを持つ木製の杖を持っていた。

 その髪は見事な金色で、瞳は緑色、顔つきも体つきも良く整っている。

 だがなによりも目を惹くのは、明らかに人のものとは異なる先の尖った耳だった。

 そう、何処からどう見ても、彼女たちはファンタジーものによく居るエルフだった。

 しかしこの場において最も重要な点はそこではない。


「こういうのって最初に話ぐらいは通じる物じゃないのかよ……」

「「……」」

 二人のエルフの頭の上にはモンスターである事を示す赤いマーカーが輝いており、マーカーの横には、プレンエルフLv.2と言うレベルと名前の表記もあった。

 つまり、この二人はNPCではなく、モンスターだという事である。

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