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本日は二話更新です。

こちらは二話目です。

【AIOライト 3日目 10:25(4/6・晴れ) 『回復力溢れる森の船』】


「おっと……」

 周囲の光景の変化に困惑している俺の足元が唐突に揺れる。

 ただ揺れると言っても地震と言う感じではない。

 海上の船が波に揺られるように前後左右上下にゆっくりと揺れている感じだった。

 まあ、『回復力溢れる森の船』と言うマップの名前であるし、船要素としてそう言う揺れがあるのは当然なのかもしれない。


「船要素が揺れなら森要素はこの草木か」

 俺は改めて部屋の中を見る。

 部屋は床、壁、天井のいずれも木で出来ており、部屋の中にはベッドや本棚のようなものがある。

 が、造られてから相当の年月放置されていたのだろう、苔やカビが生えて来ているだけでなく、立派な草木まで生えていて、家具は一切使えず、床も何時抜けるか不安にさせるような感じだった。

 その為、この部屋の中で綺麗な物と言えば俺が入ってきた白磁の扉だけだった。


「えーと、帰るのは問題なし。と」

 俺は白磁の扉に手をかざしてみる。

 すると『回復力溢れる森の船』から脱出するかどうかを問う画面がポップしてくる。

 どうやら中に入ったら死ぬかクリアするまで脱出できないと言う事はないらしい。


「じゃ、探索を始めますかね」

 退路の確認を終えた俺は、この部屋にもう一つ存在している扉に近づく。

 そして木製のドアノブをゆっくりと回し、開く。


「……。マジか」

 部屋の外は通路だった。

 だがただの通路ではなく、昔の豪華客船なんかでありそうな、柵一つ乗り越えれば海と言うような通路だった。

 しかし俺が驚いたのはそこではない。

 俺が驚いたのは柵を越えた先に広がっている光景。


「いやまあ、ゲームなんだし、何でもアリなんだろうが……マジか」

 柵の先には海は海でも樹海としか表現のしようのない空間が広がっていた。

 そしてその空間には見るからに有毒そうな紫色の気体が漂っていた。

 俺の乗っている船は空中に浮かび、この船の数十倍はあるであろう木々の隙間を縫うように航行していたのである。


「とりあえず、柵は越えたら駄目だな。絶対に死ぬ」

 俺はそう呟きつつ、出来るだけ柵には近寄らないように、幅2メートルほどの通路の壁側を歩く事を心に決める。

 試す気はないが柵の向こう側は所謂落下死エリアだろう。

 侵入すれば問答無用の死に戻り。

 ゲームには良くある話である。


「じゃ、探索だな」

 俺は壁伝いに通路を移動し、まずは最初の部屋の隣に在った部屋に入ってみる。


「ふうむ……」

 部屋の中にはこのエリアの名前通りにとても元気そうな樹が生えていた。

 そしてその幹には採取ポイントの光が生じていた。


「とりあえず普通に採取してみるか」

 他に目立つものはないと言う事で、俺は部屋の中に入り、普通に採取ポイントに触れて、アイテムの採取を試みる。

 で、入手したアイテムの詳細を確認してみる。



△△△△△

回復力溢れる樹の枝

レア度:1

種別:素材


耐久度:100/100

特性:リジェネ(回復力を強化する)


手折りされた極々普通の樹の枝。

だが使い道は様々である。

▽▽▽▽▽



「特性リジェネ……まさか!?」

 入手したアイテムに付いている特性に俺は思わず声を上げてしまう。

 特性リジェネ、効果は回復力の強化。

 そしてこのマップの名称は『回復力溢れる森の船』。

 ここまで揃えば俺にも分かる。


「此処で手に入るアイテムには特性リジェネが付いている事か。ははっ、すげえや」

 この場所は宝の山であると。

 少なくとも回復力を上げるように色々と錬金してきている俺にとっては。


「なら、ここは気合を入れて探索しないとな」

 俺は一度頬を叩いて気合を入れ直すと、次の部屋に向かうべく通路に出ようとする。

 と、その時だった。

 俺の耳が通路を何者かが移動する音を聞き取った。


「……」

 何となく嫌な予感がした俺は少し待ち、俺が居る部屋を通り過ぎてから少しだけ扉を開けて、相手の背後を衝くように音の源を確かめてみる。


「……。なるほど、そう言う事か」

 部屋の外の通路を歩いていたのはモンスターだった。

 マーカーは当然のようにアクティブな敵である事を示す赤。

 その姿は骨だけの肉体に、剣と盾を持ったものであり、よくゲームではスケルトンと呼ばれているような存在だった。

 問題はその名前とレベル。


「リジェネスケルトンLv.8とか、どう考えても無理ゲーだな」

 リジェネスケルトンLv.8。

 俺の戦闘レベルの丁度四倍である。

 ステータスまで四倍と言う事はないだろうが……それでも無策で挑んで勝てる相手とは思えない。

 そうでなくともスケルトン自体が初見の相手なのだ。

 そこにリジェネと言う特性の効果が加わるとしたら……うん、やっぱり挑むべきでは無さそうだ。

 最悪一撃で蒸発する可能性すらあり得る。


「……」

 俺は扉を閉めて部屋の中に戻り、少し考える。

 アレがこの場における最強の敵なのか、それとも最弱の敵なのか。

 まあ、前者は無いと思った方がいいだろう。

 希望的観測過ぎる。

 後者は……あってほしくはないが、有り得そうな気がしなくともない。

 どうにもかなりこの場は特殊な場であるようだし。

 外とは色々と違うと考えるべきだろう。


「よし、見つからずに行こう。で、見つかったら全力で逃げよう」

 方針は決まった。

 回収出来るだけのアイテムだけ回収して逃げ出す。

 それが現状の俺が採れる最善策である。

 そうして俺は探索を再開した。

格上が徘徊している所から色々とお察しください。


07/03誤字訂正・タイトル変更

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