23:3-3-D2
「右よし、左よし」
通路の左右を確認し、敵影が無い事を確認した俺は静かに通路に出ると、直ぐに次の部屋の扉の前にまで移動する。
そして少しだけ扉を開けて、部屋の中に目に見える危険が無い事を確かめてから、部屋の中に入る。
「キキューイファキャファ」
「と、またアイツか……」
部屋の中に入った俺の耳にモンスターの鳴き声が聞こえてくる。
声の主の名前はリジェネブロッサムと言う、俺の身長ぐらいある巨大な花の中心に立派な牙が生え揃った口を持ち、棘付きの茎や葉を巧みに動かして這い回る大型モンスターである。
うん、見た目だけで今の俺が勝てないと分かったのでガン逃げしている。
「しかしまあ、本当に何なんだろうな。ここは」
『回復力溢れる森の船』に突入してから既に一時間ほどが経っている。
その時間の大半は今こうしているようにモンスターをやり過ごそうと息を潜める時間だが、後姿と名前だけならばリジェネスケルトンとリジェネブロッサム含めて既に5種類10体以上のモンスターを確認している。
具体的に言えば鹿のような姿をしたリジェネディール、山羊の角を頭から生やすと言う正に悪魔そのものな姿を持つリジェネデーモン、俺の頭より一回り程大きい巨大な蝿のリジェネロットイトだ。
当然どれも俺より圧倒的にレベルは上で、勝てる気配は全くなかった。
少なくとももう一人か二人は居ないとどうしようもないだろう。
なお、一番よく見ているのはリジェネブロッサムだが、どうやらコイツは身体が大き過ぎて狭い通路には入って来れないようだった。
ありがたい話である。
「まあ、危険な分だけ実りは良いみたいだけど」
リジェネブロッサムが完全に通り過ぎるの待つ間、俺はインベントリに入っているそれらを見る。
△△△△△
回復力溢れる花粉
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:リジェネ(回復力を強化する)
何かしらの植物の花から採取された花粉。
正体は分からないが、毒性は持っておらず、サラサラとしている。
▽▽▽▽▽
△△△△△
回復力溢れる新芽
レア度:1
種別:素材
耐久度:100/100
特性:リジェネ(回復力を強化する)
何かしらの植物の新芽。
生命力に満ち溢れたこの様子ならば、栄養と水さえ与えればここから成長する事も可能だろう。
▽▽▽▽▽
どちらも完全に初めて見る素材だった。
何に使うのかは分からないが、錬金術に使えば間違いなく今までに無い物が出来上がるだろう。
不思議と俺はそう確信していた。
なお、今の所の回収数としては樹の枝が2本、花粉が2つ、新芽が1つである。
「……。そろそろ引き際かもな」
『AIOライト』のデスペナルティ……死に戻りの際の罰は、インベントリ内に存在している装備中でないアイテムの一部ロストと、全ステータスの一時的な低下だったはずである。
で、これはシステムに基づく話では無くただのジンクスだが、こういう時に失われるアイテムは貴重な品と相場が決まっている。
少なくとも俺の場合はそうだ。
だから、今ここで死んでしまえば折角手に入れたこれらのアイテムを失う事になる。
それは絶対に嫌な事だった。
となれば俺がするべき事は単純で、当初の予定通りにこのマップからの脱出を図るべきである。
「よし、逃げるか」
俺は部屋の外の通路にモンスターが居ない事を確認すると、マップ上に表示されている出口に向かって慎重に移動を始める。
微かな物音にも注意し、絶対にモンスターの視界に入らないように気をつけ、物陰から物陰へと移動するように道を進んでいく。
「よし、もうすぐ出口……」
そうして次の曲がり角を曲がれば、出口のある部屋がある通路にまで出られる所まで来た時だった。
「ヒュロー」
「あ……」
丁度目の前に敵が出現した。
しかもこちらを向いて。
「……」
「ヒュロ!」
頭上に輝くマーカーの色は当然赤。
その見た目はハロウィンの南瓜に蔓の身体をくっつけて空に浮かべたもので、表情と動きだけならばとてもユーモラスな物だった。
名前はリジェネパンプキン、レベルは12、格上などと言うレベルではない。
「ヒュロッハー!」
「っつぐ!?」
唖然とする俺に向けてリジェネパンプキンが手の形をした蔓で殴りつけてくる。
俺は咄嗟にその攻撃を盾で防御するが、防御したにもかかわらず俺のHPは10%以上減らされていた。
「この野郎!」
俺は斧でリジェネパンプキンの頭と胴を一回ずつ切りつける。
「なっ!?」
「ヒュロー」
だがリジェネパンプキンのHPはまるで減っていなかった。
二発合わせても1%に届くかというぐらいだった。
明らかに俺が行った攻撃……物理攻撃に対して何かしらの耐性を有している減り方だった。
しかも……
「ファッ!?」
今俺の目の前で減ったはずのHPが回復し、HPが満タンな状態に戻ってしまった。
そう、ここは『回復力溢れる森の船』。
出現する敵と素材には回復力を増強する特性リジェネが付いている。
つまり、ここに居る敵は戦闘中であってもお構いなしにHPが回復するほどの回復力を有しているのである。
「ヒュ……」
「にげっ……」
ゲーム序盤で物理攻撃手段しかないのに、物理耐性持ちが回復能力を持っている。
俺は目の前のリジェネパンプキンが現状ではどう足掻いても倒せない敵だと認識した。
認識したからこそ、その横をすり抜けて出口に向けて一目散に逃げようとした。
「ロッ!」
「ひうっ!?」
だが、リジェネパンプキンの横をすり抜けたと俺が思った瞬間、俺の前にはリジェネパンプキンの顔が有った。
「ヒュロロロロロロ!!」
「なっ……ぐっ……」
そして次の瞬間にはリジェネパンプキンが俺に向けて素早く何度もジャブを繰り返してHPバーを削り取る。
「ヒュロッハー!」
「がああぁぁぁ!?」
そうしてHPバーがミリ残りになったところでリジェネパンプキンのアッパーカットが俺の顎にクリーンヒット。
俺の身体は紅い燐光を撒き散らしながら消し飛んだのだった。
初死に戻りとなります。
ランダムだから対応不可なのが来ても仕方がないね。