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【AIOライト 1日目 00:30(???) 初期設定用領域】


「おはようございます」

 次に俺が気が付いた時、そこは先程までのクラシックなコンサートホールではなく、白い円盤状の床の周囲に0と1の数字が滝のように流れる空間で、俺の正面には先程のGM(ゲームマスター)イヴ・リブラを二頭身にした上でデフォルメしたような生物あるいは人形が空中に浮かぶ椅子に座っていた。


「それではただいまより初期設定を始めさせていただきます。まずはお名前をどうぞ。あ、本名そのままだけは駄目です」

「……」

 俺の前に宙に浮いた半透明のキーボードが出現する。

 この場の雰囲気も含めて、とても現実には有り得ない光景だが……今更か。

 こうなればとっとと済ませるべき事は済ませてしまって、ゲーム攻略のためにあれこれ考えた方がいい。

 俺はそう判断すると何時もゲームで使っている名前をキーボードで打ち込む。


「入力を確認。『ゾッタ』様ですね。名前被りが無いかを確認しますので、しばらくお待ちください……名前被りありません。使用できます」

 本名に幾らか関わりがあるのだが、どうやら問題なく使用できるらしい。

 と言う事で俺はエンターキーを押して名前を確定させる。


「では続けて容姿の設定を行います。ご自由に御調整ください」

 俺の前に俺の姿を映した画面が現れる。

 今の俺の姿は……ああ、俺も他の連中と一緒で全身真っ黒の坊主頭になっていたのか。

 流石にこれのままは良くないな。

 と言うわけで、そう言うツールもあったという事で身長や髪形、顔については現実の俺の姿を写し取り、頭髪は濃い茶色に、目の色は藤色に、肌の色は現実のよりほんの少しだけ濃いめに変更する。


「ステータスの初期割り振りを行ってください」

 さて、ある意味此処からが初期設定の本番だ。

 AIOライトのプレイヤーは戦闘レベルと錬金レベルと言う二つのレベルを持っている。

 そして二つのレベルに対応するように戦闘ステータスと錬金ステータスという物が存在していて、それぞれのステータスには10を初期値とした12の項目がある。

 で、初期設定では各ステータスごとに3ポイントを貰い、必要ならば一部の項目のポイントを下げることでさらにポイントを貰い、貰ったポイントを12の項目へと自由に分けることになる。

 各項目の意味するところを詳しく確認するのは……今はいいな。

 時間がないし、βテストから大きく変わっている様子もない。

 そう言うわけで俺は事前に決めていた通り幾らかネタに走ったそのステータスにする。


「このステータス振りでよろしいのですね」

「大丈夫だ、問題ない」

「本当によろしいのですね?」

「いや、大丈夫だって」

 何故か二度確認はされたが、俺がネタをやりたいという理由とは別に、一応の考えがあっての割振りである。

 そう、テンプレスタンダードなステータス振りは絶対に他の誰かがやっている。

 では、もしもそう言うテンプレスタンダードだけでは詰むような状況になってしまったら?

 そんな時にステータス振り直しのような救済措置も、幾つかのアイテムや仕様を利用した抜け穴が無かったりしたら?

 向こうにクリアさせる気があるなら有り得ない話だが、可能性はゼロではないはずである。

 だから多少ではあるがネタに走っておく。

 それで俺が詰むなら、ネタに走った俺の自業自得でいい。

 MMORPGでネタに走るのだから、それぐらいは覚悟の内である。


「では、続きまして初期武器の選択をしてください」

「……」

 早速βテストには無かった項目が出て来てしまった。

 だが迷っていても仕方がない。

 と言うわけで俺は提示された武器の一覧を眺める。


「ふうむ……」

 まず俺に武術の心得はないので、使い手にそれ相応の技量を求めであろう武器……刀、弓、鞭、鎌と言った物は控えるべきだろう。

 そしてステータス振りの問題もあるが、体力的に大型の武器……大剣や大斧、大槍と言った物も止めておいた方がいいだろう。

 となると比較的軽めで、とにかく相手に当たりさえすればいい武器が狙い目だろう。


「これで頼む」

「『斧』ですね。了解いたしました」

 と言うわけで俺は斧を選択する。

 斧と言っても、よく手斧と呼ばれるようなサイズであるようだし、これならば俺にも持てて、十分な火力もあるだろう。

 それに斧と言うのは攻撃以外の用途にも使える物である。

 持っていて損はないだろう。


「では、設定を適応します」

 俺の全身が一瞬光に包まれる。

 そして光が収まった時、俺の姿は黒一色の丸坊主から、今までの選択肢に合わせた姿に変化しており、服は質素で地味なくすんだ色の無地の服に、手には手斧のようなものが、腰には手斧を収めるための鞘と、小さなナイフが収められた鞘が釣り下がっていた。

 同時に、視界の左上の隅に俺の名前、緑色のバー、青色のバーを一括りにする半透明の小さな枠が、少しスペースを余らせる形で現れる。

 どうやらHPとMP、それにステータス変化を表すための枠であるようだ。


「ゾッタ様の設定に準じて、ビギナズハンドアクス、ビギナズクロス、ビギナズグリーヴ、剥ぎ取り用ナイフを付与しました。事前登録特典としてアイオライトのピアスを付与しました」

「ふうむ……」

 それにしても……うん、付与された装備品からは初期装備特有の地味さダサさが感じられる。

 これは早く換えたい所だ。

 そう思わせる為のダサさ、地味さなのだろうけど。


「では最後に一つだけチュートリアルを」

「チュートリアル?」

「視界の左上に出現しているゾッタ様のステータスを表す枠、そちらに触りたいと思いながら、手を持っていき、タップしてください」

「ふむ……っと、なるほどな」

 俺は指示通りに左上の枠をタップする。

 すると俺の視界の中央に、俺の今の姿を映した半透明の枠が現れる。

 枠の上には他の画面を開けそうなタブも付いている。

 これは……なるほど、そう言う事か。


「ご自身の枠をタップする。あるいは開けと強く念じる。それが『AIOライト』でのメニューの開き方です。ではチュートリアル終わります。後はご自身で探り、進んでくださいませ。錬金術師らしく」

 そう言うと、伝えることは伝え終ったのか、人形はこの場から消え、後にはゲーム開始時間まで寝られるようにという配慮なのか大きめのベッドが現れる。


「さて、少しヘルプを見たら一度寝ますかね」

 なので俺はベッドに横たわると、『ヘルプ』と付けられたタブをタップして表示させた。

ゾッタのステータスについては次の話にて公開します。

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