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「さて、回復したな」

 一時間ほど休んでいると、俺のMPバーは全回復した。

 これならば問題なく次の錬金術に移れるだろう。

 余談だが、HPだけでなくMPの自然回復の早さにも回復力は関わっているらしいので、大量生産を専門とする錬金術師の場合、何かしらの方法でもって回復力を補強するのはほぼ必須事項なようである。


「じゃあ次を始めますかね」

 俺は気持ちを整える意味も込めて軽く首を回すと、錬金術の鍋に手をかざして操作を始める。

 まず作るのはまだ装備枠に空いている箇所がある防具だ。


「これとこれ……と」

 と言うわけでプレントータスの甲羅と普通のロープを投入。

 錬金術の操作は融合を選択し、出来上がる先を防具分類の頭にする事で、甲羅とロープを一体化させるようにする。


「打ちこみは……」

『d0ntyo-NatotasMo kanGaereva raBBitnikatsu』

「ほいほいっと」

 そして魔力を注ぎ込んだ後、相変わらずその意味が理解できない文章を打ちこむ。

 うん、もしかしたら意味が理解できないのではなく、そもそも意味なんて最初からないのかもしれない。

 システム的に錬金術の成否を判定するだけの材料。

 そう捉えるのが正解なのかもしれない。

 システムに従って錬金を行っている限りは。


「さて出来たな」

 まあ、そんな事はさて置いて、無事に完成である。



△△△△△

プレントータスメット

レア度:1

種別:防具-頭

防御力:35

耐久度:100/100

特性:プレン(特別な効果を持たない)


プレントータスの甲羅に顎紐をつけただけの極めてシンプルなデザインのヘルメット。

防御力は確かだが、見た目を気にするものが装備するには少々勇気がいるだろう。

▽▽▽▽▽



「……」

 見た目を気にするものが装備するには少々勇気がいる……か。

 まあそうだろうな。

 今試しに実体化させてみているが、本当に亀の甲羅にただロープを付けただけだもんな。

 相当ダサい。

 ダサいが……それがどうしたという話である。

 と言うか余計なお世話である。

 ゲーム開始から経った二日で見た目にまでこだわった装備品なんて手に入れられるわけがないし、ステータスを優先するのは当たり前の話だろう。

 分かってて着用するならば、恥ずかしがらずに堂々と身に付ければいいのだ!

 そうすればダサさなんてものは自然と薄れる!

 恥ずかしがるから余計に恥ずかしいのである!


「うん、着用」

 と言うわけで理論武装が終わったところで試しに着用。

 重さに視界の制限、首の動きの阻害などが問題ないかを確かめる。

 で、マップ上で着用する分には問題ないと分かったので外しておく。

 流石に室内で着けているのは邪魔だからだ。


「さて、問題なく出来上がったところで今日のメインディッシュだな」

 プレントータスヘルムを外した俺は再び錬金術の鍋の前に立つ。

 この錬金が成功するかどうかは非常に重要だ。

 なにせ成功すれば、今後アレと付き合う必要が無くなるのだから。

 だが失敗すれば……うん、色々と覚悟することになるだろう。

 お金の消費とか、アレとの付き合いとか。


「うん……、何としてでも成功させよう」

 俺は錬金術の鍋に普通のリンゴと普通の小麦粉を投入する。

 操作選択は融合。

 目指す先は食料カテゴリ。

 魔力は当然注ぎ込めるだけ注ぎ込む。

 そして、文章の打ち込みに備えて構える。


「文章は……」

『sYockYokha 3daiyOkkyu-ga1 sOlewoMetashanto sUleha LifeALmonoT0shitE atariMaenokotdArU Daga……』

「クソジイイィィエムウウゥゥ!!オニイイィィ!アクマアアァァ!!●ァァァック!!」

 俺は思わず叫んでいた。

 正に絶望だった。

 だが想像してもらいたい。

 部屋の中に用意した塀を越えたらプレゼントを上げるよと言われて、高さ2m位の塀を想像していたら、10mくらいの塀と言うか壁だった時の絶望感という物を。

 暴言の一つや二つぐらい吐きたくなるものである。

 それでも俺は果敢に挑んだ。

 味の無い……不味いという感情すら持つ事の出来ないただ満腹度を回復させるだけのデータの塊を口にはしたくなかったからだ。

 あんなものは家畜の食べ物ですらない。

 アレは本当にただのデータだった。

 アレはもう嫌だった。

 そうしてそんな思いを抱き、注ぎ込み、文章を打ちこんだ結果は……



△△△△△

ただのゴミ

レア度:1

種別:素材

耐久度:100/100

特性:プレン(特別な効果を持たない)


ただのゴミである。

何と混ぜ合わせてもゴミと混ざったものはゴミにしかならない。

それでもゴミの中から何かを得たいのであれば……ゴミの量を増やした上で抽出してみるといい

▽▽▽▽▽



「ノオオオオォォォォ!!」

 失敗だった。

 ただのゴミが出来ただけだった。

 アレと離れる事は出来なかった。


「ちくしょう……明らかに難易度がおかしいだろうが……」

 俺は失意のまま、もう一つのただのゴミと今で来たただのゴミを錬金術の鍋に投入、抽出を始める。



△△△△△

駄目な石ころ

レア度:1

種別:素材

耐久度:100/100

特性:ユズレス(全ステータスが大幅に低下する)


何処でも拾えそうな極々普通の石。

投げつければ少しぐらいはダメージを与え、注意を惹けるだろうが、出来るのはそれぐらいである。

▽▽▽▽▽



「……。今日はもう寝るか」

 これは……うん、ヒドイ。

 脆い金塊と違って、活かしようが無い気がする。

 何と言うか、今日はもうこれ以上何かをしようとしても、全部うまくいかない気がする。

 こうなったら……寝よう。

 今日が悪い分だけ明日になればきっと何かいい事があるはずだ。



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【AIOライト 3日目 00:13(4/6・晴れ) 始まりの街・ヒタイ】


「……。三日目か」

 一度眠って目を覚ませば、丁度日付が変わったぐらいだった。

 ゲームの外でもそうだったから仕方がないのだが、完全に癖になっているらしい。


「丸二日経っているのに外の助けが無いとなると……そう言う事だろうな」

 俺たちの意識がゲームの中に閉じ込められてから既に丸二日経っている。

 なのに人が減った様子すらないとなると、アプリをダウンロードしたスマホを壊す程度では脱出できないか、脱出させる方法自体はあっても、その準備に相応の時間がかかるかのどちらかだと考えるべきだろう。

 GMの言うとおり、外と中の時間が同期しているならばと言う但し書き付きだが。


「まあ、結局のところやることは変わりないか」

 いずれにしてもゲームの中に居る俺たち側から、外に居る人たちに対して何かをする事は出来ない。

 だから外の人たちの働きに期待するのも良いが、中に居る俺たちも動くべきだろう。

 ゲームをクリアするという方向で。


「……」

 そんなわけで俺は再び眠り始めた。

 周りの空気の流れが変わったような気がすると何となく思いつつ。

興奮すると口が悪くなる系男子。

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