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【AIOライト 3日目 17:32(4/6・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】
「本当に広場に面する形で建物があるんだな……」
数時間の休憩と掲示板の書き込みを終えた俺は、プレンウッドボックスを一つ作ってお金を確保すると、気分転換と街の散策を兼ねて『巌の開拓者』本部から街へと出て来ていた。
「さて、色々と探索してみますかね」
なお、陽は既に落ちる着前で、その光は綺麗なオレンジ色に染まっている。
その夕陽はとても美しいものだが……掲示板情報によれば18:00に必ず日の入りになるという、とてもシステム的な動きをするらしい。
また、日の入りが近いからだろう、東の空には既に月が浮かび始めている。
こちらも良く出来たものだが、本来の月とはだいぶ見え方が違うようで、既にメニュー画面に表示されている4/6と言う数字通りの欠け方をしている。
それは、ここがゲームの中であるとプレイヤーによく理解させる光景だった。
「さてと、準備は大丈夫だよな」
「ああ、灯りはちゃんとある」
「夜の狩りか、不安になるな……」
ここがゲームの中であると感じさせるものは他にもある。
それは人の会話だ。
「大丈夫だっての。情報はきちんと集めてきたし、対策もしっかりと立てて来ているんだからよ」
「スケルトンには打撃、ゾンビには切断、ゴーストには魔法攻撃。だよな」
「そうそう、対策さえ分かってれば問題ないっての」
「そうだな。うん、そうだ。よし、頑張るぞ」
「おう、その意気だ!」
プレイヤー同士の会話には感情やその人物の考え方と言った、その人物らしい要素がそこかしらに出てきている。
そこには完全に決められた路線や台詞のようなものは感じない。
「リンゴ、普通のリンゴは要らんかね!?」
「安いよ安いよー」
「今晩の夕食はどうしましょうか……」
「困ったなぁ、困ったなぁ」
「わーい、わーい、こっちだよー」
対するNPCはすれ違う程度の短時間では分からないが、こうして少し長く見ていれば分かる程度には機械的だ。
同じ場所を何度も通っているし、会話がループしていたりもする。
誰かの意思に操られて、動いている事が分かるように。
「……」
気分転換に来たはずなのに、何だか逆に気分が落ち込みそうになってしまった。
それにしてもレンタル部屋のカロリーバー(無味)と言い、どうしてこんな仕様に……って、そこまで深く考える事でもないか。
だってそうだろう。
「ここはゲームの世界。GMはプレイヤーに賢者の石を造らせてクリアさせたい。となれば……」
居心地が良すぎる世界だったら、この世界に居続けたいと思ってしまう。
クリアに伴って消えてしまうかもしれないこの世界に。
それはGMにとっては困った事態なのだろう。
だからそれを防ぐためにわざと気味を悪くしている。
足を止めない人間には分からない程度に、足を止めている人間には分かるようにNPCの挙動を不気味な物にする事によって。
積極的に先に進まなければいけないと思わせるために不便にしている。
人の三大欲求の内の一つ、食欲を満たすための物をわざと粗悪にする事によって。
「はぁ……こうしてみると見事に踊らされてんなぁ……」
俺は思わず物陰で溜め息を吐く。
なにせ、この事実に気づく事もまたあのGMにとっては想定の範囲内であろうし、気づかれても何ら問題の無いものであるのだから。
ゲームの中に居るプレイヤーの選択肢は一つしかないのだから。
「……」
しかしそうなると一つ謎が残る。
一体なぜ、あのGMはこんな事件を起こしているのだろうか?
何だかどうにもちぐはぐな感じがしてしょうがない。
「この『AIOライト』と言う作品を誰かに自慢したかった?」
口に出しつつも、俺は内心で即座にそれを否定する。
これだけの世界を造れる事を自慢するのであれば、NPCの挙動に不自然を残すなんて真似をするはずがないからだ。
「ただの愉快犯……と言うのは考えないでおこう」
ただの愉快犯と言う説は一番ありそうだが、その場合何をどう考えても無駄そうなので、この説についてはこれ以上考えない事にする。
「となると……俺たちプレイヤーにゲームの中で何かをさせたいとか?」
後考え付く理由としては、俺の頭ではこれを思いつくのが精一杯だった。
しかも思いついたと言っても、具体的に中で何をさせたいのかまではまるで分からない。
そもそも、プレイヤーに何かをさせたいという事は、その何かはあのGMでも不可能な事であるはず。
こんな世界を作り上げられる存在が出来ない事があるとは俺には到底思えなかった。
それにゲームが現実の一部である事は確かでも、ゲームの中で何かをしたからと言って直接現実に何かを影響を与えるなんてことは有り得ない……たぶん。
うん、あのGMにこの『AIOライト』だしな。
有り得ないなんて発想は捨てた方がいいかもしれない。
「そう言う事なら……少し試してみてもいいのかもしれないな」
いずれにしてもだ。
あのGMを出し抜こうと思ったならば、ほんの少しずつでもいいから枠の外に、他のプレイヤーたちが不可能だと思っている事が本当に不可能かを調べるべきなのだろう。
そう思いつつ、俺は部屋に戻り、明日に備えて眠りに就いた。
さて、理由は何でしょうね?