18:2-4
「これで……終いだ!」
「ワムギャアアァァ!」
トロヘルの大槍が地中から飛び出してきたプレンワームと言う名の巨大ミミズを真正面から突き刺し、そのHPバーを削り切る。
そしてHPバーが無くなったプレンワームはその場で力なく横倒しになった。
「ナイスキル」
「おう、そっちも盾役ありがとうな」
プレントータス、プレンラビット、プレンマッシュと順当に倒してきた俺とトロヘルの次に立ち塞がったのはプレンワームLv.2。
1とは言えレベルが上がったと言う事で少々慎重に立ち回り、基本的には俺が盾で攻撃を防ぎつつトロヘルが横から攻撃、トロヘルが狙われたらプレンワームの後ろから俺が攻撃と言うパターンで戦っていた。
が、結局のところ地中にちょくちょく潜って攻撃を回避する以外は特徴らしい特徴もない敵であり、俺が受けたダメージもいつの間にか自然回復していた。
「さて、剥ぎ取りだな」
「だな」
俺とトロヘルは剥ぎ取り用ナイフでをプレンワームの死体を突く。
すると白い光の粒子が発せられると同時にプレンワームの死体が消え……
「ん?」
「どうした?」
「いや、なんか普段と違う表示が……」
俺の前に妙なメッセージが現れる。
「……」
【プレンワームの体液を入手しましたが、液体を収められる容器がないためプレンワームの体液は破棄されます】
そして、そのメッセージを見た俺は、画面を誰にでも見えるように可視化した上でトロヘルを見せた。
「あー……、そのなんだ。こういう事もありゃあな」
トロヘルは何処か困ったような顔で俺の事を慰めてくれる。
「と言うか、あの木の箱じゃ駄目なのか」
「プレンウッドボックスは固体の素材限定の容器らしいから駄目なんだろう」
「なるほどな。しかしそうなると……液体アイテム回収用の密閉容器を今後の為に作っておいた方が良さそうだな」
「そうだな。俺もそう思う」
ただまあ、これは良い経験だと思っておこう。
液体状のアイテムは何かしらの容器を用意しておかなければ、剥ぎ取れても採取は出来ない。
それはつまり、今後の採取と剥ぎ取りを考えた場合、液体用の容器を複数用意しておくのはほぼ必須であると言う事でもある。
「しかしそうなると……ああ、その為の湿地帯か」
「たぶん、採取で粘土か何かが採れるんだと思う。後は木で樽を作るとか、獣の胃で袋を造るとか、見つかるなら瓢箪の中身をくりぬくとかもアリだと思う」
「そうだな。その辺りの素材……特に獣の胃だったら専用の容器も必要なくて、錬金レベルが低くても作れるだろうな」
幸いにして液体用の容器の素材になりそうな物の心当たりは複数ある。
と言うか、錬金術と言う物質を自由自在に変形できる技術があるのだから、発想さえあれば大抵の物は容器に出来るのではないかと思う。
そうして、一通りの事を話し合っていると、頭の中で突如ファンファーレが鳴り響く。
【ゾッタの戦闘レベルが2に上昇した。戦闘ステータスの中から上げたい項目を一つ選んでください】
「ん?」
「おっ」
どうやら戦闘レベルが上がったらしい。
そして様子を見る限りでは、トロヘルもレベルが上がったようだった。
「ちょっと待ってくれ。操作しちまう」
「俺の方もだから気にしなくていいぞ」
俺はトロヘルにそう言いつつ、戦闘ステータスの項目を見て、どの項目を上げようかと考える。
尤も、どの項目と言っても俺の場合は二択だったりするのだが。
と言うわけで俺は回復力を選択、1ポイント上げる。
△△△△△
ゾッタ レベル2/2
戦闘ステータス
肉体-生命力13・攻撃力10・防御力10・持久力9・瞬発力10・体幹力10
精神-魔法力10・撃魔力10・抗魔力7・回復力14+1・感知力10・精神力11+1
錬金ステータス
属性-火属性10・水属性10・風属性10・地属性10・光属性7・闇属性10
分類-武器類10・防具類10・装飾品11・助道具13・撃道具10・素材類13
▽▽▽▽▽
「これでよし」
これで回復力の実数値は15。
ヘルプに書いてある通りなら普通のプレイヤーの1.5倍の早さでHPバーやMPバーが回復するはずである。
抗魔力?そんな物は最初から捨てている。
持久力?10%低い程度なら、そうだと分かって行動すれば何とかなる。
そう、俺に生命力と回復力以外の戦闘ステータスを上げる気はないのだ。
目指せ肉盾、HP受け、固定ダメージなんて怖くない!
「こっちも良いぞ」
「分かった」
どうやらトロヘルも操作が終わったらしい。
余談だが、昨日掲示板で見た限りでは戦闘ステータスを上げるにあたって優先すべきはHPの量に直結する生命力でないかと言われていた。
とりあえずどれだけ上げても腐る事はないだろうと。
まあ、実際腐る事はないだろう。
HPバーが多くて困る状況など早々あるものでもないしな。
「一応言っておくが……」
「ステータスの詮索は無しだろ。分かってる」
「おう、それで頼む。ネトゲで揉める原因としてはよくあるものだしな」
「ま、知りたいって言う気持ちも分かるけどな」
なお、ステータスをどう振っているかを聞くのは、重要な個人情報を聞こうとしているという事で、基本的にNGである。
『AIOライト』でもその考えが通用するかは今後次第ではあるが……だいたいの傾向はともかく正確な数値については秘匿する流れになるだろう。
なにせこのゲームにはPKが存在するのだから。
「さて、レベルも上がってインベントリもそれなりに埋まってきた。そろそろ引き上げるか」
「そうだな。それでいいと思う。次の機会が有ったら、その時はよろしく頼む」
「おう、こっちとしてもよろしく頼むわ」
こうして『AIOライト』二日目の狩りは終わり、俺たちは人波を掻き分けてヒタイの中に戻ったのだった。
容器がないのに液体物を収められるはずがない